できすぎた恋愛

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第1話 本文

 ある心理学研究所で、新型恋愛実験が行われていた。


 内容はこうだ。

 まず、面識のない男女が一名ずつ密室へ入り、向かい合わせになっている椅子に座る。そして、それぞれに液晶タブレットが渡される。画面には二つの短文が表示されるので、そのどちらかを選ぶという二者択一式で会話をする。


 具体的に説明しよう。

 たとえば、女性側に「オシャレだね!」「笑顔がステキ!」という二つの文章が表示されるとしよう。仮に、前者を選んだとする。すると、スピーカーから選んだ方の文章が女性の声で流れてくる。そして、男性側には「ありがとう」「そんなことないですよ」と表示される。男性側も同じく、選んだ方の文章がスピーカーから男性の声で流れ、新たな文章が女性側に表示される。以下繰り返し。

 ただし、お互いにしゃべってはならない。


 記録が文章として残るので、証拠となるデータも集めやすい。


 実験の結果、「普通の会話よりも恋愛に発展しやすく、別れにくい」ということが分かった。さっそく、研究所は世にこの結果を発表した。

 すると、多数の婚活サイトからうちにも使わせてほしいという問い合わせが殺到した。所長はそれぞれに許可を出した。


 この新型お見合いといえる装置は瞬く間に普及し、続々と夫婦が成立した。そしてついには、独身の男女はいなくなった。


 ところが困ったことが起きた。

 独身の男女がいなくなったため、婚活サイトがもうからなくなってしまった。そして、そのような企業の倒産も相次いだ。

 しまいには「この装置を生み出した研究所が悪い」という意見が研究所に多く寄せられ、所長は謝罪した。


 うまくいっている間は何も問題はない。

 しかし、うまくいきすぎると、少し失敗しただけで、その反動は大きなものとなって返ってくるのだ。

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