殺生石・破 その②

「なぜ、欠落があると言い切れるのですか?」

『簡単なことだ。飯塚君本人が知りえないことだからだよ。そして、もっと早く知るべきだったことだ』


 聖明依は、脇の下に手を入れた。そこからデバイスを抜き出した。紅桜の胴体部分は、纏い前に身につけていた持ち物が転移される仕組みになっている。

 ビル屋上の床に置き、スピーカーモードにした。

 すぐにVRディスプレイが展開するも、SOUND ONLYという黒影のアバターが出てくるだけだった。


「将校、続きをどうぞ」

『君も趣味が悪い。彼女の姿が丸見えではないか』 

 と申しわけない声でいうも、将校自身は姿を見せない。

 同じ土俵に立たないという姿勢の現れだ。

 将校は続けた。

『昔、婦女暴行を行った実行犯たちは陰陽騎兵ではなかったのだ』

「え⁉」

『当時は証拠が不十分でね。桃源神宮もことを荒立てたくなったこともあり、事件そのものをもみ消した。だから悲劇が起こったのだが。……俺はこの事件に疑問を持って独自に動いていたのだよ』

「なぜ、月桂の将校が動いたのですか?」

『合同演習は、凰都の近くで行われていたのだよ。その時、不審者2人がそこに侵入したという通報があってね。剣警が動いていたのだが、何もなかったと報告された。そこに妙な違和感を感じて、調べてみたのだよ』

「その実行犯は見つかったのですか?」

『ああ。死体となってね。そこから身元の特定にかなり時間がかかった』


「ここに来たということは、確証が得られたのですね」

『実行犯はただの一般人だ。そして、そいつらをけしかけた人物が背後にいるのではないかと見ている。……残念ながら、推理の域を出てないがね』

「いずれにせよ鬼煌帝を狙い、里を襲撃したことと無関係ではなさそうですね」

『俺もそう見ている』


 真実は、デタラメを言うな! と鋭い目つきで聖明依を睨んでいた。

 将校は話を続けた。

『今だ、残りの鎧は行方知れず。桃源神宮の宝物庫でなければ、一箇所に留まることは出来ない。おそらくだが、運ぶ途中でどこかにバラバラに飛んでいったのではないかね』

「ぐ!」

『その様子だと、予想は当たりか。これは桃源神宮に報告しておこう。これで、真相は伝えた。あとは聖明依君の好きにするといい』

 デバイスの通信が終了した。

「好きにしろ、か。言われなくてもそのつもりよ」

 聖明依と一緒に聞いていた天空は、苦悶の顔に涙を浮かべていた。

「そうね。私にもっとマシな感情が残っていれば、その涙に同情もしたのでしょう。里が襲われる前の私ならね。でも、今の私は䰠の穢れから逃れるため憎しみを滅した。その代償として」


 聖明依はデバイスを拾い、逆の手で天空を殴った。


 ビキィィィィン。


 強烈な音と共に、青い壁《絶対結界》で阻まれた。

「私の心は」聖明依の眉間に深いシワが寄った。「人を愛することまで失ってしまった!」


「おまえを殺しても、心はきっと戻らないでしょう。でも、私はおまえを赦さない。憎しみの無い復讐者として、私はおまえを斬る!」

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