第三話 千里眼の目撃者

 檄・剣警隊月桂に入隊させられた挙句、霊力のかけらも感じられないような優男と組まされるとは思わなかった。

 すでに将校は上司だ。命令に逆らう訳にはいかない。


「納得が行かないようだな、聖明依君」

「当たり前です、足を引っ張りかねない男と組まされるなんて。陰陽騎兵の訓練兵のほうが何倍もマシです」

「詳しい話は車の中で。なんせ今夜はもう明ける。聖明依君も部屋で寝たいだろうし、寮に案内するよ」

 区画の外れに待っていた、黒いセダンタイプの乗用車の後部座席が開けられた。


 全員の搭乗を助手席の将校が確認すると、乗用車のAIに発進を命じた。

「ガソリン車なの? どこも電気自動車なのでは?」

 排気音に気がついた聖明依が言うと、隣の席のクロアが答えた。

「電気自動車は普及が始まって二十年たった今も、馬力が今一つで。あ、環境に関しては安心してください。魔硫ガスで動く《魔硫エンジン》ですよ」

「あなた、私とほぼ同期なんでしょ。タメでいいよ」

「あ、ごめんなさい。僕と同期の人なんて初めてで」


「魔硫ガスって一体何なの。ネットでは超能力者になれるとか、夢の未来エネルギーとか言われてるけど」

「概ねあってる……よ。魔硫ガスは凰都にしか産出されない新元素、だけど弊害までは伝えられていないんだ」

「弊害?」

「理性が侵食される。とくに性欲の方向に」

「は? 嘘でしょ。ネットには何も」

「出来るだけ情報規制してるからね。でも街にあるくらいの濃度なら、頭がおかしくなることはないよ。興味があるならデータを渡すよ」

「部屋に頼むわ。ところで将校」


 将校がバックミラーをみた。

「なんだ?」

「理由をそろそろ教えてください。どうして、クロアと組まされるのですか? 陰陽騎兵の動きに一般がついていけるとは思えません」

「彼が、鬼煌帝天空の目撃者だとしてもかな」

「な⁉」

 聖明依はクロアを睨みつけた。そして肩を掴み問いただした。

「クロア、あんたが。どこ、どこで見たの? ねぇ、どこよ!」

「聖明依、い、痛い……」

「……あ。ごめん」

「すごい力だね、陰陽騎兵って」


 将校がニヤけながら言った。

「仲よくやっていけそうだな。八木薙巡査は、千里眼の異能力者なんだ。天空を目撃したのは偶然らしい。俺に『ジャパニーズ宇宙刑事が本当にいました!』って、血相変えて報告してきたときは、病院に電話をかけるところだったよ。はははっ」

 聖明依が再びクロアを見た。そして、目をじっと見つめた。

 クロアの顔が赤くなる。

「千里眼……。十二神将の力の一つ《天空》の力を持つあれは、文字通り霊力の探査はおろか実際のレーダーにも引っかからない飛行能力を持っているのに?」

「見えたんだ。蒼く輝く、メタルカラーの鎧の姿が」

 聖明依がまた肩を掴んだ。


「ひっ、聖明依、肩はちょっと」

「見つけた……、やっと見つけた」聖明依の顔が、怖く笑った。「私の両親と師匠を殺し、桃源神宮を壊滅させた、裏切り者を!」


 車が目的地に着いた。

 聖明依がドアに手をかけたときに呟いた。

「天空の纏い手は、必ずこの手で殺す!」

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