殺生石・序 その②
赤いオーラが彗星のように尾を引きながら、単輪装甲戦車型バイク機燐獅が荒野を疾走していた。
朱雀の加護の賜物なのか、乗り心地は全然悪くなく、悪路を安定して走ってくれていた。
「凄い。これならマスクなしでも大丈夫ね。風圧もほとんど感じないし」
「で、でも私達ノーヘルですよ」
「緊急事態だからいいの。あ、そうだ制服に着替えたほうがいいのか」
「どこかで停まるんですか?」
「いいえ。《装束変化 急急如律令!」
アマシアが右手のVサインを目に持ってきて、ポーズを決めた。すると、一瞬身体が裸になり、黒くシックな制服へと変化していった。
「ARですか?」
「本物よ。聖明依ちゃんに作ってもらったの」
「あの方って本当に天才なんですね。……あ、あの、アマシアさん。私の腕が……」
真実の腕が制服のブラウスの中に入ってしまい、背中がめくれ上がっていた。
「あら。なにか温かいとおもったら。いいわよ、そのままで」
「シワになりますから、直します」
「目的地まであと15分か。もし良かったら、天空の真実に何があったのか話してくれないかな」
「主のことですか?」
「無理をしなくてもいいの。でも、桃源神宮を滅ぼすような真似をする理由が気になって。きっと聖明依ちゃんは何も聞かずに仇を討っちゃうから」
「分かりました。私に写された記憶の限りでなら、お話しましょう。私が主を討って欲しいと願う理由にもなりますから」
――陰陽師と陰陽騎兵の合同演習は私、つまり主がまだ幼い時でした。
「すみません、記憶が混乱しますので主の記憶を私として置き換えますね」
もちろん、桃源神宮は健在で確固たる地位を築いてました。
死地に直接赴くように生まれたときから訓練された皆さんとは違い、私達陰陽師は小さい頃に占いで適正ありと判断された者たちが強制的に教育を受けました。
もちろん、最終的には本人の意志の確認がなされます。でもそれは、落第生というレッテルを貼られるも同じ。みな必死に勉強しました。占星術から吉凶・暦・呪……、その勉強量でいつも私は頭がパンク寸前でした。
合同演習に参加できたのは、その中でも成績が優秀な者たちだけ。選ばれた時、私はとても誇らしかった。
そしてアマシアさんとコンビを組んで、実地訓練を受けました。
滞りなく終わるかと思えた最終日に、事件が起こりました。
森に入る単独任務の訓練の時、後ろから突然複数の男たちに襲われたんです。
うかつでした。最終日さえ乗り切ればと思って、緊張が途切れていたのかもしれません。
「いやっ、離して! やめて!」
「へへへ。この幼児体型が唆るぜ」
「こう言うことがなきゃ、陰陽騎兵なんてやってられねぇぜ」
「おおっ、この太もも。興奮するぜ」
男たちのイヤラシイ言葉が、耳まで犯しているようで嫌でした。こういう知識を早めに教わっていたため、自分がどんな目にあっているのか分かってしまったんです。
私は、呪を唱える隙すら与えられず、身体中をズタズタにされました。
男たちはいつの間にかいなくなっていました。
ゆっくりと立ち上がると、ぽたぽたと垂れる音がしました。下を見ると、赤い血に交じるおぞまく白いモノが、石ころに掛かっていたのです。
「それを見た時、私は陰陽騎兵の総本山である桃源神宮を滅ぼすことだけを考えて、憎しみの中で生きてきました。……すみません、ここから先の記憶は陰の気ごと主と分かたれてしまっていて、はっきりとしていないんです。聖明依さんの師匠をどうして殺したのかも」
「辛かったのね。ごめんね、別れる間際に気づいてあげられたら、こんなことには」
「アマシアさんのせいじゃありません……。あとは皆さんご存知のとおりです。式神である私は、かなり䰠の侵食が進んだ時に主から実験で生み出されたのです」
「実験?」
「その道の術者が見ても気づかれない、精巧な式神を作ろうとしていました。その集大成として私が生み出されたのです。出来に満足した後、主は私を殺そうとしました。それは、私が陽の気を帯びていたからです。このままでは、自分に取って代われると思ったのでしょう」
「じゃあ、天空の方には陰の気だけが残ったのね」
アマシアの背中越しに頷いて続けた。
「鬼煌帝から逃げるなんて無理です。そう思ったとき、私はもう一つの私を作ることにしました」
「それで、天空はあなたを殺したと思い込んだのね」
「はい。もしも、ちょっとでも尋問されていたらバレてしまうくらい出来の悪いものでしたが、もう主の思考はほとんど穢れていましたから」
「それで陽の気の真実ちゃんは、一時的に記憶障害を起こしてしまったのね。陰の気の真実ちゃんから逃げるために」
「はい。でも私はもう逃げません。思い出した以上、私は主の討伐に協力します」
「でも、そんなことをすればあなたは」
「いいんです! それが私の償いですから」
「……。いつの間にか日が傾いてきたわね」
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