第十七話 愛を知った天空 その①

 バイクのブレーキ音を慣らし、聖明依が後輪を滑らせて停止した。

真実まみ!」

 瓦礫よりも外側にいた真実を見つけだした。機燐獅に乗っていれば霊気が増幅されるので、いくらか楽になれた。

「せ、聖明依さん⁉ どうして?」

「アマシアお姉さんを待たせている、あなたの力も必要なの」

「いや、あの、その……。全然分かりません」

「後ろに乗せるわけにはいかないから、牽引させよう。翼が伸びたはずだからそれを応用すればいけるはず」

 聖明依が古語真言で術を唱え始めた。


 機燐獅よ、我の言霊を聞き入れ給え。

 汝の翼よ、牽引のことわりを飲み込め。

 翼は変化し、人を運ぶ船とならん。

 

 この術に反応し、翼が広がる。同時に赤いタテガミを纏った装甲バイクに変化する。翼は、右側へ折り畳まれるように集まり姿を変えていく。

 サイドカーのような形になった。意匠デザインに羽の名残りが見受けられた。

「凄い。これが陰陽騎兵の術」

「それは違う」

「え、でも唱えたのは真言ですよね」

「たった今、術を練り上げた。つまり創作だ」

「え⁉ えぇぇぇ⁉ 術を一から作り出すってそんなの聞いたことありませんよ!」

「そうか? 私は小さい頃から慣れているからな。とにかく、このサイドカーに載ってくれ。この鎧のせいで多少暑いかもしれんが」

「は、はひ」

 真実は開いた口が塞がらなかった。

 ともかく、言われた通り真実はサイドカーに座った。


「どうだ? 乗り心地は」

「はい。ちょっと狭いですが、結構ふかふかしてますね」

「そうか。後でもう少し術の精度を上げておこう。今は時間がない、行くぞ」

「聖明依さん、顔色が優れないようですが。やはりお疲れでは」

「いや、大丈夫だ。行くぞ」

 聖明依がアクセルを回した。

 

 瓦礫を避け、ついたのが小さな倉庫のような建物だった。

 真実が訪ねた。

「ここは?」

「私が使っている鍛錬場だ。中はほとんど何の設備もないけど」

「月桂にはないんですか?」

「あるけれど、一度バタフライマシンという大胸筋トレーニング器具を壊してしまってな……。弁償してからはもう利用していないんだ」

「はあ……、壊した……」

「どうした?」

「もう、何に驚いて良いのか分からなくなって」

「今からが本当のサプライズよ。時間がないんだ、月桂がいつまで持ちこたえてくれるか」

「私は何をすればいいんですか?」

「この宝具を浄化してほしい。頼める?」

「分かりました。すぐに準備します」


 真実をここに連れてきてから、十数分後。

 アマシアは、シャワー室から出てきた。

「お姉さん、準備はいい? 念の為、このことは将校にも報告してあるわ」

 ロングヘアになっていた聖明依が訪ねた。

「ええ! ……でも、本当に成功するのか不安で」

「お返し、忘れないでね」

「そうね」

 アマシアは唇に少し触れた。

 聖明依はそれを見てから、手を差し出した。

「さあ、脱いで」

 アマシアは恥じらいながら制服を脱いだ。ブラはフロントホックを外されると、乳房の弾力に弾かれて落ちた。大きな胸を垂らしながらショーツを脱ぎ、下着を制服と一緒に畳んだ。

 大人の色香が空間いっぱいに漂うようで、真実の顔が真っ赤になってしまった。

 

「アマシア、寒くない?」

「……温かいわ」

「術の空調調節が効いてるようでよかった。その螺旋の図形の中心に立って」

「うん」


 幾何学的に描かれた螺旋図形の中心に立った。

 四方には、朱雀・白虎・玄武そして青龍と似かよった品が置かれていた。朱雀側には凰鴆の本体である髪留め、青龍側には天空の宝具空牙が置かれていた。

 螺旋の行き先はこの青龍方角になっていた。


 聖明依が手を掲げて言った。

「これより、鬼煌帝天空継承の儀を執り行う!」

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