先代部長と秋合宿の噂(後日談)


「さぞ楽しかったでしょうね。あたしを置いて、二人でUFO探しに行くのは」


 帰りの車内、秋心ちゃんはずっと膨れている。昨日の晩からこんな感じだ。

 雪鳴先輩と二人で長時間謝り続けた。

 へそを曲げたままの秋心ちゃんが同じ部屋で寝ることを許してくれる筈もなく、結局俺はひとり凍える部屋で夜を明かすことになった。目を閉じたらもう起きれない気がしたから一睡も出来なかったわけです。

 そんなこんなで今現在眠気が酷い。死ななかっただけマシだと開き直って入るけれど、正直我慢の限界だ。

 秋心ちゃん、良い加減機嫌を直して来れないかなぁ……。


「ごめんてー、だってあっきー起きんかったんやもん」


 雪鳴先輩も珍しくバツが悪そうだ。

 お陰で車の運転が些か丁寧だ。この点に関しては結果オーライである。

 オンボロ中古車に先輩の荒々しい運転が合わさっては、せっかく拾った命もまた危険に晒されると言うもんだ。

 秋心ちゃんはまだ不機嫌そうに硬いシートにもたれている。


「で、結局UFOは見つからなかったんでしょ?」


「……まぁな。無駄骨だったよ」


 UFOらしき光と、山の中で不審な人物に出会ったことは彼女には内緒にしてある。その話までしてしまうと、本当に秋心ちゃんの機嫌がぶっ壊れたままになってしまうことは明白だったからだ。


「やっぱり宇宙人なんていないんですよ。もうあたしは幽霊一本で生きていくことにします」


 酸っぱい葡萄の外国童話を思い出した。秋心ちゃんは差し詰めあの寓話のキツネである。

 そんで、眠気がもう限界だ。

 でも目を閉じようとすると秋心ちゃんのチョップが脇腹に飛んでくるので寝れない……地獄だよ。


「先輩達を待っている間にあたし流れ星を見ました。何も見つけられなかった先輩達よりよっぽど収穫があったと言えます」


 負け惜しみにも聞こえる台詞。別に勝ち負けを決められるような出来事はなかったんだけどね。

 昨夜の秋心ちゃんの話を思い出して問いかけた。


「へぇ……願い事は出来たの?」


 空席となっている助手席を見つめながら秋心ちゃんは小さく答える。


「……しましたし、叶いました」


 叶った? それはどういう意味だろう。

 雪鳴先輩も気になったのか、それともただの軽口なのか口を開いた。


「えぇなぁ。どんな願い事やったん?」


 秋心ちゃんは視線を窓の外に移し、少し恥ずかしそうに言った。


「ふた……ゆきちゃんが、無事に帰って来ますように……って」


「あ、ああああっきー! ありがとう大好きやー‼︎」


 なんか仲直りした。先輩と後輩の二人だけは。

 俺も含めてくれ、仲直りさせてくれ。

 んで、運転はもっと丁寧にお願いします。今変な音したぞ、なんか潰れるみたいな変な音が。


「あぁ、こんな良い後輩を持ってうちはホント幸せ者や! 今度は冬合宿やな! 絶対また一緒に行こな、あっきー!」


「そうですね、仲間外れにしないなら」


 俺が大絶賛仲間外れ中なんだけど。


 それにしても、あの女性は結局なんだったんだろう。

 秋心ちゃんの言う通り、この世に宇宙人なんていなくてただの幽霊だったのかもしれない。ただの幽霊ってのがもうわけわからん表現だけどさ。


 ところで、今朝調べてわかったことだけど、あのキャンプ場で死んだり、行方不明になった女性……もとい人間なんて、これまで一人もいないのだという話である。



おわり

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