第3話 いざ!戦いの宴へ(改)


 荒縄で縛りつけられた俺。

 ホワイトとレッドの2人の小人達に連行され、湖畔を古城に向かって進んでいた。

 

 さて作戦はこうだ。鏡の話だとブラディ・マリーは貢ぎ物が好きだと言う。

 そこで森で迷っていた俺を捕まえた所、不思議なコイン(俺の財布に入っていた普通の小銭だ)を持っていたので女王に献上しようと古城にきた。

 ついでに持ち主の俺も、コインと一緒に差し出してもらう。

 

 そして女王が俺に近づいてきたら、激臭ミントブレスで女王に涙を流させる。

 小瓶は全員が持っている。なので誰か一番近い奴が、小瓶で涙をゲットする。

 ゲットした小瓶は、レーザーポインターを取り付ける役目のレッドに手渡す。

 そしてレッドはその小瓶を、待機チームが待つ対岸に投げる。

 ライターを使い火矢を放つ役はホワイトがやる。

 

 穴だらけの作戦だが即興だとこれくらいしか思いつかなかった。

 だが少なくとも、配下のアンデッド達と戦わずにすむ可能性は高い。

 そしてブラックは何かあった時に手助けをするサポート役として、木々に身を潜ませついて来ていた。


「俺は縛られているから、タイミングを見て天草の雫かけてくれな?」

 俺の言葉に頷く二人。

 しかし。作戦を実行に移すまでも無く、その瞬間は突然訪れた。

 

「何奴じゃぁぁぁぁ! 我が城に無断で近づく輩はぁぁぁぁああ!」

 地の果てまで響き渡りそうな大声で彼女は威嚇してきた。

 森の木々から飛び立つ鳥や動物達の鳴き声。

 湖面も彼女の覇気で波立っている。今更ながらその圧倒的な存在に身震いする。

 

 すると声を震わせながらレッドが、

「女王様。我々は森に住むドワーフ族の者です。実は我らのテリトリーに無断で入り込んで来た人間を捕まえました所、見た事もないコインを持っておりまして。どこの国の輩か分からないこの者の処分。我らでは手に余ったもので、珍しいコインを女王様に献上させて頂くと共にこの者の処遇をご相談出来ればと……」

 素晴らしい。百点満点の演じぶりだ。すると女王は、

「ふむ。献上品とな? 本来なら下賤風情が、我が眼下に入るなど極刑に値するが……。まあ最近は暇を持て余していた所じゃ。門を開けるゆえ我が城に参るが良い。謁見を許そうぞ!」

 すると門の周りには一斉に松明が灯され、古めかしい音を立てゆっくりと扉が開き始める。松明に照らされ姿を現した数百体のアンデッド達が、所狭しとひしめいていた。俺達……生きてこの城を後に出来るだろうか。

 

 門をくぐると、開いた時と同様に古めかしい音を響かせ閉まる。

 すると呼応するように場内の松明が灯り始める。

 その松明の灯りに導かれ奥の部屋に誘われる。

 誰もいないのに開く扉。そこは謁見の間らしく、広さが体育館ほどあった。 

 全て石造りのその部屋は、ただそれだけで緊張を強いる威厳をかもしだしている。

 

「我が城へようこそ客人よ。遠慮なく我が眼下まで進むが良い」

 先ほどの地響きするような大声とは違い、涼やかで冷淡な声。

 千年を生きしアンデッドを統べる女王ブラディ・マリー。

 威風堂々とした絶対君主。彼女は、部屋の奥の階上に座していた。


 てか……これはマズい! 彼女思いのほか妖艶過ぎる!

 人間サイズ? になった彼女。

 この世の者とは思えない(この世の者じゃないんだが)ほどの色気と言うか、フェロモンが溢れんばかりの超グラマラスボディのお姉さんだった。

 本当にアンデッドなのか? 

 まるでサイズの合わないボンデージスーツを身に纏っている所為か、はちきれんばかりの肉体が生命エネルギーを撒き散らしまくっている。

 本当に死んだ者すら生き返ってきそうな、豊満ボディだ。

 

「彼女の為なら……俺もアンデッドになってもいいかも」

 親の仇でも見るようなレッドの視線に俺は、心の声が漏れてた事に気づき何も無かった様に体裁繕う。女王が再び口を開く。

「これまた……品位の欠片もない貧相なエテ公じゃのう」大きくため息をつく女王。

 てかエテ公だとぉ? 誰が猿だ! 

 女王の言葉に我慢するも笑い声がこぼれるレッド。ふっ……後でコロース。


「っで? 珍しいコインとはどれじゃ?」女王の言葉にホワイトが、

「こちらで御座います。女王様」そう言うとホワイトは五歩程進み、女王の鎮座する階下で片膝を付きコインを上に掲げる。

 女王が指で合図すると何処からともなくスケルトンが現れ、ホワイトからコインを受け取り女王に渡す。後何体ここにアンデッドがいやがるんだ。

 

 受け取ったコインを眺め女王は、

「何とも不思議なコインじゃのう……。見た事もない文字が細かく刻まれておる。おい? そこのエテ公。これは何と書かれておるのじゃ?」女王の問いに、

「すいません女王様。どのコインかこちらからではわかりません。近くで見せて頂いても?」そう答えると女王はコインを指ではじき、こちらに飛ばしてよこす。

 俺の顔に向かって飛んできたコインを、何処からともなく腕が現れ受け止める。

 アンデッドだ!おちおち内緒話も出来ねぇ。

 俺はアンデッドにコインを見せられると、

「日本国、1円、平成28年」ぶっきらぼうに答える。興味深々な女王。

「にほん国――それがお主の国の名か? 聞いた事も無い国の名じゃのう。して…………何用でこの地に足を踏み入れたのじゃ?」

 

 鋭く見据える女王の瞳。この視線だけでも小動物なら死んでしまいそうだ。

「私は世界を旅し、芸を習得して回っております大道芸人で御座います」

 勿論でまかせだ。

 必殺ミントブレスを喰らわせる為には、女王に近づかなくてはならない。

「だいどうげいにん? とな? なんじゃそれは? げいと付くからには、何か面白い事ができるのか?」今までになく乗り気だ。

「左様で御座います。縄を解いて頂ければ、世界の技をお見せ致します」

 

 俺の言葉に目を細め舌なめずりする女王。

 俺に向かって指を振ると、また何処からともなくアンデッドが現れ俺の縄を切る。

 さあ! ここからが勝負だ! 息巻く俺。すると――


「まて! そこのドワーフ共を捕らえよ!」

 女王の言葉に呼応して、数十体のアンデッドが姿を現す。なぜだ? 何か警戒させる事したか?あっと言う間にアンデッドに取り押さえられるレッド達。

「女王様。一体これは……?」俺の問いに、

「いやな……どうもお前達の行動が不審でな? 捕らわれたはずのお主も、こやつらドワーフに憎しみを抱いている様にも見えん。またドワーフの方も、何やらお主を気にかけておる。まあ念の為じゃ。少なくともお主は、我を楽しませる事が出来れば無事返してやろうぞ」そう言葉を発すると一層目を細め舌なめずりする。こうなると色っぽさを通り越して寒気しかしない。


 さて……。

「一つお願いが御座います。女王様」俺の言葉に、

「なんじゃ? 申してみぃ?」

「私の芸……気に入って下さいましたらその品を、女王様に献上させて頂きたく」

「ほう? 献上とな? お主の芸とは受け渡し出来る様な物なのじゃな? して…………その代わり何を望む? もしやドワーフ共の命かえ?」 

 こちらの企みを全て見通しているかのような返答。だが俺は、

「いえ滅相も御座いません。この森の……いえ、この国の全ては女王様の物。その物の命を私の様な下賤の者が好きにして良い訳御座いません」俺の返答に、

「ふむ……では何を望むのじゃ?」女王の問いに俺は、

 

『食したいと思います!』俺の言葉にざわめくレッド達。

 

「食すとな? 人間のお主がドワーフをか?」

「いえ。食すと言っても食らうと言う意味では御座いません。それだと女王様の持ち物を頂く事になってしまいます」俺の言葉に、

「確かにそうじゃな」っと頷く女王。

「私の国では、異種間での営みと言うのが御座いまして……」

「営みとな?」訝しげに問う女王。

「はい。ようは――まぐわうのです」

 そう言って両腕を抱きしめる様に回し、女性を抱く仕草してみる。

 

「まぐわ……? ハッハッハッハッハッハッハッハッ!」

 意味が通じたのか大笑いする女王。

「これはまた一興な。人間のお前がドワーフを犯すと言うのか?」女王の言葉に、

「はい。下賤の身なればゲスの極みをと……」

 笑いが止まらぬ女王。ひとしきり笑い終えると、

 

「信じられぬな。先ほどもそこのドワーフと何やら親しげにやり取りしてた風に見えるしな。それに……ほれ?」

 女王が広間の入り口を指差すと、扉が開きアンデッドが何かを引きずってくる。

――ブラックだ。俺は顔を手で覆い、作戦が破綻した事を察した。

「どうじゃ……人間? 何か言う事はあるか?」

 さすがに千年生きてるだけあって、おいそれと騙されない。

 警戒心も洞察力も素晴らしい。だが俺は、

「私としては、そこまでこの者達に執着しておりません。が、……いささか捕らえられた身としては、尊厳を汚してやりたいと思ったまで。女王様の信頼を得る為、少し仕返しさせて頂いても?」

 

 俺を怪しむ様な目で見据えつつも女王は小さく頷く。

 俺は女王に向かって頭を下げレッドの傍に行く。

 彼女の赤い上着のボタン部分の布地を両手で持ち、左右に力一杯引き裂いた。 

 叫び声を上げるレッド。はだけた胸を鷲掴みにし俺は、

「お前ら卑しい獣風情でも、執着心があるんだな?」

 俺の言葉に見る見る顔を赤くさせ睨みつけてくるレッド。さらに俺は右手を嗅ぎ、

「やはりお前らドワーフは獣の臭いがするんだな?」

 そう言い放ち大笑いして見せる。すると、

 

 ぶっ! ――――レッドは俺の顔に向かって唾を吐いた。

 俺はゆっくりと拭き取ると、扉の外まで響き渡る程の平手打ちを彼女に浴びせた。

 レッドは口から血をこぼし睨みつけてくる。

 俺はそんなレッドを見据え、もう一度大きく右手を振り上げ…………

 

「もおぉぉ良い! よし。お主が見せる芸が面白ければ、その品と交換にドワーフ共を食する事を許そう。ただし部屋を与えるゆえ城を出る事はならぬ。それで良いか?」女王の言葉に俺は大きく頷く。

女王は小人達を取り押さえるアンデッド達に何か指示をすると、三人は手かせをされ階下に膝を付いて並ばせられる。

 俺を見る彼女らの目は、憎しみと蔑みの感情しかなかった……。

 

 まあそうだよな……もう誰の手助けも期待できない。

「それでは女王様。しばしお付き合いを。ここに取り出したるスマートフォン。外見は珍しいかもですが……別段たいした事は何も起きません」

 俺の言葉に目を丸くしてスマホを見つめる女王。

「それでは、このスマホに魔法をかけて見ましょう」椅子から前のめりになる女王。

 

 ピローン…………ピロピロリーン♪ 軽快なメロディーと共に、電源が入る。

 立ち上がる女王。

 

「なんじゃそれは! 面妖な! 生きておるのか? それは!」

 恐ろしくテンションあげあげな女王。

「それでは女王様。ここにあなた様の高貴なお姿。捕らえさせて頂いても、よろしいでしょうか?」無言で何度も頷く女王。写真を撮影しそれを彼女に見せる。

 自分の画像を見て感嘆、感激とワクワクが止まらない女王。

 俺はそっとポケットからフリスクを取り出し、口に含む。

 

「それでは女王様……とっておきの芸をお見せしたいと思います。お側に行ってもよろしいでしょうか?」

 スマホの虜になった女王は、全く疑わず俺を呼び寄せる。

 彼女の元に向かうため階段に足を進める。

 俺の手にはレッドの胸を鷲掴んだ時に奪った、天草の雫の小瓶が握られていた。

 蓋を開け自分に一振り……そして階段を上がる際レッド達にも振りかけた。

 彼女らが雫の力を発揮すれば、逃げ出す事は出来るだろう。

 後は女王に緋色の涙を流させるだけ!

 俺は悟られないように急く気持ちを抑え、ゆっくりと階段を登る。

 そして大きく息を吸い込み女王の隣へ!

 

 「食らえぇぇぇ女王! 激臭ミントブレェェェェス!」

 

 謁見の間にこだまする俺の必殺技を放つ叫び声! 

 ビックリした表情を浮かべる女王…………何も感じていないようだ。

 まさかの不発?


「お前が狙っていたのは……もしかして下賤な口臭を嗅がせることか?」

 女王は冷淡に微笑み右手を振り上げる。さっきまでの形状とは違い鋭く伸びた爪。

 あっ……鏡の精霊が言っていた、一撫で何十人を斬殺した攻撃。

 俺は死を覚悟した――すると!

 

「逃げて下さぁいぃぃぃ!」叫び声と同時に、強い衝撃が背中から体全身を貫く。

 俺は気づくと、階段下に転げ落ちていた。

 現状が理解出来ず辺りを見回すと! 俺が目にしたもの…………

 それは女王の腕に体を貫かれた、レッドの姿だった。

 

「レェェェェェッドォ!」

 

 女王は貫いた腕を振り払う様に、無造作にレッドの体を投げ捨てる。

 階段を糸が切れた操り人形の様に、階段を転がり落ちるレッド。

 その衝撃でカシャンという金属を立て、何かが俺の足下に何か滑り飛んできた。

 レッドに預けていた、レーザーポインターだった。

 

 床一面血が広がって行くレッドの下に、駆け寄るホワイトとブラック。

 見開いたままのレッドの目は微動だにしなかった。まるでガラス玉の様な瞳……。

 死なせてしまった。俺が彼女を死なせてしまったのだ。

 更に女王はホワイトとブラックにも襲いかかろうと、両腕を大きく振り上げる。

 

「ブラディ・マリィィィィ!」俺の声に動きを止める女王。

「かかってこい!化け物が!」俺の言葉に彼女の瞳は弓張り月の様に細く鋭い眼光を放ち、舌なめずりは大きな音を立て唾液が止まらない。俺はそんな女王を余所に、

「ホワイト、ブラック。お前達はレッドを連れて逃げろ!」たじろぐ2人。

「いいから行けぇぇぇぇぇぇ!」俺の言葉に大きく頷くと、壁を壊し飛び出す2人。

 女王は指で指図すると、数体のアンデッド達が2人の後を追う。

 そして俺を見据えると、

 

「っで……どうするんだい人間? 我を楽しまさせてくれるんだろうねぇ?」

 俺は女王の言葉が耳に入っていなかった。

 ひたすら考えていたのだ。

 なぜ激臭ミントブレスは発動しなかったのだろう?

 一つ考えられるのは雫の連続使用時のクールタイム。

 個人差があると言っていたが再使用時間に達していなかっただけなら、ここで死ぬしかない。しかし俺は別の考えを持っていた。

 

 天草の雫は使用者の一番秀でた才能を強化すると。

 俺の一番秀でた才能は本当にミントブレスか? 

 それはフリスクの一番の特色じゃないのか?

 

 俺は現実社会で成績を出す事が出来ず、人のフォローに徹する事で役立とうとしてきた。学生時代もパシリ王子と揶揄されたが、相手の思考を読み取り望む物を先に用意した。相手を知り生かす事が俺の生き様ともいえる。

 それが俺の一番の能力……才能じゃないのか?

 その相手を生かす才能、それが天草の雫で強化されているとすれば?

 そしてその相手を生かす能力が物にも……。

 例えばフリスクのミントパワーを、俺の能力が増大させたのだとすれば?

 さっき激臭ミントブレスが起きなかった理由は分からないが、推測通り俺の能力が触れた物をも生かす能力なら……。

 

 俺は足下に転がってきたレーザーポインターを拾い上げる。

 それを見ていた女王は、

「なんじゃ? また芸を見せてくれるのかえ?」ニヤつく女王に、

「ああ。飛びっきりの芸を――お見せしてやるよ!」

 そう言って俺はレーザーポインターの電源ボタンを押した。赤い光が伸びる。

 

 知っているだろうか……レーザーポインターは恐ろしい兵器になり得る事を。

 今でこそ規制され出力を抑えられているが、危険だから出力を抑えているのだ。

 レーザーポインターの一番の能力……。

 それは光の分散を抑え、ただ真っ直ぐにエネルギーを発する事。

 遠く――とても遠くまで光を届かせるには、恐ろしいエネルギーを要する。

 夜空に光る星々の輝きも、広大な恒星のエネルギーが始まりなのである。

 そんなレーザーポインターの光を強化、増幅出来るとすれば?

 

 俺は女王の体に向かってレーザーポインターを振るう。

 その様子に小首を傾げる彼女。

「何のつもりじゃ人間?」

 そう言って彼女は、右手を振り上げ様としたのだろう……。

 

 ゴトン…………ゴトゴト、ゴトン。

 鈍い音と共に彼女の右腕は、階段を転がり落ちる。

 

「ふぁっっっっぁっぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ!」

 叫び声とも悲鳴とも言えない絶叫が城中に響き渡る。

「黙れ!」更にレーザーポインターを振るう。

 ゴトン…………ゴトゴトゴトン。両足を失った女王は音をたて下まで崩れ落ちる。

 声にならない悲鳴。俺は彼女に近づき、左手を斬り落とす。

 芋虫の様に悶える女王。

「なあ? お前…………死なないんだよな?」

 女王は血の涙を流しながら、口から泡を吹いてパクパクしている。

 ああ……これが緋色の涙か。

 

 俺はポケットから瓶を取り出し、悶え苦しむ女王の胸を踏みつけ涙を採取する。

 こんな物の為にレッドは……。俺は息絶えた彼女を顔を思い出していた。

 あいつ…………俺の事、憎んで死んで行ったんだろうな。

 あいつにした最低な行いを、俺は詫びる事も出来なかった。

 足元でうごめく女王の姿に我に返る。

 

「お前首を落としても生きているのか? なら頭を切り刻んでも生きているのかな」

 レーザーポインターを振り上げる。

 すると死の恐怖からか、絶叫を上げ女王は意識を失う。

「えっ?」――俺の足元には女王の姿はなく、変わりに幼女が横たわっていた。

「これが……アンデッドの女王ブラディ・マリーの正体か?」

 意識を失っている女王にトドメを刺す為、レーザーポインターを再度振り上げる。

 

「「「「シギャァアァァァアァァアァ!」」」」

 

 女王の危機を察してか、数百のアンデッドが広間に現れる。

 俺は彼らの出現にたじろぎもせず、そのままレーザーポインターで斬りつける。

 しばしの静寂。そして絶命を告げる叫び声が響き渡る。

 かろうじて絶命を逃れた数体のアンデットが、体を引きずり近寄ってくる。

 こいつらアンデッドって、死なないんじゃ無いのかよ?

 レーザーポインターで斬りつけた殆どのアンデッドは、微動だにしなかった。 

 どうやら高熱が弱点なのかもしれない。

 

 向かってくるのは、足や腕と細部を失ったアンデッドだけだ。

 近寄ってくるアンデッドを斬る。もうすぐ雫の効果がなくなる。

 その前に動いてるアンデッドを皆殺しにしなければ……。

 殺されまいと向かってくるアンデッド。

 俺は容赦なく斬り殺す。そのうち数体が背を向け逃げ出す。

 逃がすかよ――背中からためらいなく斬りつける。

 どんどん斬って数を減らしていくと……コイツら逃げているんじゃない。

 女王を守ろうとしているんだ! 女王の上に重なり合うアンデッド。

 身を呈して守っているのだ……。

 

 俺はそのアンデッド達を蹴飛ばし、女王の口を開いてフリスクを放り込む。

 しばらくすると……

「ふぎゃぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁ!」

 叫び声と共に、フリスクを吐き出し咽び泣く女王(幼女バージョン)

 今更フリスクの能力強化出来たのだろうか? 

 女王は涙も咳も止まらず、涎を撒き散らし続けている。

 暫く落ち着くのを待っていると、俺の存在に気づき逃げ出そうとする。

 レーザーポインターで足を斬るのではなく照射する。

 貫通したのだろう……叫び声を上げる女王。

 蹴飛ばし散らしたアンデッドが、俺の行く手を阻む。再度蹴飛ばし散らす。

 女王は気づいたのだろう……自分の配下の殆どが朽ち果てている事を。

 

「もう止めてくれ……人間。この者達を……我が配下をこれ以上傷つけないでくれ」

 彼女は自分を守ろうと這いずって来るアンデッドを制する。

「もう良いお前達。我の負けじゃ。殺すが良い……人間。ドワーフの娘の仇討ち……果たすが良い」

 そう言い終わると彼女は覚悟を決め……静かに瞳を閉じた。

 そんな彼女の様子に制されたはずのアンデッド達が、命令を無視して俺の前に立ちはだかる。彼らの行動に背後からアンデッドを抱きしめ涙する女王。その姿に俺は、

 

「アンデッドの女王、ブラディ・マリー!」

 息をのむ女王…………。

 

「もうこの国の者を苦しめるな。約束しろ。もし約束を破り誰かを傷つけたなら」

 俺はレーザーポインターを振り上げる……

「分かった! ……約束する。我が名にかけて約束する」

 俺から目をそらさずに見つめ続ける女王。俺は黙って女王に背を向けると、謁見の間の扉に向かってレーザーポインターを振り落とした。大きな音を立て崩れる扉。

 その衝撃で謁見の間の片側の壁が全て壊れ落ちていった。

 きっとレーザーポインターで、壁とか天井とか斬りまくった弊害だろう……。

 俺の所為で古城は廃墟と化した。

 

 

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