第十九話 胎内 

 すぐに口が閉じられた。おそらく精鋭部隊たちがすぐに口を塞いだのだろう。

 いずれにしても、残れさた時間は少ない。


「明るい……?」

 真っ暗になることを予想していたが、中はとても明るく感じた。

「聖明依ちゃん。違うわ、これ霊気よ」

 アマシアの言うとおりだった。意図的に霊視を閉じるとすぐに真っ暗になる。つまり、九尾は霊気の塊ということになる。


 喉のようなトンネルを滑り降りると、臓器らしきものがなにもない空間に出た。

 その中央には苔や木の根が生えており、その切り株に輝きを放つ石が置かれていた。

「あれが殺生石か」

「何かセキュリティみたいなものがあるのかと思ったけれど、拍子抜けね」

「急ごう」


 二人が駆け寄ろうとすると、苔の根から黒く太い何かが急速に伸び始めた。

 それは二本の角をだし、目は見開き口は大きく横に割けていた。両手には槍のような物を持っていた。全身が黒く、しかも男性のシンボルが隠されていない。そして体つきはだらしなく、控えめに見ても鍛えられた肉体を模していなかった。


「なんだ、こいつらは。鬼にしては、やけに醜いな」

「オークかしら?」

「オーク? 顔が豚で身体が緑色のデザインで知られるあれ?」

「そう。そして、強姦モンスターとして認知されている」

「なんでそんなものがここに?」


『聖明依さん』

「真実?」

『はい。中の様子はどうですか?』

「オークみたいな黒い鬼が二人いる」

『……それはきっと、主を襲った男たちです』

「こいつらが? こんな姿だったのか?」

『詳細な記憶は主の方にありましたから、なんとも言えません。少なくとも、主から見た男たちなのだと思います』

「分かった。とにかく片付ける」

『あ、聖明依さん。今遠くから九尾を見ていたのですが、今動きが完全に停止してます。それで気になったのですが』

「ここはオークがいるだけで別に……なに⁉」


 一瞬にして聖明依に詰め寄り、槍を突かれた。すぐさま撫士虎を抜刀し、外へいなす。

「こいつら、見た目に反してなんて素早いの。しかも、かなりの使い手。アマシア!」

 案の定、アマシアも襲われていた。だが、風の壁が槍をいなしていた。

「聖明依ちゃん、はあはあ……。流石にもうこれ以上霊力が持たない」

「私が隙を作るから、そしたら殺生石の前で纏って」

「分かった」


 聖明依は鞘口を持って、撫士虎と垂直に合わせて構えた。

「紅桜!」

 そして撫士虎で擦りあげ、火花を散らした。それは桜吹雪に変わり、聖明依を包み込んでいく。すぐに納刀し、大の字に構える。

 

 オークたちが2体とも突進してきたが、桜の繭の回転に巻き込まれ、壁へ吹き飛ばされた。


 巫女装束が吹雪いて散り、肌が露わになる。

 両手両足に桜が纏わり、ぱっと開いて紅きメタリックの鎧へ。

 銅に纏わり、胸を押し上げるように撫でてくると同時に分厚い法衣が顕現。

 腰にはミニスカートが舞い、メタリックに輝く前垂れに変化。

 顔を覆い、兜を纏う。その鬼の頬面が上下左右に別れ、聖明依の決意に満ちた表情を見せた。


 桜の繭が散り、腕を組んで立つ鬼煌帝朱雀の紅桜が推参した。

 同時にオークたちが二体襲ってきた。

 肘鉄を同時に食らわして、それらを振り払う。


「すごい」

 アマシアは思わず感動した。

『アマシア、聞こえる?』

「あれ頭に声が?」

『花印の糸を通じて心に直接話している』

『え、じゃあ、テレパシー』

『そう。今、少しだけこちらからあなたの気配を弱めて私だけに狙いが集まるようにしている』

『そんなこともできるの?』

『クロアが相棒だった時に、花印をつけてそのままだったおかげでね』

『あの時の……』

『いい? これはクロアが残してくれたチャンスなの。早く殺生石に向かって』

『分かった』

『この糸は九尾の中では長くは持たない。できるだけ早く討滅するから』

『私もすぐに』

『じゃあ、最終作戦開始!』


 アマシアが飛び出したのを見て、聖明依はオークの死角となるように位置どった。

 撫士虎を抜刀し、オークの槍を払う。

 しかし、別のオークが嫌らしいタイミングで脇をついてくる。

 間に合わず鎧の上に直撃してしまう。

 貫かれるまではなかったが、激しい火花が生まれた。


「こいつら、なんて連携なの。もしかして、殺生石を守るために九尾の呪力全てをこの二体に注ぎ込んでいる?」

 左篭手に宝剣の刀身を添えて、シャッと擦りつけた。火花が散り、刀身に桃色の花びらが纏う。

「最初から本気で行かせてもらう!」

 紅桜もその火花で炎を纏い、オークの槍と交錯する。

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