第十一話 蒼く輝く鎧?

 ――聖明依のマーカーが、民間人の地点に重なった頃。

 クロアは、魔硫式拳銃でゴブリンを一匹づつ仕留めていた。

「こんなことなら、魔硫式の剣も持ってくればよかった」

 モンスターの皮膚はとても硬く、生半可な武器では傷一つつかない。今クロアが腰に下げている剣は、剣警の身分を証明する以外役立たずなのだ。

 そんなゴブリンの頭を素足で蹴って粉砕する聖明依の脚力は、やはり常軌を逸しているとしか思えなかった。


 何匹のゴブリンに囲まれているのか。

 それ以前に、あの獰猛なゴブリンたちがなぜ民間人を襲わないのか。これだけの数がいれば手に負えない状況は、すぐに来ていたはずだ。

 不幸中の幸いか、すべてクロアに襲い掛かって来ていた。それに、魔硫ガスの濃度を下げる環境設備のおかげで、モンスターの動きがだんだん鈍くなってきた。


 再び襟に話しかけた。

「こちら八木薙巡査、応援はまだでしょうか」

『すみません。今日のAI予測では大事件が起きないはずだったから、ほとんど非番で。デスクからも数名、現場経験者を向かわせているところです』

 いつもはニヤニヤしながら話している、生身ではない女性オペレーターだったが、今回だけは参った。融通がまるで効かないからだ。


 この回答は一体何度目だ。


 さすがのクロアも通信を途中切断した。

 弾倉マガジンも心もとなくなってきた時、通信が入ってきた。

『こちら槇村巡査部長。民間人を発見した。至急、保護を頼む』

 保護してほしいのはこっちだ、という愚痴は飲み込んで「了解です」と応答した。

 それと同時にようやく、視認できるゴブリンを全員駆逐できた。一息入れて応答を続ける。

「こちら八木薙巡査、周りのゴブリンは掃討しました」

 

 自身の千里眼が急に発動した。

 これは一度見たことがあるもの、興味を持ったものが現れたときの現象だ。最近は聖明依のパンチラとか、カフェの店員のブラチラとかに反応してて困ってたが、それとは違う感覚だ。


 蒼く輝く鎧?


 慌てて聖明依に連絡を入れる。

「あっ、あれは蒼く――」

 その刹那、額に衝撃が走った。身体ごと浮かされ、もんどり打って背中がアスファルトに削られてしまった。

「っ⁉」

 声にならない叫び声を上げ、思わずアスファルトに爪を立ててしまう。

「んぐぅぅぅぅぅ」

 爪が剥がれそうな激痛が走った。


 仰向けのまま動けず、青空が眩しかった。

「何が起こった? 聖明依にもう一度……」

 慌てすぎて変な伝言になってしまった。もう一度言い直そうとするが、通信機が反応しない。

「こちらクロア、こちらクロア……。もしもし……。な⁉」

 ようやく身を起こせた時、自身の上半身が裸になっていることに気がついた。

 制服が弾け飛んだみたいに、あたりに破れた布が落ちていた。


 ビューーーーーン。


 先程は聞き取れなかった音が、また耳に響いた。

 慌てて頭を地面に付けた。

 するとそのすぐ上で、アスファルトがえぐれる音がした。

「狙撃か? やばい。次に撃たれたらもう……」


 ビューーーーーン。


 死んだ……。

「しっかりしろ! クロア」

 その声は、凛としていて和を思わせる、温かくも毅然とした力強い女性の声だった。その声の持ち主はもちろん、

「聖明依?」

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