殺生石・破 その③

 ビキィィィィン。


 ビキィィィィン。


 ビキィィィィ……。


 聖明依は拳を三度打ち込み、押し付けた。

 《絶対結界》は反発し青く発光し続けた。

「飯塚真実、聞きたいことがある。首を振るだけでいい」

「……」

「アマシアはおまえと共謀したのか?」

「……」

「《答えろ! 飯塚真実》」

「んんんん⁉」首が横にブンブン振られた。「ん⁉」

 意図しない行動に、真実は思わず目を丸くした。

 そして、理由が思い当たった真実は聖明依を睨みつけた。

「そうだ。《真言》だよ。あまり好まない術だが、ここだけは真実しんじつを知りたいんでね」

「んん……」

「もう一つ、お前は乃木坂将校と共謀したのか?」

「……」

 これも首を振った。

 聖明依は胸をなでおろした。すべて、取り越し苦労だったのだ。ただ真実まみに利用されていた。それが真実しんじつだったのだ。


 聖明依はデバイスを拾い、後ろを向いた。

 するとアマシアから着信があった。

「どうかした? ……殺生石が見つかったの? 分かったすぐに向かう」

 向き直り、天空の真実に言った。

「聞いてのとおりだ。私は殺生石を破壊に向かう。破壊すればおまえは討滅する。おまえ本人を斬り捨てられないのは、心残りだがな」

 天空は声一つ上げず、ギョロリと聖明依を睨んだ。

 殺生石を破壊すれば、ただじゃ済まないと言いだけだ。

「その手には乗らんよ」

 聖明依は天空を呪縛していない反対側から飛び出していった。

「んんーんんん!」


 ――まずい! あの方角には!

 ハッタリではなかったのか。

 本当に割られてしまう。そんなことになれば私は討滅だ。女の悦びに溺れ、永遠に生きようとしているだけなのに! そのためにちょっとだけ仲間を集めたっていいじゃないか? 男に深く突かれ奥から押し寄せる快感、喉を突かれ征服され解き放たれる開放感、女をイカせる達成感、触手に縛られてイキ狂うあの感覚、人肉を食う背徳感、腸を千切らずに引き釣り出す競争、眷属を増やす時の高揚感……。

 これら全てを失ってしまうなんて嫌だ!


 真実は心の底から願った。

『絶対結界よ! 殺生石を守れ!』


 その刹那、周りにあった結界は解かれた。天空の目で確認すると、殺生石に絶対結界が移ったのだ。

 これで殺生石は安全だ。あの石が先にやられてしまっては、今までの計画が本当に台無しになってしまう。

 それでも、使いたくはない。私は酒池肉林におぼれて生きていきたい。たとえ䰠だったとしても、こうして意識があるのだ。なあに、ちょこっと人を仲間にして囲うだけだ。取って食うわけでも殺すわけでもない。快楽を与えてあげるだけだ。

 私は何も悪くない。むしろ、感謝してほしいくらいだ。

 さて、やつらが絶対結界に手こずっている間に、この厄介な呪縛から抜き出さねば……。


「天空、討滅せよ!」

「んん⁉」

 振り返ると、そこに現れたのは鎧を脱ぎ捨てた聖明依だった。

「んーーーーーーーーー」

 なぜだぁぁぁぁぁぁ。

 そして、世界が左右に別れた。


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