紅桜 vs 天空 その②

 追い続ける途中何度も同じ手をくらった。

 RIDは飛翔モンスターがかなり多いようだ。䰠堕ちしたそれらを全て滅しつつ、いよいよ天空に追いついた。


 広さ十畳ほどの空間に降り立つと、身体の周りに炎が現れ始めた。七色の妖炎はあまり見たことがない。

「これは?」

《霊力だけではない、感じたことがない力が高濃度に混在している。おそらく、これが魔硫ガスというものだろう》

「紅桜が《穢れ》として判断したのか?」

《人体に悪影響があると判断したようだ。浄化された気がお前の肺に入っていっているだろ》

「なるほどね」


 辺りを見ても天空が見当たらない。

 特にオブジェのようなものはないが、複雑に絡み合う人影が確認できた。

 紅桜のゴーグルを解除すると、そこには全裸になった様々な種族の男女が互いの性器をぶつけていた。


「あぁ……。ふっ、ふっ、ふっ……」

「おぉぉぉっ。ぬほぉぉ⁉」

「ぐぷぷぷぷ⁉ ぶぶっ、ぶぶっ!」


 聖明依は恥じらうというより、呆れ返った。

 これでは、猿の狂った交尾と大差がない。あえて人間らしいと言えば、男のアレを女の口でむさぼるくらいか。

「一体どういうこと? 魔硫ガスが狂わせているとでも言うの?」

《乱交の見物はそのくらいにしておけ》

「べ、別に興味なんて!」

《天空の気配が消えている》

「なんですって⁉ ……でもこの人達をこのまま放っておいたら、衰弱死してしまう」


 何も食べていないのか、顔は青くなっており腹部は皮のように薄くなっていた。頬はすっかりけており、時折見えるは歯は皆ボロボロだった。鎧のおかげで臭って来ないだけで、かなりの悪臭だろうことは散乱する汚物を見れば容易に想像できた。


 聖明依はアマシアに通信を試みた。だが、全く通じない。

「魔硫ガスの影響? ノイズがひどすぎる。……あれは」

 汚物の中に紛れていたバックパックから、機械の点滅のようなものを発見した。

 篭手を通して拾うと、汚物が一瞬で浄火されきれいな状態になった。

「さすが紅桜。汚物は赦さないのね」

『ピピピピ……』

「ん?」

『こちら、セイバーエンジェルズ。緊急救難信号を確認しました、ご無事ですか?』

「通信が繋がった? こちら陰陽騎兵の槇村聖明依。魔硫ガスに汚染された遭難者たちを発見した。救助をお願い」

『陰陽騎兵のハンターですか。わかりました……、その地点はRIDの最奥で危険です。すぐに退避してください』

「待って。どうして今まで彼らを放置しておいたの?」

『……通信が繋がっただけでも運がいいんです。最奥は魔硫の発生源があって電波障害が』


《聖明依、天空の痕跡が辿れたぞ。すぐに向かえ》

「分かった。……では救助をお願い。この通信機は置いとく」

『ちょっと、危険ですよ』

 通信には答えず、聖明依はこれを床の上に置こうとしたが殆どが糞尿まみれだった。

 そこを思いっきり踏み込むと、紅桜の鎧はこの一体を一気に消毒していった。通信機を置き、簡単な結界符を貼っておいた。それは瞬く間に七色に輝き始め、魔硫ガスの影響を遮断していることが確認できた。

 きれいになった中でも、彼らは相変わらず肉欲に溺れていた。同じ結界符を使っても手遅れだろう。


 置いた通信機の構造に、機械オタクの虫が疼いたが今は天空だ。

 痕跡を追うと、隅の一角にゲートが仕込まれていた。

 閉じられていないのは罠なのか? それとも冷静さを失っているのか?

「行くぞ!」

 今度こそ天空を追い詰めるべく、ゲートに飛び込んだ。

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