第二十話 因の鬼
一体のオークと鍔迫り合いになるも、もう一体のオークはアマシアの動きに気が付き、すぐに踵を返した。
死角になって見えていない上に、気配も消しているはずなのに。
答えがひらめく前に、アマシアが襲われてしまった。
アマシアは風の防護で、オークを吹き飛ばした。
聖明依はすぐに加勢に行こうとするも、このオークのパワーにかなり押されていた。
この状況を打開するためには、アマシアが天空を纏うことだ。でも、一日に一度そして数十秒しかもたないと空牙に言われていた。
アマシアは鎧無しでオークに対処しなければならない。
聖明依は鎧を一日に何度でも纏える。そして、頬面をつけ出力を最大にすればすぐにでも目の前のオークは斬り伏せられる。
だが、一度でも頬面で攻撃すると神気酔いのノックバックが来てしまうため、鎧を外さなければならない……。
一瞬、聖明依の身体が崩された。オークの足払いだ。
身体をひねり、脚を回して牽制しつつ体勢を立て直す。
これでは作戦を練ることは難しい。
「アマシア! 一人でなんとかして」
アマシアはオークの攻撃をいなすことで精一杯で、返事をすることが出来なかった。
《兎姫、提案がある》
「どうするの?」
《腕と脚だけの部分纏いを行えば、戦闘能力は上がる。それに、纏い時間を大きく伸ばせる》
「一度も纏ったこと無いのに、そんな器用な事できないよ」
《兎姫はそのまま防戦していればいい。それが即ち手足への集中になる》
「なんだかわからないけど、分かった」
あまり実戦経験のない桃源流古武術で、なんとかオークの攻撃をいなす。腕にまともに槍の攻撃を受けてしまうも、風の加護で直撃は免れていた。
オークの槍が一直線にアマシアの胸に向かってきた。左右に揺さぶられ、動きが止まった瞬間を狙われた。
「くっ」
風の加護を全開にしようとするも、それが貫かれてしまった。
死を覚悟したその時、甲高い金属音が響いた。
腕を見ると、蒼い篭手が両腕に纏われていた。
「これは?」
《それが天空の篭手だ。そして、脚にも》
「ほんとだ。キラキラしてる」
《来るぞ、兎姫》
「分かってる」
オークの二番槍が来た。
アマシアは左へ躱す、が、大きく跳躍しすぎて胎内の壁にぶつかってしまった。
「いったーい。……嘘、こんなにジャンプするなんて」
《まだ来るぞ。上へ飛べ》
「分かった」
オークの振り払いを読み、上へ飛ぶ。するとあっというまに10メートルほどジャンプし天井に到達してしまった。
篭手で天井を押し返して、着地する。
「すごい。まるで超軽いパワードスーツをつけているみたい」
《兎姫。飛び遠具を思い浮かべてみろ》
「飛び遠具? ええと、コルト!」
すると右手にオートマチックの拳銃が現れた。
すぐさま引き金を弾くと、弾がセミオートで発射されオークにいくつか命中した。
「え⁉ なにこれ? 魔法?」
《天空は継承者の思い描いた飛び遠具を具現化できる。ただし、数に限りはあるぞ。残りあと二つしか登録できない》
「ちょっと、それ最初に言ってよ!」
《霊力を上乗せすれば、絶大な威力になる。『弾龍禍』と唱えて撃ってみろ》
「わ、分かった。《弾龍禍 急々如律令》!」
そしてトリガーを弾くと、銃口から蒼いマズルフラッシュが放たれた。
オークに命中し、右肩が吹き飛んだ。
「なにこれ……。あれ、力が抜けていく」
《霊力を注入しすぎだ。だが、あの鬼はかなりタフだな。あの威力ならさっきので討滅できてもおかしくなかったんだが》
オークは左腕だけで槍を握ると、またアマシアに向かって突進した。
「え?」
オークが消えた。
今まで見せたことが一度もないジャンプ攻撃で、アマシアの虚を完全につかれてしまった。
気がついたときには防ぎきれない位置、掌握まで近づかれていた。
「もう、だめ……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます