第21話 ■エピローグ■(完結)
佐竹や綸子にも表面的な説明をし、一応事態は収束にむかった事を告げた。
彼らは収束記念に、4人で何処かに遊びに行く事を提案した。
「ダブルデートですね、佐竹様」
と上機嫌な綸子。
「デートとは好き合った男女が睦み合う事。それが2組でダブルデートだ。この場合は該当しない。まずはグループ交際と言うべき」
丹念に論破する佐竹。
「いいじゃありませんか。ミナミ君とマイカは公認なんだし。後は私達で」
「どこの機関が公認した?ミナミと青梅が交際するなら、小生はも、桃澤さんをエスコートするにやぶさかでないが」
「お断りいたします」
ときっぱり全否定の綸子。俺の立場がない。
まあその話は後日に企画するとして、俺たちは久々に二人きりになりたかった。
つぎの休日に俺たちは、郊外にある運動公園に行って、貸し自転車でのんびり遊んだ。
バス乗り場で待っていると、約束の時間の5分前にマイカが走ってきた。
「ごめんなさい。遅くなって」
いや定刻前だから。俺が勝手に早起きして、勝手に30分前から来てただけだから。
「服が決まらなくて。きららが色々口を挟むし」
今日のデートは、桃澤家の一大イベントになってたらしい。
「どうかな?こぉいうのあんまり着ないんだけど、変?」
いつもあまり体型の目立たない服を好むマイカだが、今日のは特に生成りの麻みたいな薄い布で、すとんとしたワンピースだった。前は全部ボタン止めで、スカート丈は膝まである。サイクリングだからミニスカは無理でも、ホットパンツで、健康的なモモトフ(最もシンプルなアナグラム)が拝めるかと思ったのだが、ちょっと拍子抜け。どっちかつぅと、ミー(@ムーミン谷)的なモノを感じる…。だが茄子で学習しているので、口には出さない。
「きららが、これ絶対お義兄さん喜ぶって…」
もう義兄と呼んでくださいますか、義妹よ!
「はい、義兄は大層喜んでおります」
「あ、きららが勝手に呼んでるだけだからね」
マイカが慌てて訂正する。顔真っ赤。もう可愛くてたまらん。
学校行事の代休で平日だったので、公園には殆ど人がおらず、貸し切りの様なものだった。俺たちは1周5km程のサイクリングコースをゆっくり回った。
スピードが出て、風の抵抗があると、マイカのワンピースはくっきり体のシルエットが出る。
義妹よ。一瞬でも、お前の選択を疑った愚兄を許しておくれ。
途中に屋根付きの休憩所が所々あり、そのたび俺たちは自転車を止め、ベンチに座り、いやマイカは俺に座り、キスをした。
いつもは胸に手伸ばすと、
「だーめ」
と言って、手をぴちっと叩くのだが、この日はちょっとだけ許してくれた。
「ふふふ、ぱふぱふ」
「ばか」
「メグルほらほら見て、展望台だって。そこでお弁当食べようよ」
途中でマイカが自転車を止めて言った。ふわっと自転車から降りる。ウエストの絞ってないワンピースの裾が綺麗に回る。マイカの素足がモモトフまで見える。
義妹よ、いたずら電話の件は不問に付すぞ。
自転車を駐めて、山道を登る。展望台は山の頂上にあり、20分位かかった。あまりに遠いせいか、途中誰にも出会わなかった。頂上は一面のすすきヶ原。展望台の周囲だけ刈り取られており、石のテーブルと、ベンチが置いてあったので、早速早めのお昼にする。
「気にしないで。あの時叱ってくれたから、今幸せなんだから」
とマイカは言ってくれたが、俺の気が済まないので、酷い事を言ってしまったお詫びに、この日俺は、4時に起きて弁当を作って行った。
「美味しいよ。メグルって料理上手だね」
「うん、メグ、桃澤家のいいお嫁さんになる」
卵焼き、たこさんウインナ、ほうれん草おひたし、おかか海苔ご飯、という超シンプルな俺の弁当を、美味しそうに食べてくれたマイカは、卵焼きがこげない為にはどうしたら良いかをレクチャーしながら、ベンチに横になった。
「おなかいっぱい。メグルみたいになった」
マイカはおなかをさすった、
「本当だ」
俺はマイカのおなかをさすり、そのまま手を上の方に向かわせた。
「もしもーし」
「いやー、こんな所にもお弁当が詰まって」
「キャーキャー助けて~。変態さんに襲われる~」
マイカは腕を胸の前で組んで我が軍団の侵入を防いだ。しばし小競り合いが続く。あと少しで前線突破…。
「こらこら、もう終了」
マイカが足をばたばたさせて暴れる。風を孕んで、スカートが大きく波打つ。あ!縞だ。
義妹よ、今度アイスクリームでも奢ろう。
「見えた?」
「ボートの時と同じパンツ?」
「あぁもう!そうだよ、そうですっ。メグルのエッチ、スケッチ、ワンタッチ!」
小学生フレーズで答える。怒ってはいない様だ。
マイカは体を起こして、ちょっと黙った。何だい?改まって。マイカはベンチに正座して、静かに語りだす。
「わたしの従姉妹のせいで、メグルにはいっぱい心配と迷惑かけちゃって…ごめんなさい。でも、ありがとう。メグルとつきあえて…本当によかった」
そのお言葉だけで、本官は3杯は飯が喰えるであります。
マイカはちょっと悪戯っぽい顔で、
「お礼に、何か一つ、願いをかなえてあげる」
椅子から転げ落ちる三枝がフラッシュバックした。
「結婚してくれ」
「それは反則だよ。…今出来る事」
「うーん…例えば?」
「例えばね。キスして欲しいとか、膝に乗って欲しいとか、ぎゅって抱きしめたい。とか」
それ、自分がして欲しいことじゃん。
「じゃあねぇ…」
俺は小さな声で言った。恥ずかしいっ。
「胸もみたい」
「さっきから揉んでるじゃない」
「違うよ。胸揉みたいじゃなくて、胸も見たい」
「そう来たか」
「俺たちさ。高校で再会した時がああだったろ?」
「うん。ふしだらなわたしのせいで」
「公園で、俺はマイカの胸に惚れてつきあいたいみたいな事言ったけど、やっぱりそれは普通じゃないと思う。だけどマイカはこれから中身も好きになって、と言ったよな?」
「なった?」
「あれから俺は毎日毎日毎週毎週毎月毎月、どんどんマイカの全部が好きになって行った」
「わたしも」
「あのときの思い出は一生大事にするけど、」
「しなくていいから」
「今度は偶然の事故じゃなくて、恋人としてマイカの胸が見たい」
「なんか丸め込まれてる気がするな」
おっぱい魔人の陰謀は、あっけなく看破された。
ずいぶんマイカは黙っていた。気まずいな。言わなきゃ良かった。
「メグル・・・、そんなに見たいの?」
「ごめん・・・無理しなくていい。今のマイカが出来る事で」
しばらくの沈黙のあと、マイカは小さくつぶやいた。はっきり聞こえなかったが口の形から、
「ま、いっか」
だと多分思う。マイカは立ち上がり、地面に線を引く。
「この線からこっち来ちゃ、駄目だからね」
もしかして、願いが叶うのか?幸運にも胸を見せてくれるとしても、
「人気企画!あなたのおっぱい見せて下さい」
みたいに前ボタンだけ外して、ブラを持ち上げて見せてくれるのかと思っていた。
ところが、こんな時のマイカはかなり思い切りが良い。線から2m程離れて後ろ向きにしゃがんだマイカは、背中に手を回してブラのホックを外すと、ワンピースと一緒にいきなり脱いだ。ワンピースを考えた人に国民栄誉賞をあげたい(紀元前の誰かかな?)。
そして義妹よ…、まさか、ここまでの展開を考えての選択なのか?どんだけ策士…。
「脱いだよ」
マイカは、こっちを向いて立ち上がり、真っ直ぐ立った。でも胸は隠したままだ。
「桃澤先頭、体操隊形に開け!」
反射的にマイカが手を腰に当てる。おっぱいがぽよんと飛び出す。小学校時代最前列だった子にしか使えない作戦、大成功!
「もう…、エッチな事だけは天才ね。ご要望通り、脱ぎました。きららのせいで、こんな格好になっちゃいました。どう?」
どうってあなた。感激っす。ファッションショーの時以来の美乳っす。しかも太陽の下で。
ああ、自分頑張って良かったっす。もちろん縞パンも最高っす!ブルマとそう変わらないのに、ビキニのボトムと全然変わらないのに、なんでこんなにエッチなんだろ。夏の海以来のおへそも、なにもかも可愛いっす。
「やっぱり恥ずかしい…。もう着ていい?」
「もうちょっとだけ…。ごめん。そっち行っていい?」
「線越えたら、巻き戻すから」
田岡先生の、2枚目の手紙にあった赤い二重線を思いだした。
今日は美術鑑賞に専念しよっと。
俺はアラン・ドロン(野沢那智)の声で呼びかける。
「君の胸、あの時より大きくなっていないか?」
マイカがダリダ(金井克子)の様に答える。
「嫌な人…。誰かさんがいつも触るからじゃない?」
俺はさらにアラン・ドロン(野沢那智)になりきって、
「違うよ、きっと僕への愛がいっぱい詰まってるからさ」
ここらで、俺もマイカも我慢出来なくなって唄いだした。
「パローレ パロレ パローレ(邦題”甘い囁き”)」
ひとしきり笑い転げた後、マイカはゆっくり立ち上がり、伸びをした。
「あー気持ちいい」
初秋の陽に、輝く裸身の産毛が光る。
「あのぉ…、きっとパンツも脱ぐと…、より気持ちいいんじゃないでしょうか?」
「つけあがるでない!」
とマイカは時代劇の姫君(@パンイチ)の様にのたまったが、なんだか上機嫌だった。
そして、俺はこのあとのマイカを一生忘れないだろう。
両手を逆Vの字に開き、新体操のキメのポーズをするマイカ。
輝かしい十七歳の二つの象徴が帆船の船首像の様に、体の最先端に大きく突き出される。
思わず俺は、田岡先生が好きだったファウスト(ゲーテ)の一節を呟いていた。
「時よ停まれ!お前は美しい…」
臨終の床で、孫達に囲まれて(もちろんマイカおばあちゃんもいて欲しい)、
「いい一生だったな」
と人生の走馬灯を振り返る時、この光景は間違いなく
ザ・ベストショット・オブ・マイライフだ。と、その時俺は思った。
「くちゅん!」
マイカが可愛いくしゃみをした。おっぱいがぷるんと揺れる。夏が終わって、だいぶ涼しくなって来た。俺のために風邪ひかせちゃいけないな。
「マイカちゃん本当にありがとう。願いがかなったよ」
「ちゃん要らないから」
ちょっと残念そうに、でもやっぱりほっとしたように、マイカは服を着る。それから思い切り助走し、
「はじめのいぃ~っぽ!」
と言いながら線を飛び越える。着地点で腕を拡げてマイカを受け止めたが、マイカは止まらずいきおいが付き過ぎて俺は足がもつれ、抱き合ったまま二人はすすきの中に倒れる。俺の一本負け。
「うふ、メグルさんが転んだ」
マイカと俺は、柔らかなキスをした。
「ごめんね。俺のわがままで恥ずかしい事させて」
「また見せちゃった…」
「無理してない?」
「ううん、だって”自分で見・せ・た・の・よ。”だもん」
だからごめんよ。あの時は筆がすべって…。もう土下座したい。
「怒ってないよ(エー?ソウナノ?)。あの時は図星をメグルに書かれて、うろたえただけ(デンゲキビンタキタケド)。エロくてもいいけど、わたしだけを見ててね。浮気はしちゃだめだよ」
するわけないじゃないすか。秋の虫がセレナーデを奏でる中、俺の胸の上で安心しきって、
「大好き…」
と何度もつぶやくマイカを抱きしめながら、俺は明るい(エロの)未来を確信した。
「秘密のマイカちゃんは、俺がいつまでも守ります」
「ありがとう、エロっ子メグちゃん。お願いします」
その日は帰りまでラブラブだった。
この後もいろんな事があったが、今までの人生、概ね後悔はしていない。
まだまだ書き残した事は沢山あるが、この辺でひとまず昔話を終わらせよう。
俺の記憶にある、最良のマイカの姿を記せたのだから。
(終わり)
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これで完結です。
読んで頂けた方、ありがとうございました。
マイカの超能力の行く末や、メグルとの恋。佐竹と綸子の事など、気になる事も多いので、いつか続編を書こうとは思っておりますが、大分先になると思います。
若い方の掲示版書き込みなどで、
「(悲報)親父が○○にはまってた!(○○はアニメとか)」
とかいうのが多いですが、我々の世代は真性ビートルズエイジで、演歌聞いて育った訳ではありませんし、鉄腕アトムからの日本アニメファンなわけで、真面目くさって会社行ってるおっさん達にも、熱い青春時代はあったわけです。
若い皆さんには、そういう事を判ってもらえたら、同世代には、
「あったあった」と楽しんで貰えたらと思って書きました。
還暦過ぎたオタ爺からの、遺言みたいなもんです(笑)。
秘密のマイカちゃん 鈴波 潤 @belushi1954
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