第十一話 鎧の加護

 そのままバイク機燐獅は大瓶を担いだ天空を轢き飛ばした。

「ぐお⁉」

 大瓶がひっくり返り、残っていた穢水えすいは全て紅桜に掛かる直前に神気で浄化されていく。

 紅桜の聖明依が、アマシアたちの手前まで行き片膝を付いた。

「大丈夫? お姉さん、飯塚さん」

「聖明依ちゃん! あなた大怪我しているんだから寝てなきゃ駄目じゃないの」

「言ってなかったけれど、鬼煌帝の鎧は代謝機能を加速させる働きがあるの。だから、鎧さえ纏ってしまえばたとえ首を飛ばされようが死ぬことはない。それよりも!」

 聖明依は立ち上がり踵を返した。

 天空はゆっくりと立ち上がった。

「紅桜ぁぁぁぁぁぁ」

「天空!」

 宝剣撫士虎を抜刀し、天空に斬りかかった。



 ――聖明依がまだ床に伏していた時、凰鴆が言った。

《機燐獅から連絡があった。天空が現れたそうだ》

「何⁉ ぐっ」

《急に起き上がるな。身体に触るぞ。痛み止めがあるが》

「必要ない。鬼煌帝を纏えば動ける」

《撫士虎の召喚は我に任せろ。桜吹雪に身を委ねていればいい。その後で、機燐獅が開いているゲートに飛び込むぞ》

「分かった」



 ――撫士虎の刃が天空の篭手を捉え、赤と青の火花を散らせた。

 アマシアが叫ぼうとした。でも力が入らない。

 それを見た式神の真実が叫んだ。

「槇村さん。天空の力は歪んだゲートを通ったせいで十分の一くらいです! 主を倒してください」

「飯塚さん」

「はい」

「聖明依と呼んで。みんなにもそう言ってるから」と、真実と天空の顔を見比べた。「なるほど……。本物の飯塚真実は、䰠の穢れを取り込んでいたのか」

《こいつから、䰠の気配がプンプン臭ってくる。どれだけのことをすれば、ここまで堕ちるのか》


「あのまま死んでいれば良かったものを、この赤バエめ」

「これだけは言っておく」

「あ?」

「なぜ両親や師匠を殺し里を襲撃したのか、そんなことはどうでもいい。私は、陰陽騎兵としてお前を斬る! それだけだ」

「今まで殺してきた連中はみんな、それを一番聞いてきたのだがな。おまえ、頭おかしいのか」

「そのとおりだ。私には当たり前の感情の一つが欠落している。だから、お前を斬る今になっても、こうして笑っていられるのさ!」

 天空の腹を膝打ちし、怯んだところで篭手に一太刀いれた。

 すると亀裂が走り、篭手があっという間に飛散した。


「なにぃぃぃぃぃ?」

「䰠の穢れた力で鬼煌帝を纏えたとしても、青龍の加護を受けられるわけじゃない!」

 天空が左手を払った。それは大きな風を巻き起こし、室内に竜巻を起こした。

 アマシアと真実が吹き飛ばされそうになる。

 すぐさま聖明依は、紅桜の篭手だけを解除して二人を抱きとめた。

「熱い!」

 やはり駄目か。

 紅桜の鎧は常に熱を帯びている。霊的な性質が大半ではあるが、魂を持つものが触れれば焼けただれてしまう。篭手だけを解除しても、胴体からの熱波にアマシアたちが苦しみだした。


 鎧を解除するしかない。


 しかし、解除すれば二度と動けなくなる。

 まだ身体が完全に完治していない。

 天空は空いた天井から飛び去ってしまった。


 ブオォォォォン!


 その時、機燐獅が排気音を上げた。

「そうか、お前がいたんだった。この二人を頼む!」

 聖明依が竜巻のなかで二人を投げると、機燐獅はベルトのような触手でしっかり巻きつけ、器用にシートに座らせた。

 

 そして機燐獅は飛び込んできた壁の穴から脱出した。

 聖明依はそれを見送ると、力の限りジャンプし、紅桜の翼を広げた。

「凰鴆!」

《やつの気配は追っている。翼で誘導する》

「頼む」


 紅桜が飛行する方角は、あのRIDだった。

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