四章 真実

第十話 奇襲

 青い手は部屋の光で煌めき、辺りをうかがうように手首を回した。そして一気にレーザービームとなって射出された。

 それが瞬時に人の形となり、蒼き光沢を放った。流線形の甲冑に光る目、能面を思わせるマスク。


「ゲートを開いてきてみれば、これはこれは。生きていたとはな、我が式神」

 天空がそういうと、頬面の中心が割れ両サイドにスライドし開け放した。

 そこには真実とよく似た顔があった。顔立ちはそっくりだが、どす黒い吹き出物が悪目立ちをしていて、そっくりとは言いがたかった。

 それを見た式神と呼ばれた真実は、尻餅をついて後ずさった。

「……あるじ、なぜここが」


「あの紅桜めが、RIDにいた我が配下どもを根こそぎ滅してくれたおかげで、力をかなり削がれたのだ。そこに䰠胤を積んだ車から出てきた、このウサギ女のゲートを利用してわけさ」

 ウサギ女と呼ばれたアマシアは、多少むっとするだけの冷静さは残っていた。

「私たちに正体をばらして、ただで済むと思ってるのかしら」

「意味もなくバラしたと思うか? これは宣言だよ。お前を殺す宣言をしただけだよ、アマシアお姉ちゃん。もちろん、式神もここで滅するさ」

「あなた、やっぱり真実ちゃんなのね。どうしてこんなことをするの? 聖明依ちゃんの故郷を滅ぼしたってどうして」

「終わったことなどどうでもいい。スパイとしてのアマシアお姉ちゃんの役目はもう済んだしな」

「何のことよ。私はあなたのスパイなんか」


「していたさ。小さい頃、別れ際に呪を施したんだよ。私が陰陽騎兵を襲撃するためのゲートとしてな。だが、お前は桃源神宮に行かなかった。だから別の男に取り入った。あのロリコンめ、簡単に呪にかかりおったわ」

「まさか、その人をゲートにして里に?」

「ああ。この天空の鎧も、その男が盗んだものだ」

「おかしいと思ってた。桃源神宮の強力な結界を打ち破って、里が襲撃されるなんて。あそこは地震すら弾くって聞いてたから」

「そして、アマシアお姉ちゃんは月桂のスパイとして、私に全ての情報を提供してもらった次第さ」

「そんなことが」

「だが、天空を通すためのゲートとなると無理があってな。この間、紅桜を狙撃した時、ついでにお前のゲートも強化しておいた」


「そんなことって……」

 聖明依の元相棒クロアを死に追いやったのも、全て自分がしでかしてしまったことだったとは。

 アマシアの心が鈍痛にかられ、悔悟かいごの涙が溢れた。目から光が消え、深い闇に落ちていく。

「ふはははっ。いいぞ、䰠に落ちるか? そうしたらお前を我が配下にしてやろう」

「アマシアさん、いけません!」

 式神の真実がアマシアに抱きついた。


「真実ちゃん?」

「気をしっかり持って! 䰠に落ちたら、槇村さん……聖明依さんが哀しみます」

「聖明依ちゃんが……」そうだ! 「私は、聖明依ちゃんの相棒よ! あんたなんかの配下になってたまるもんですか!」

 アマシアは、壊れたペンダントを天空に見せつけた。

 天空はそれを睨みつけ、苦々しく舌打ちした。

「ちっ。その結界のせいで力が思うように出ていないのか。だが今は十分の一だろうと関係ない、䰠胤を浄化したあの清水さえ飲めば!」


 天空は大瓶を持ち上げると、その中の水を豪快に飲んでいく。

 真実がアマシアに言った。

「いけない。主は、ああやって䰠の力を身体に取り込んできたの。だから終わったらすぐに廃棄しようと思ってたのに」

「絶体絶命かしら」

 䰠堕ちはなんとか踏みとどまれたものの、このままではふたりとも天空に殺される。秘密を知りすぎた。盗聴してあると言えば、おそらくその関係者を消しに行くだろう。

 脅しが通じる相手ではない。


「聖明依ちゃん……」

 床に伏している彼女を思い、壊れたペンダントを握りしめた。


 ブオオオン! ブオオン! キュルルルルルル!


 凄まじい排気音が外から鳴り響き、窓のない壁が破られた。

 そこから、獣のようなバイクに跨った紅き鎧を纏った騎兵が姿を表した。

「聖明依ちゃん⁉」

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