第十二話 紅桜 vs 天空 その①

 飛翔する天空を追う聖明依は、その進路がそそり立つ壁であることに疑問を感じていた。

 あの一帯の䰠は一掃したはずだ。

 䰠は群れればそれだけ力が倍増する。今更自らの穢れで䰠を増やしたところで、大した増強は見込めない。

 雲隠れするつもりなのか? だとしたら逃がす訳にはいかない。


 紅桜の翼に霊力を集中し、更に加速させた。既に飛翔のコツは掴んだ。無駄な力は身体から抜け、鳥のように滑空出来るようになっていた。これなら一時間でも飛んでいられそうだ。残念ながら、鎧の纏い限界時間を超えられないけれど。


 青い光が見えた。

 天空は姿を消せていない。どうやら式神の真実が言っていたことは本当らしい。

 使役者である天空に不利な情報を、どうして教えてくれたのか? ともかくあの叫びには何かしらの決意が感じられた。


 とはいえ天空の飛翔速度はやはり侮れない。こちらはかなり加速しているのに、姿を見失わないように張り付くのがやっとだ。

 いつの間にかRID上空付近に入っていた。


 天空は何を思ったか、突然進路を変えた。それを目で追うと、空を飛ぶモンスターたちの群れに飛び込んでいった。

 腕が翼になっており、脚が鳥のような鉤爪をしている生物。聖明依がネットで調べた呼び名は《ハーピー》だった。

 そのハーピーに天空は一撃づつだけ殴ってすぐに離脱した。鬼煌帝の一撃なら、簡単に絶命出来るはずだが一羽たりとも墜落していなかった。


 群れが一斉に聖明依に向かって飛んできた。かなり殺気立っていた。

《聖明依、やつら䰠になっているぞ》

「天空は、接触することで䰠堕ちさせるのか。一羽づつ相手にしている暇はない。《花輪》をばら撒いて仕留めるわ」

《ならば、ロックオンは我に任せろ。相手が䰠なら容易い》


 凰鴆は姿こそ雄孔雀ではあるが、本来は伝説上の毒鳥である《鴆》に由来する。触れるもの全てを毒殺すると言われているが、凰鴆の場合は見つめた獲物を仕留めるという性質も備えた。言うまでもなく「触れたものは死ぬ」という特性は紅桜の鎧に反映されている。


 面頬の眉間パーツが聖明依の目を覆った。

 聖明依の眼球の動きのみで、凰鴆は全ての䰠ハーピーをロックオンする。

 そして翼から羽毛が舞うように桜花びらが広がると、一斉に䰠パーピーを貫いた。

 紅桜のもっとも低難度の技《花輪》である。

 聖明依は言霊を唱えなくても、意識だけで術を発動できた。


 あっという間にハーピーを全て撃ち落とした。

 天空に通用すればいいが、この威力では鎧に簡単に弾かれてしまう。やはり撫士虎で直接撃たなければならない。


 ゴーグルは装備し、天空の気配を形として視認した。

 それは、ダンジョンの中央へ降り立った。

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