最終決戦 九尾討滅
第十八話 最前線 その①
――現場の士気は混乱していた。
指揮ではない士気だ。
聖明依がこの九尾の厄災をもたらした。
という捻じ曲げられた情報が月桂たちに流れていたからだ。
それは将校が選抜した精鋭部隊でも例外ではなかった。
皆、将校の命令に従ってくれているし、誰一人任務に疑問を持つものはいない。それはもちろん、凰都を守るためだ。
だが、彼らが本来の実力を出し切れていない。このままでは、士気が乱れてしまうのは時間の問題だった。
「なあ、この九尾、聖明依巡査部長のせいで呼び出されたって本当か」
将校の耳の聞こえないであろう、対角線上で呪縛結界を貼り続けている隊員が呟いた。
「本当かは知らん。でも、否定する材料もない」
バディを組んでいる隊員は、明確な否定が出来なかった。
「そもそも、親の仇をとるために入隊したって聞いたぞ。復讐なんてやっても、また復讐が返ってくるだけじゃないか」
「陰陽騎兵のお前がそれを言うか? 確か相手は法じゃ裁けないやつだと聞いたぞ」
「そうなのか? 巡査部長は何も言ってきてないのは、後ろめたいことがあったからじゃないの」
不意に九尾の身体に結界が引っ張られた。鎖のような性質の結界であるため、隊員たちは引っ張られてしまう。
「うおっ、こいつまた動きやがる」
「不確かなことを、ああだこうだといっても始まらん。俺たちは昔フェイクニュースを垂れ流して破滅した新聞の人間じゃないんだ。術に集中しろ」
「なんて言ったけ、その新聞社」
「それは、あ……うおっと」
九尾がもがく頻度が多くなってきている気がした。
きれいな比例グラフに表されるような、規則的なものではないにせよ、いつ本格的に暴れだしてもおかしくないだろうと将校は思っていた。
「やはり術の出力が出ていない。このメンバーならもっと強い呪縛がかけられるはずなのだがね」
将校はついぼやいてしまった。
「お言葉ですが、将校。聖明依巡査部長のことで皆が良くない感情を持っていることは、ご存知でしょう」
「聖明依君は目的のためだけに動いてたからね。皆とコミュニケーションを取ることを疎かにしていた、それは認めねばなるまい」
「あの大和撫子のような端整な顔立ちとモデルみたいな身体をしているくせに、言うことなすこと我々は未熟だと……。子供のくせに生意気です」
「君は、聖明依君と言い合ったのかね」
「い、言え。そのようなことは一度も……」
「彼女は、事実を言ったまでだ。それが不愉快だったのだろ?」
「は、はい」
「ふっ。私もだ」
「将校もですか?」
「子供にそんなことを言われて、なんとも思わない大人がいるわけ無いだろう。だがな、彼女はこう言ったんだよ。『未熟』とね」
「だから腹が立つのです」
「君は『未熟』という言葉の意味を、少々履き違えていないかね?」
「……は⁉」
対角線上にいる、隊員たちもちょうどその話題になり、引っ掛かりを覚えていた。
「だからなんなんだよ、未熟て言われてムカついんだろ?」
「ったく、お前は。『未熟』って意味の裏返しはな、成長できる余地がある・強くなれるってことだよ」
「だからなんなんだよ」
「稀代の天才に、俺達は伸びしろがあるって判断されたんだぞ? 俺らはもう三十も半ばだけど、それでもまだまだやれるってことだ」
「……ちっ」
「ようやくわかったか。俺たちの日々の鍛錬の成果を見せてやろうじゃないか。でなきゃ、『足手まとい』の烙印が押されちまうぞ」
「ガキにそんな事言わせるかよ!」
「ところでお前、巡査部長狙ってんだろ」
「ぶぅぅぅぅぅぅぅ。いきなり何言い出すんだ」
「こっそり写真プリントアウトしてんの、知ってるぞ」
「う、うるせぇっ」
「ファンクラブやってんだ、入らないか?」
「は……、ってか、お前もかよ!」
呪縛結界の出力が上がり始め、安定してきた。九尾がもがこうとするものの、がっちり霊力の鎖が絡まって動けなくなっていた。
「よし。これなら持ちこたえられそうだな」
「ですが将校、訓練シミュレーションでのデータから推測すれば持ってもあと五分です」
「作戦開始から二十分も時間を稼げたのだ、充分やってくれた。さあ、我々も成長したところを見せてやるか」
「はい!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます