呪いのダイヤ その②
䰠を含むモンスターの検死が行われている、特殊部署《魔科研》。
ID認証後、受付に向かう。
「ご苦労様です。ご用件をお願いします」
「あら? 人が応対しているの?」
「エルフですけど」
「ごめんなさい。エルフもバニィも『人』くくりにしてたんだけど、失礼だったかしら」
「差別とか色々煩いですから……。私も『人』くくりの方が楽なんですが、そんなところを他のエルフに見られたら、ちょっと」
「そう。早速、用件を言うわ。『私の名前は槇村聖明依』よ」
「お待ち下さい」
視線を落とし短い金髪の髪を垂らした女エルフは、ARキーボードを操作した。
キーボードが消え、机が割れてカードが出てきた。
これを聖明依に手渡す。
「どうぞ。一日パスカードです」
「赤色?」
「Lv
「へぇ。どこでも入れるんだ」
赤い色のグラデーションによる、複雑な模様が描かれていた。メタリック部分は、電子端末か何かだろうか。
陰陽騎兵のアイテムに応用できるかもしれないと思ったが、今は機械いじりより任務が先だ。
軍服に魔硫式自動小銃を構えた警備員と何度もすれ違いながら、目的の魔科研室にきた。
真っ白に塗装されているが金属製で硬そうな扉だ。
右の端末に先程の赤いパスカードをかざすと、端末ではなくカードそのものが反応を示した。メタリック色が輝き、青色に点灯した。
「おっ、これは斬新だな。そうか、パスケースがロック制御をしていて、壁の端末がキーなのか。このシステムを考えたやつは、かなりの偏屈だな」
「その通りぃ。よくぅ、分かったね」
「あなたが、ここの責任者ですか」
「そんなところだなぁ。奥へ案内するよ」
語尾を静かに伸ばす話グセがあるな、とこの老人の後ろをついて行きながら周りを見た。
ゴブリンや顔が狼のモンスターといった様々な死体が検死台に横たわっていたり、巨大な試験管に保管されていたりしていた。所々で、ぽこぽこと空気が液体から抜ける音が聞こえた。
「ここは、ネットで見た悪の秘密結社ですか?」
「あはははっ。そんな悪党いたら紹介してほしいのぉ」
「お一人でここを?」
「ああ。ほとんどAIがやっておるからなぁ。申し遅れたが、教授のギム真田だ。こう見えてエルフでのぉ」
頭は禿げており、後頭部にかろうじて髪が残っていた。耳は長く、目は細い。老齢のエルフと言うのは、みな頬が弛んでしまうのだろうか。腹は出て無く、マッチ棒のように華奢だった。白衣が肩から崩れ落ちるのを、上腕に巻いたベルトで防いでいるようだ。
自分より背が低い老教授に、聖明依は軽く頭を下げた。出来れば、色々な死体を触ったであろう手の握手は避けたかった。
「巡査部長の槇村聖明依です」
そんな意図を汲み取ったギムは、ニカッと笑った。
「存じておる、稀代の天才陰陽騎兵だろ。昨晩は世話になったのぅ」
「陰陽騎兵としての務めを果たしたまでです。」
「ごくろうさん。例のもんなら、何重のプロテクトをかけておるから。ほれっ」
そこには、ブルーライトの警報装置に照らされた䰠胤が置かれていた。霊感のないものにはわからないだろうが、聖明依が念を押して、強固な三次元に展開されている結界を張ってもらった。
見た目はやや大粒のダイヤモンドと何ら変わらない。カットは荒々しく、素人目には価値が無いように見えるかもしれないが、宝石商に見せれば喉から手が出るほど欲しくなる天然石に見えるだろう。
だが、その正体は結晶化した䰠だ。䰠が討滅される時、稀にこれを残す。それに触れたものは、生物であれば無差別に䰠と化す。まるで䰠が子孫を増やすために残したような胤、だから䰠胤だ。
「僕ぁ、これを見るのは初めてでね。実に興味深く、そして実に恐ろしかったよ。このクラリティに、この透明度、見た目は数億はくだらないダイヤだからね。それでもね僕ぁ、怖くなるんだよ。霊感はないんだけどね、見ていると意識を乗っ取られそうになるのさ」
「ええ、だから非常に危険なんです。浄化しなければなりません」
「君がやるのかぁ?」
「浄化を行うのは陰陽師の役割なのですが、桃源神宮の陰陽師は全滅してしまって……。あてもありませんから、私が行うしか」
「陰陽師なら、RIDで探せばおるぞ」
「『ライド』?」
「有名な観光名所なんだがな。ランダム・インスタンス・ダンジョン、略してRID。不可解な変質を繰り返すダンジョンのこと。ハンターたちの中に陰陽師もおるときいたぞ」
「観光名所? そんなのどこにも載って無かったですよ」
「あぁぁ、そうかそうか。名目上は、危険地帯で近寄るなって言われてたんだっけかぁ。それはそうと、行ってみるかねぇ?」
「ハンターには登録者リストがあるんですか?」
「ああ。公開されとるよぉ」
二人は別室に移動し、スリープ中だったディスクトップパソコンを立ち上げた。
「検索。RID・陰陽師・ハンターリスト」
ギムの音声に反応し、ARディスプレイに顔写真付きのリストが表示されていく。
そして、一番上のプロファイルを指で触ると
「ほれ、この娘が陰陽師ハンターのランキングトップだのっ」
と、指で横にすっと弾く。アバターが一周りし、ツインテールが漂い流れていく。
やや不釣り合いなつり目はまっすぐ前を見たまま視線は変えない。ミニスカートがふわふわと舞い上がり、ピンク色のパンツが丸見え状態だ。細身の身体には、女性らしい部分がそれほどない。この学生服のような姿は、登録時のものなのかもしれない。
ギムは楽しんでみているようだったが、聖明依はそれを
「凄い戦果ですね。他より軽く五倍は稼いでいる」
「この量子コンなら、下からも覗けるぞい」
「もう十分、そのパソコンの凄さは分かりました。それよりも、過去の戦績を見せてください」
「女には女の色気は分からんかぁ。どれどれ……ロックされとるなぁ。非公開もしくは、抹消しているのかもなぁ。この成績で新人はないよなぁ」
「名前は……
周り続けるアバターを見つめながら、この娘から得体の知れない何かを感じ取っていた。
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