第7話 魔王、服を手に入れる(古着)

 私は新米騎士のサラ。運の悪い私はなんだかとても大変な戦いに巻き込まれてしまった。


 私は目の前で何が起こったのか理解するのに時間がかかった。半裸男ことヴォルトは、炎の上位精霊イフリートを、マジックアロー一撃で葬ってしまったのだ。いったいどれくらいの攻撃力を持っているのだろう?

 いやむしろ最初から炎の魔人などいなくて、ただの幻術だったと言われた方が納得できたかもしれない。それくらい圧倒的な力で瞬時に倒してしまったのだ。


 私はびっくりして口を開けて棒立ちしていた。

 ゴブリンを操っていた悪い魔法使いも私と同じようで、茫然自失で立ち尽くしていた。


「ば……バカな?!イフリートが一撃で消滅させられただと……」


 ヴォルトは、魔法使いに向かって歩いてゆく。ふと炎の魔人イフリートが消えた場所で立ち止まり、足元を見る。そこには石が落ちていた。


「ん?」


 ヴォルトは、その石を拾って確認する。


「これは……魔石か。なんだ、お前?自分の魔力でイフリートを召喚したのではなく、この魔石の魔力を使って召喚したのか?大したもんだと思ったが、インチキじゃないか!」


 ヴォルトはその魔石を私の方へ投げた。私はそれをキャッチする。


「わ!」


「サラ、それは一応持っておけ。扱い方を間違うと危険だから捨てておくわけにもいかん」


「はい!」


 私はその魔石を腰のポーチにしまう。


 ヴォルトはゆっくりと魔物たちを操っていた魔法使いの元へ歩いてゆく。そいつは既に戦意を喪失していた。おそらく先ほどの炎の魔人イフリートが奥の手だったのだろう。


「このオレに牙をむいた罰を与えないといけないな!」


「ヒィイ!」


 ヴォルトは魔法使いの顔を右手でグワシと掴む。こめかみの辺りに親指と中指が挟まるような形で掴むと、手に力を入れ呪文を叫ぶ。


「≪魔力吸収マジックドレイン≫!」


「ギャアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


 ヴォルトに顔を掴まれた男は叫び声をあげると、男の身体が青白く光る。その叫び声は魔法による痛みなのか、単純に顔を掴まれた痛みなのか…。

 男はどうやら魔力をヴォルトに吸い取られているようだった。まもなく光が消えると、男は力尽きて動かなくなった。


「やべ!うっかり生命力エナジー吸収ドレインしちゃった……」


 そのヴォルトの言葉は聞かなかったことにしておく。

 倒れた男の顔を見ると、シワだらけの老人になっていた。


 その後、洞窟の中で残っていたわずかな生き残りのゴブリンを探し出して全て倒したり、悪い魔法使いの荷物から服を探して着たりした後、気を失っているしわしわになった悪い魔法使いをヴォルトが担いで洞窟を出た。


「そいつは殺さないんですか?」


「オレに歯向かった罰に殺してやりたいところだが、オレは慈悲深いのだ。サラ、お前たちのところにこいつを裁く警察や法律などの組織はあるか?あればそこに差し出して裁いてもらおう。人間たちの問題は人間たちに解決させてやる」


「あなたも人間でしょう?ああ、人間を越えた強さを持っているから、一般市民を見下しているんですね。今居住している村には大した組織はないのですが、私のいた王都には裁判所があります。村には私の仲間がいますから、この魔法使いは仲間と一緒に王都まで連行しましょう」


 という事で話はまとまった。

 村に帰るにも私は道に迷ってしまったため、ヴォルトが≪周辺捜索レーダーサーチ≫という魔法で人間がいる場所を探してくれた。すると村を見つけると同時に、迷子になった私を探している私の仲間も見つけてくれたため、私は仲間と合流し村に帰る事ができた。


 私たちがテロリストを追っていると話すと、ヴォルトは先ほどの≪周辺捜索レーダーサーチ≫という魔法で探してくれたが、ここら一帯にはこの村以外に人間はいないという事だった。

 また私たちのグループでの捜索でも何も見つからなかったため、私たちの任務は終了し、王都へ帰ることになった。ただ疲れただけの任務だった。


 転移魔法に失敗してここにやってきたヴォルトは、ここがどこか知りたいというので、私たちが持っている地図を見せたが、縮尺が違うと怒りだした。どうやらヴォルトはこの国の人間ではないらしい。

 ヴォルトが見たいような世界地図が見たいなら、ここから近いところなら隣町だろうと言われ、ヴォルトは私たちと別れ、その町へ向かっていった。


 私たちはゴブリンを操っていた男を連れ、王都へ帰還した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「全く私は運が悪いったらないわ!」


 その夜、私は友達と酒場でお酒を飲みながら、先日の任務の愚痴をこぼしていた。


「初めての仕事が辺境の村まで捜索に行くなんていう疲れる任務で、しかも何も見つからないし、森で迷子になるし、変態に出くわすし、ゴブリンに襲われるし、悪い魔法使いに殺されそうになるし、散々だったわよ!」


「もうー、その話何回目?お酒飲みすぎよ。でもサラ、逆に考えれば運が良かったんじゃない?」


「なんで?」


「だって、騎士になってすぐにそんな大仕事を任されたんだよ。下積みは地味な仕事ばっかりだって聞くじゃん?なかなか大きな仕事は回ってこないって言うでしょ。それにゴブリンに襲われても結局助けてもらったんでしょ?ゴブリンの巣に迷い込んじゃったなら、本当に運が悪かったら今頃死んでたんじゃない?」


「むむ……、そう言われてみれば……。そう考えると、私って運が良いのか悪いのかどっちなのかなあ?」


「それで、問題のテロリストはどうなったの?」


「それが、まだどのグループも足取りがつかめてないらしいの。いつまた襲ってくるか分からない状態だから、今でも城下は厳戒態勢よ」


「そうか。怖いわね……」


 そんな事を話していると、突然店の中が騒がしくなった。


「サラ?サラ・イマージェスはここにいるか?!」


「えっ?!」


 見ると、サラの上司がサラを探していた。なんだかとても慌てている。


「サラ~、また何かやったの?」


「休日に上司の呼び出しなんて、なんて運が悪いのかしら……」


「おお!サラ、ここに居たか!」


 サラをみつけた上司が、テーブルの横まできた。走ってきたようで汗をかいている。なんだか急ぎの用事だろうか?だがサラに心当たりはない。


「すいません」


 サラはとりあえず立ち上がって謝る。自分がどんなミスをしたのか思い出せない。


「休日にすまないな。大変なことになった。落ち着いて聞いてくれ。お前が捕えたゴブリンを操っていたという男、どうやら先日のテロリスト本人だったみたいなんだ!逃げた時よりもなぜか急激に老け込んでいて判明するのが遅くなってしまったが、間違いないらしい!」


「えっ?!」


「犯人が捕まって、事件はこれで解決だ。本当によくやった!国王陛下もサラに報奨金ボーナスを出せとおっしゃってくれているらしい!本当によくやったぞ!」


「すごいじゃないサラ!」


「えっ?えっ?」


 友人からも祝福されるが、頭が混乱している。なぜゴブリンを操っていた魔法使いが、逃げ回っているテロリストの魔法使いだと結びつかなかったのだろう?いや、それはあの全裸男のせいだ!あれでパニックになっていたのだ。そう言われてみれば、逃げているテロリストも禁断の魔法を研究していたと聞くし、ゴブリン使いの魔法使いも炎の魔人イフリートを召喚するなど、すごい魔法を使っていた。そんな魔法使いがやたらといるわけがない。ちょっとよく考えれば気付いたはずだ。まったく、全裸男め!


「あ、そう言えば!」


 私は突然思い出して、ポーチから魔石を取り出す。うっかり入れたままにしていた。


「それは!」


 上司が驚く。


「あ、これはあの魔法使いが召喚魔法を使ったときに落ちていたんです」


「これは魔導士ギルドから盗まれた魔石じゃないか!きっとそうだ。これほどの大きさの魔石など滅多にない。取引されるとしたら金貨100枚くらいするんじゃないか?」


「ええっ?!」


「サラ、これは魔導士ギルドに返却してもいいか?」


「あ、はい!すいません!お願いします!」


 そんな高価なものを自分は、不用心に持ち歩いていたのか?考えるだけでも恐ろしくなる。


「サラ、たぶん魔石を取り戻したという事で、魔導士ギルドからも1割くらいはお礼金が出ると思う。本当によくやってくれた!」


「えっ?えっ?えっ?」


「サラ~すご~い!今日はあなたのおごりよ~!」


 なんだかとても大きな話になっていた。そして私は大金をもらえるらしい。


 私はサラ・イマージェス。私は運が悪い……と、ずっと思っていたが、もしかしたら私は運が良いのかもしれない。

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