第十四話 殺生石・破 その①

 式神の真実から出た言葉は、意外なものだった。

「それは、殺生石です」

「陰陽の術のことなら」

 聖明依が呪縛している天空を見ようとすると、式神の真実は違いますと大きく否定した。

「違うんです。主が䰠の穢れを取り込んでも自我を保ち続けた理由、それが殺生石なんです」

「……話が見えないな」

《聖明依。式神なら、あいつの呪をこちらに移すことで記憶も取り込めるぞ》

「式神本来の伝達能力を応用するのね」

 式神の真実が頷くと、天空の真実が更に騒ぎ出した。

 聖明依は指を慣らして更に呪縛を強めた。猿ぐつわが現れ、口を縛り付けた。これがこの術が出来る最大の縛り上げだ。このまま絞め殺せば、苦労はしない。

 術の改造が必要かな、と思いつつ今は式神の真実のことだけを考えた。

 他人の式神の記憶を受けることは簡単ではないからだ。


 陰陽の呪が薄暗い夜空の下で結ばれていく。

 そして式神の真実から呪符が飛ばされてきた。


 聖明依は呪の邪魔にならないように、兜の纏いだけを解除しその呪符を受け入れた。呪符は霊的なものですぐに消えた。


「……なるほど。見事な呪だ」

 式神の真実は、何も言わず頷くだけだった。

 無理も無い。

 これは人に言うのもはばかられるであろう過去だ。

 アマシアを見ると、アイコンタクトで答えた。

 聖明依はすべて納得した。


 殺生石とは、幼い頃に破瓜の血と男たちの精液が染み込んだ石ころだったのだ。

 それに憎悪と憎しみをこめた呪を込めた。

 いわば、第三の真実の魂だ。この陰の気の塊である殺生石が破壊されれば、目の前の天空もただでは済むまい。


「真実、あなたの覚悟はしかとこの鬼煌帝の聖明依が受けとめた。だが、私はここを離れることが出来ない。セントラル街のどこかに埋め込まれた、殺生石を探してほしい」

「分かったわ」とアマシアが頷いた。

「アマシアお姉さん、見つけたらデバイスで連絡して。その殺生石は私が破壊するから、触らないでね。罠が貼ってあるかもしれない」

「見つけたらすぐに連絡する。月桂には連絡しなくていいの?」

「あの将校なら既にここを知っているでしょ」


 アマシアたちが機燐獅に乗り、ビルの真上から飛び出した。

 今度は翼が生えて、ゆっくりと降下していった。


 再び天空と対峙したとき、通信が入った。

『聖明依君、首尾は順調かね』

「将校? どうしました」

『君に、飯塚真実の過去について伝えなければならないことがあってな」

「飯塚真実なら、目の前にいます。天空の正体はこいつです」

『そうだったのか。なるほどな、そういうことか。……すまないが音声をスピーカーにしてもらえないか』

「一体どうしたのですか?」

『十年前の合同演習で起こった事件について、分かったことがある』

「そのことは、さっき天空の式神から聞きました」

 と、これまでの経緯いきさつをかいつまんで話した。


『そんな理由で朝歩実を……。聖明依君は平気なのかね?』

「残念ながら、何も感じません」

『な⁉ ……いや済まない、君はそうだったな』

「いえ、こちらこそ申しわけありません」


 しばしの沈黙の後、将校は言った。

『……なるほど。䰠の騒ぎはやはりあの雨が原因か。犠牲者は3人ほどで済んだよ』

「それは不幸中の幸いでした」

『そして、君が見た記憶に重大な欠落がある』

「欠落?」

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