第8話 魔王、また人助けをする
オレは魔王ヴォルテージ、魔族の王だ。オレは勇者との激闘の末、殺されてしまった。だがオレは転生の秘術により生まれ変わることに成功する。すぐにでも勇者への逆襲へ向かいたいところだが、その前にいくつかの問題があった。
まず、転生後なぜか人間となってしまった事。転生と言っても赤ん坊から生まれてやり直すのではなく、いきなり大人の姿でオレは湖のほとりにいた。そして生まれたてのように全裸だった。なんとか服だけ手に入れた。肉体能力も魔力も転生前と変わりなかった。変わったのは外見だけ。なんとかなるだろう。そして次の問題は、人間界に転生してしまったという事。しかもここが人間界のどこなのか把握できていない。現在地の把握と、魔界への道のりを探さなくてはならない。
以上が前回までのあらすじだ。これだけ読めば、もう7話までは読まなくても大丈夫だろう。しかし7話までかかって、服を手に入れただけだ。泣きたくなってくるな。
さて、当面のオレの目標は魔界に帰ることだが、まずは地理を把握するために、地図を手に入れる必要があるだろう。地図が売っていると思われる、人間の町へ向かう事にした。
移動手段だが、一番手っ取り早い転移魔法は、行ったことのある場所しか行けない。試してみたが、転生前に行った場所へ転移しようとしても魔法は発動しなかった。やはり転生後に行った場所にしか行けないようだ。
そこで次に移動の早い飛行魔法を使いたいところだが、問題があった。転生してすぐに、魔法がどれくらい使えるか実験をしてみたところ、使用可能な魔法については転生前と変わらないことが分かった。しかし問題は回復が著しく遅いという事だ。自然界に魔力の満ち溢れている魔界では、一晩寝たら魔力は完全回復していた。だが人間界では、一晩寝ても魔力が完全に回復しないのだ。だとすると飛行魔法は危険だ。どれだけの距離飛べるか分からないし、もし途中で魔力が切れたら墜落することになる。
飛行魔法だけではない。魔力の回復が遅いのであれば、魔法の使用もなるべく控えるべきだろう。
というわけで、町へ向かうには地道に移動するしかあるまい。仕方ないので徒歩で移動している。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
≪
俺がその場に行くと、二人の男がゴブリンに取り囲まれていた。辺りを見ると、男たちが乗って来たと思われる幌馬車と、その近くにテントが張ってあり、これから野営しようとしたところをゴブリンに襲われているようだ。馬車の馬が興奮している。二人の人間はゴブリンの攻撃で傷ついている。一人は左腕に矢が刺さっていて、血を流していた。結構な深手だ。二人で剣をもって交戦しているが、ゴブリンたちはつかず離れずの距離で人間たちがじわじわと衰弱してゆくのを待っているようだ。
「あー、そこの人。お困りかな?」
オレは優しく声をかけた。なぜならオレは紳士だからだ。
だが生死をかけた戦いの中、俺の言い方は場にそぐわなかったらしく、二人の男はものすごい驚いた顔でこっちを見た。もう目玉が飛び出るんじゃないかっていうくらい目を見開いて。
「いや、その、手助けは必要かな?」
もう一度オレが声をかけると、
「はい!はい!はい!はい!助けてください!!!」
二人は手を上げてオレに救援を要請した。助けを求められたなら仕方ない。助けるために、オレは二人に近寄ってゆく。すると二人を取り囲んでいたゴブリンたちが、今度はオレに対して敵意をむき出しにしてきた。
やれやれ。レベル1の最下級モンスターのくせに、生意気な。
まず最初に、一番近くにいたこん棒に釘を何本も刺した鈍器を振りかぶったゴブリンが俺に襲い掛かって来た。
この程度のゴブリンの群れなら、オレの≪
ゴブリンのこん棒を見切ると、ゴブリンの頭にオレの鉄拳が飛ぶ。次の瞬間ゴブリンの頭部は粉砕され、辺りにゴブリンの小さな脳みそや血液などの内容物が飛び散る。頭部をうしなったゴブリンの身体は、とびかかる勢いのまま大地へ倒れる。
次の瞬間オレの後ろから、さびた鉄のショートソードを持ったゴブリンが襲い掛かってくる。だがすでに察知しており、のろまな一撃は軽くかわす。剣を振り下ろして無防備になったところに、また俺の拳が炸裂する。さっきのやつと同じように頭部が破裂し、その個体も生命活動を停止する。
「チッ、この戦い方は拳が汚れてしまうな……」
しゃべってる間にゴブリン
残りはあと何匹だ?と、数えようとすると、勝ち目がないことに気付かれてしまったようで、ゴブリンたちは散り散りに逃げ出した。
まずいな。ゴブリンを逃がしたら、また増えてしまう。
「仕方ない……、≪最低出力
魔力消費を最小限に抑えて、
というわけでゴブリンは全滅した。
って、結局魔法を使ってしまった。なるべく魔法を使わずに省エネでやってゆく方法を追求してゆかなければならないな。
「オマエたち、大丈夫か?」
オレは振り向き、二人の男に話しかける。すると、二人は大きく開けた口がふさがらないのか、こちらを茫然と見つめていた。あごが外れてしまったのだろうか?
オレが二人に近寄ってゆくと、突然言葉を思い出したかのように「あ、ありがとうございました!」と二人同時に声を出した。
ぴったり合ったタイミングがおかしくて、オレは思わず笑ってしまう。二人もオレにつられてアハハと、軽く笑った。
二人の怪我を見ると、いくつもの切り傷があったが、やはり腕に矢がささった傷が一番深手となっていた。慎重に矢を抜き、上腕部を布で縛り止血する。
「治療薬はあるか?」
「
そう言って軽傷の男が荷物から薬草を取り出す。だが薬草では止血と消毒くらいにしかならないだろう。
「仕方がない、特別サービスだ。≪
オレの貴重な魔力を使って、男の傷を癒してやった。
「す……すごい!腕の傷だけでなく、体中の小さな傷も治っている。それだけじゃない、体が嘘みたいに軽い!体の疲れも取れたようです。」
男の説明台詞によって俺の魔法の効果が説明される。フフフ。褒めたたえられるのは嫌いではない。この男、悪い奴ではなさそうだな。
すると、軽傷の男も何か言いたそうにオレを見ている。
「ええい、分かった分かった。大サービスだ!≪
軽傷の男にも回復魔法をかけてやる。すると怪我も全て治ったようで、驚いた顔で自分の体の調子を確認し始めた。腕を回したりして体調を確認している。
「こ、これはすごい!怪我だけでなく、ずっと辛かった肩こりまで治っている!」
「……それは良かったな。」
その後二人から、くどいほど礼を言われた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます