浮気者の噂(後日談)
「火澄先輩、ちょっと携帯貸してください」
不貞腐れて発酵したご機嫌を隠す事無く、秋心ちゃんは詰め寄ってきた。
普段より大幅に遅れて部室の戸を潜った俺に対する追求はまだ始まったばかりである……死の足音かな? いや、俺の鼓動か、この音。
「え? い、いやあの……どうして?」
「なんか、他の女の匂いがするからです」
警察犬か、君。いや、俺は犯罪は犯してないし怪しいお薬も携帯していないぞ。
ガルルと唸る口元から牙が覗いている。咬まれたらきっと痛いし、死ぬ。
「見せられない理由があるんですか?」
「そ、そんな事ないぞ⁉︎ ほら、確認してくれて良い……」
半ば奪い取るように秋心ちゃんの手に渡った携帯。
だって本当にやましい事無いもん……あるにはあるな。今日の一幕は絶対にこの子に打ち明けることは出来ない。墓場まで持って行こう。まぁ、墓場に誘うは秋心ちゃんに他ならないんだろうけど。
「……なんですか、これ」
秋心ちゃんの指が止まった。
差し向けられたスマホの画面には、俺と木霊木さんのツーショット写真が映し出されている。
「げっ……⁉︎」
ぬかった。
さっき後前さんに撮られた写真だ。
「今日撮影されたものですね」
おかしいな、クリスマスまで後何日かしか無いのに汗が止まらないよ。地球温暖化怖い! 幽霊とかより何倍も怖い‼︎ そして秋心ちゃんはその二億倍怖い……。
「ここここれには深い事情がががががが……」
後前さん、君わかっててやったな、これ。
「言い訳は聞きたくありません!」
来たるクリスマスに向けての懸念なんてなんのその。
まずはこの危機的状況を回避するだけで精一杯だ。
あ、どうやっても逃れる術がありませんね。ご愁傷様でした。
おわり
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