第13話 ■じんじゃぁ&ぺっぱぁ■
この頃から俺は普通科でも話題の人物になって行ったらしい。
「T組の桃姫を射止めた大金星野郎」
と言うのはちょっと嬉しかったが、
「マイカ姫に乱暴して無理矢理言う事をきかせた」
はいかがなものか?乱暴?したいわ。させてくれんわ。女子の反応は概ね(大胸)
「ま、別れるのは時間の問題よね」
という醒めたものだったらしい(ヨッコ談)。男は嫉妬する奴もいたが(末松とか、末松とか)、廊下の向こうで、俺に手を合わせて拝んでいる奴もいた。俺は生き神さまかよ。そういう奴は、身長は様々だが、例外無く体型は俺似だった。つまり、
「飛雄馬よ。あれが巨腹の星だ!」
になったらしい。とうとう俺は、
「漫画界美人ヒロインの唯一のデブ彼氏=高畑」
と同様の地位を得たと言える。
「ミナミさんから勇気を貰いました。自分も高望みな恋ですが、告白します!」
という手紙を残して散って行った同胞も多かったとか。無茶しやがって…。
ジャイアン似のデカイ一年に、
「ミナミ先輩すか。お願いします。手形押して欲しいっす」
と色紙を渡された事もあった。おれは相撲取りか(近いが)。
一方、始めは大センセーションだったT組では、俺とマイカ関連のニュースは、次第に沈静化していったようだ(テケップ談)。まあ彼女達の周辺は、常に新しい恋でいっぱいだったせいもあるが、綸子の
「朱雀氏は存外、人物だよ」
の一言が、凛綸組(T組では大勢力)に浸透し、何より当のマイカが幸せいっぱいに見えるので、邪魔は野暮、という気持ちが湧いて来たのだと思う。
しかし、絶対に承服しない一部過激派が存在した事も事実だった。俺を
「ケダモノ」
扱いした1Tの過激派である。
二大派閥の、
「凛綸組」
「テケップファンクラブ女子班」
ほど多くはないが、暗然たる勢力である、
「MoMo Mania(通称MMM。後に大リーグで活躍し、日本人大リーガー輩出の草分けになった、あの大投手のファンに名前が似ているが、偶然である)」
当時のT組は定員40名。いくら女の園でも、もちろん男に恋するノーマル美少女もいるので、勢力と言っても、MMMは実働5人位だと思われる。
やっかいなのは、他の二勢力と違い、MMMは存在を公表しない。つまり
「守ってあげたいキャラNo.1のドジっ子もも先輩を影から支える」
気満々の女の子たちなのだが、本人はいたってしっかりしてるつもりなので、気を悪くされない様、絶対表には出ない正体不明の地下組織なのである。あいつかとバレた時点で失格なのである。
この傾向はマイカが俺と付き合い始めてからますます顕著になり、幸せなもも先輩を祝福しようと言うメンシェビキ穏健派(推定3人)と、あくまでも二人を別れさせるのが先輩にとっての本当の幸福と主張するボルシェビキ過激派(推定2人)に分裂し、暗躍が続いていた。
結局穏健派は、存在を俺とマイカに明らかにし、解散式をした(暴走族だね)。しかしながら穏健派も、流石にかつての仲間の名を売る様な事だけはしなかった。
恐るべき2匹の狼が、一般人にまぎれている。これが、当時の1Tだった。
荘ヶ崎リラが突然入部して来たとき、おれとヨッコは不審に思った。
流石にこの時期、1年はもういずれかの部活に所属している。帰宅部も多かったが、リラの場合は入学以来新体操部に所属しており、退部して放送部に来た、というのが怪し過ぎる。用心に越した事はない。マイカは相変わらず天然なので、
「リラちゃん?いい子だよぉ。新体操部の時は、何かと私の世話を焼いてくれて、飲みかけのジュースくれたり、体中の汗拭いてくれたり。部長さんなんて、リラちゃんはマイカちゃんの個人マネージャーみたいだね。って」
真っ黒じゃねえか。
元MMM穏健派の壹与ちゃんが廊下で俺とすれ違いざま、
「リラに気をつけて」
と言い残し、3歩程歩いてばったり倒れ、首には毒吹き矢が…。と言う事はなかったが、忠告されたのは事実だ。気をつけるったって、部活一緒じゃ、どうするんだよ。マイカの話じゃ、腰を痛めて新体操を断念したとのことだが、この150cmに満たないツインテール元気娘は、体育の時間も全力疾走してたし、部活でも元気いっぱいだった。
問題はリラがMMM過激派だとして、放送部に入って一体何をしたいのか?
と言う事だ。MMM残存勢力の闘争方針が、
「俺=ケダモノとマイカ=子羊をなんとかして別れさせる」
にあることは明白だ。放送部でなにをやる気か?そして残るもう一人のMMMは?
謎は深まるばかりである。
それはそうと、リラが入部して以来、末松がやたら俺の所に来る。
「ミナミ~ぃ。リラちゃんどうしてる?元気?可愛い?」
俺にはよく判らんのだが、世の中には、
「ロリコン」
という種族がいるらしい。末松は巨乳好きと思っていたが、ぺったんこもOKの様だ。リラはちょっと見、ランドセルと黄色い帽子が似合いそうな外見で確かに可愛い。マイカしか見えない俺には良さが判らないが、末松はぞっこんの様で、
「ミナミ先輩、お願いだからあのおじさんを放し飼いにしないで下さい」
と俺はリラから懇願された。下校するとき、いきなり近づいて、アメちゃんとかをくれるらしいが、迷惑と。
「いやあ、あいつは俺の飼い犬じゃないし」
「じゃあ駆除してください」
「ゴキブリ扱いはゴキブリに失礼だ」
この後輩は部活には熱心だし、もし内心俺を憎んでいるなら、完璧な演技じゃないか?と思える程、俺の言う事を聞く。可愛い後輩だ。1年のころなら
「俺に気があるんじゃないか?」
とキモイ妄想を抱きそうな、フレンドリーな態度である。俺ロリコンじゃないけど。
ヨッコも結構気に入っていて、
「リラちゃーん、ハグっ!」
なんて危険な可愛がり方をしている。
このままリラは放送部員として定着して行くのか?
果たして彼女の真の意図は?
そんなある日、ヨッコが爆笑しながら放送室に入って来た。
「メグ~ぅ。聞いて聞いて。もう笑える話」
「メグ言うな。なんだよ、俺を笑わせられなかったら、罰ゲームだぞ」
「判った判った。笑わなかったら、メグルの好きな、どんな変態プレイでもやってやるって」
俺ってどう思われているのか…、ちょっと悲しくなったが、もちろんあんな事やこんな事をするヨッコを妄想もした。
「で、何ですか?その大爆笑ネタとは」
俺は極めて平静を装って尋ねた。
「O野(もう仮名でさえ要らない)がさー」
あの、ヨッコさん。その禁句ワードだけで、もう俺絶対笑わないっすけど。さあどんなプレイがいいかな?縄と、洗濯バサミ…。俺がマニアックな妄想に浸っていると、ヨッコが続けた。
「O野(仮名)が泣きながら言うんだよ」
ほう、それは確かに笑えそうな話かも。
「ヨッコの前で、O野(仮名)泣くの?」
「あいつは泣いた事がない。ハットトリックしたのに、先輩の自殺点4連発で試合に負けた時も泣いたりしなかった」
例の、放送部を辞めた先輩らしい。活躍しとるなぁ。
「わかった。飾りじゃないんだな、奴の涙は」
「そのO野(仮名)があちしの胸に顔を埋めて、”もう部活辞めたい。アーデルハイド、お前と山羊を飼おう。”って、しくしく泣くのさ」
アルプスの山小屋に帰りたいらしいが、胸に顔を埋めてまでは言わんでよろしい。もちろん”O野(仮名)の弱虫!いくじなし!”って返したんだろうな?
「あのO野(仮名)がなにへこたれてんだよ。先輩のイジメか?」
「なわきゃないでしょ?あいつマゾだから、そんな逆境なら却って燃えるって」
スポーツ根性漫画で、最も賞賛される主人公の資質を、ヨッコはマゾと言い切って続ける。
「女だよ。女」
「なんだヨッコのせいか。O野(仮名)に同情するぞ」
「殴るぞ」
と言う前に俺の腹に一発フックをきめてから、ヨッコは言うのだった。
「最近入ったサッカー部の1年マネージャーに、色情狂がいるらしい」
「ぐふっ…。そんな羨ましい」
「そいつ、着替えてるO野(仮名)の後ろに回り込んで、やつの腹筋をすりすりするらしい」
「やっぱりおまえじゃねえか」
「あちしは良いんだよ。で、すっげー胸元の開いたTシャツを着て、乳首とか見せて来るらしい」
「なんですと?!」
「でもO野(仮名)はそういうの駄目なんだよ。あいつはあちしのものだからね」
外見に似ずO野(仮名:外見等個人情報の開示はいたしません。俺がめげるから)はくそ真面目で、ヨッコと付き合うまで、女の子と口をきいた事もなかったと言う。今でも2人でいる時はでろでろだが、ちょっとでも人がいると、お得意先の女性管理職、みたいにヨッコを扱うそうだ。
「まあ、その子が顔が著しく残念とか、体重が俺よりあるとか、そういうんだったら同情するけどな」
「それがさ、結構可愛いんだって。胸はあちしより小さいらしいけど」
いいから、そんなヨッコの胸毎日見てる前提の比較発言は。キーッ!
「ヨッコ、それかなり危険な状況じゃない?」
「そうか?笑えるだけだろ?」
すごい自信と信頼。もう俺はヨッコを取り戻せない。元々俺のじゃないけど。
今のところ笑えない。さあお楽しみ変態プレイの準備だな。屋上にロープを張って、洗濯物を山ほど干させてやる(ねえ、どんなプレイだと思った?ねえねえ)。
「そんだけじゃないんだよ。そのエロマネージャー、何組だと思う?」
突然俺も笑いが込み上げて来た。爆笑と言うんじゃない。判んなかった数学の問題が解けた時、もやもやがすっと晴れて、自然にこぼれる笑いに近い。
「MMMか」
「そう。そんなところにいやがった」
そうかそうかと俺たちはケラケラ笑った。
やつら2人の計画が全て判ったからだ。あんまり頭良くない奴らだな。
まず、リラが偵察のため、放送部に入る。俺を籠絡出来るならやる(俺ロリコンじゃないから残念でした)。
リラの調査で、俺とヨッコが仲良し、かつヨッコにはO野(仮名)という恋人がいる、と判ったので、もう一人がO野(仮名)にモーション掛けて横取り。
傷心のヨッコが俺に接近。俺とヨッコはラブラブに。
結果マイカはフリーに。
めでたしめでたし、と。
そんな上手な玉突きみたく行かねえよ!
面白いので俺もついて行く。本当に可愛い小柄なマネージャーが洗濯していた。
「あんたかい?うちのO野(仮名)に粉かけてんのは?」
「はあ?何ですか?なんの証拠が…」
染井胡蝶、という名のMMMはしらばっくれた。
「もうネタはあがってるんだよ。あんたのエロエロ攻撃」
「あたしはただ…。O野(仮名)先輩の前で転んじゃったら、たまたまパンツがまる見えになったり、首のゆるいTシャツ着てたら、たまたま先輩の視線の先に私の乳首があったり、半ケツ位いいやと思ってしゃがんで一生懸命洗濯してたら、ジャージが下がっちゃって、先輩に全ケツ見られちゃっただけで、やましい事してないです」
それがエロエロ攻撃と言うんだよ。羨ましすぐる。
「とにかくO野(仮名)にそんな事しても無駄だよ。奴はあたしにしか興味ないから」
「今はそうでも、絶対あたしに振り向くわ。だってアバズレなヨッコ先輩と違い、あたし…。処女なんだから!」
ああ…なんと言う事を…。
「馬鹿お言い。あちしとO野(仮名)だって、付き合い初めは新品さ。それからどんだけ研鑽を重ねたか…」
知ってた。だから悔しかった。でも、研鑽内容は言わないでね…お願い。
「絶対、あたしの若さで…。O野(仮名)先輩を…」
一歳しか違わんだろ。それにしても、この胡蝶って子、当初の目的と違ってない?
「プロ選手で、歳下の可愛い芸能人と結婚した奴は、みんな大成しないんだよ。栄養管理、健康管理、そして夜の管理、きちっと出来る年上女房が理想なんだ」
お前はO野(仮名)と同い歳だろ!と突っ込もうと思ったが、日頃俺がどんだけ同い歳のヨッコを頼りにしてるか考えたら、
「O野(仮名)をブンデスリーガに連れて行けるのはヨッコだけ」
と言う気が、確かにして来た。
「あたしも負けません!勉強するもん!」
計略でO野(仮名)を落とそうとして、ミイラ取りがミイラになったな。
「あちしはいいんだよ。あんたと…」
え?何を言い出す?ヨッコ身を引くのか?
「3Pでも」
胡蝶が、洗濯物をばたっと落とし、がっくりと手を付いた。昨日今日芽生えた男好きの心から、本来の上級生お姉様LOVEの本性に立ち返った(決して正しい姿に返ったとは言えない気もするが…)瞬間だった。
「…負けました。姉さんあたしを子分にして下さい」
放送室に戻り、胡蝶が降参した事をリラに告げる。
「私だけになっても。か弱いもも先輩を守るためなら、この身をケダモノの生贄に捧げても」
「だから俺はロリコンじゃないので」
「私と、もも先輩とどこが違うの?やっぱりおっぱいが小さいから?」
(そのころマイカは、部活が早く終わったので、ミナミと帰ろうと、放送部に向かっていた。)
「君とマイカの違いは、そんなとこじゃない。マイカには一片の邪心もない。純粋に俺を愛してくれる心だ。俺は例えマイカの胸が大きくなくても、マイカを愛するよ」
(そのころマイカは体育館から渡り廊下を通り、本館に向かっていた。)
「へー、メグも立派になったねえ。”あの子のおっぱいに惚れた。付き合いたい”って言ってた奴が」
「いや、それはヨッコ。あれから色々研鑽をつんでだなぁ。あとメグ言うな」
(そのころマイカは、放送室に行く階段を下っていた。)
「判りました。ミナミ先輩のもも先輩への愛は本物。MMMは今度こそ解散します」
「判ってくれて嬉しいよ」
(そのころマイカは、放送室への廊下を歩いていた。)
「でもお願いです。リラをこのまま放送部に置いて下さい。本当に…先輩が好きになっちゃったんです」
なんとここにもミイラ取りが!でも、困るよ、そんな…。俺ロリコンじゃないし…。
「ヨッコ先輩の事が…。大好き!」
そういえば、この人も本来そっち系か…。
「いいよあちしは。4Pでも」
「嬉しい!じんじゃぁ&ぺっぱぁ、ヨッコ先輩に精一杯ご奉仕いたします」
(そのころマイカは、放送室の防音扉の前にいた。)
荘ヶ崎と胡蝶で生姜と胡椒か…。ずいぶん中坊っぽいコンビ名だな。と思ったら、本当に二人は中学の同級生だった。
「おお、可愛いなあ、リラは。よしよし」
「でも、ミナミ先輩って、本当にもも先輩一筋なんですね。感心しました」
(そのころマイカは、放送室の扉を開けた。)
マイカ!どっかにいたら、すぐ来てこいつの話聞いてやって!聞いてやって!
「だって私が、向かい合わせでお膝にまたがって、”おにいちゃんって呼んでもいいですか?”って聞いても、うんって言わないんですよ。ぎゅっとハグしてくれたけど」
(バタンとドアの閉まる音。あ?マイカ?え?俺ロリコンじゃないです。)
「ミナミメグルさん。大事なお話があります。今すぐ私と校舎の裏まで来ていただけますか?弁解があるなら、まとめておいてくださいね」
マイカはニッコリ笑うと、恐怖の余りその場にへたり込んだ3人の中から、俺の襟を掴んで、ずるずると外に引きずって行った。
「俺ロリコンじゃないっす~っ!」
哀しい声が校舎に響く。
がたがた震えるリラをやさしく撫でてやりながら、ヨッコは言ったという。
「か弱いマイカを守って支える、MMMは必要ないだろ?」
リラは青ざめた顔で、コクコクとうなづくだけだった。
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