心理ゲームの噂(解明編)

 秋心ちゃんの猛攻を避け(避けれてない)、いよいよ俺のターンだ。

 渾身の心理ゲームをお見舞いしてやる、心しろ!


「秋心ちゃんはひとり、とある目的の為森の中を歩いています」


「それあたしのとそっくりですね! パクりだ!

 パークーり! パークーり!」


 二人っきりで晒し上げにするこの技術……。この子はディスり界に舞い降りた超新星かも知れない。

 滅びろ、ディスり界。


「……話、進めて良い?」


「あ、どうぞどうぞ」


 たまに素直になるあたりやり辛いなぁ。


「森を歩いていると、秋心ちゃんはとある場所に辿り着きました。

 それは暖かいお花畑、霧だった沼、森の出口……さて、どれですか?」


「そうですね……じゃあ、森の出口にします」


 即答である。少しは悩め……まぁ、予想の範疇だが。


「では、そこでとある人物に出会いました。それは誰ですか?」


「そうきましたか……」


 何だその切り返し……別にいいんだけど。

 彼女はまるで心理戦でも楽しんでいるかのようだ。別に戦う必要ないんだけど、心理ゲームなんだから。心理バトルじゃないんだよ。

 何にしろこの女の子はバトルが大好きらしい。もう、傭兵にでもなればいいよ、相手の心を打ち砕く専門のさ。


「まさか二段構えの問題だとは、やるじゃないですか!」


 なんか知らんが褒められた。


 さて、秋心ちゃんが考えている隙に、まずこの問題についての答えを披露しておこうか。

 前もって断りを入れておくけど、これは前述のテレビ番組で見た問題だから、その信憑性について俺の知るところではない。

 俺は責任という言葉がこの世で一番嫌いなんだ! そこんところよろしく!


 まず『暖かいお花畑』。

 この場所は危険な森の中で警戒心を薄れさせる場所。そんな場所で出会う人は、回答者が心内を曝け出しても良いと思っている人物である。

 正直なところ、俺は秋心ちゃんがこの場所を選ぶ事はないだろうと予想していたし、まぁ実際にその通りになった。そんな人間いるのかね? この捻くれ後輩女の子に。


 次に『霧だった沼』。

 人の立ち寄りたがらないその場所は、何かを隠すにはもってこいの場所。そんなところで出くわすのは何か隠し事をしている人物だ。つまるところ、回答者が信用ならないと思っている人物。

 秋心ちゃんなら、この場所を選ぶかと思ってたんだけどこの予想は外れだったな。


 最後に、秋心ちゃんが選んだ『森の出口』。

 とある目的の為に森に入った回答者が辿り着いてしまった……つまり、目的の達成を成し得なかった結果行き着く場所。そこで出会うのは……


「じゃあ、そこで出会うのは火澄先輩にします」


 ……そこで出会うのは、回答者にとってどうでも良い人物。自身の目標や求めるものに関係の無い人間。

 言うなれば、興味がない相手である。


「先輩、これで何がわかるんですか?」


「……いや、何だろうね?」


 思わずお茶を濁してしまった。

 いや別に秋心ちゃんに好かれてるなんて思ってないし、むしろ嫌われてたって頷ける事なんだけどさ……。


 興味がないってのが一番傷付く。


 自らの提案でここまで深傷を負わされる事になろうとは……。もう大人しく火澄先輩のダメなところを羅列するゲームを受けていればよかった。


「え、ここまで来て何の答えもないなんて……まさかそんなことありませんよね?

 いくら火澄先輩とは言え」


 答えはあるんだ。

 でも、答えが全て正しいとは限らないんだよ。よくわからんけど、知らなくて良いこともあるし、知らせなくて良いこともあるんだこの世には!


「秋心ちゃん的に、森に入った目的って何だったの?」


「あぁ、心理ゲームには続きがあったんですね。

 目的を持って森に入るなんて説明ありましたか?」


「あったよ……。

 あぁ! さては秋心ちゃんちゃんと俺の話を聞いてなかったな⁉︎ うわーもうダメだこれ。もうこの心理ゲームは成立しないわー。超残念だけどここで終わりだわー」


 いやいやいや……わかってるよ? この逃れ方が苦しいことくらい、流石の火澄くんでも知ってるさ。

 でももうこうするしかないんだ。許してくれ、全世界の心理ゲームファンのみんな。俺の命には代えられんだろ。

 そして秋心ちゃん、何とか諦めてくれ……。

 俺は生まれて初めて神様というやつを頼った。もっと大事な場面で使えよ、俺。人生初の神頼みなんだから。


「いえ、ありませんでした。問題は『ひとり、とある目的の為森の中を歩いています』でしたから。

 今先輩の言ったこととは違います」


 ……めちゃくちゃしっかり聞いてたよこの後輩。

 もうダメだ、殺すならせめて痛くないようにお願いします。


「森を歩いている目的を挙げるなら……そうですね」


 秋心ちゃんは細い顎にこれまた細い指を沿わせて僅かに考える。

 伏せた瞼を大きく見開いて俺に言った。


「あたしの目的は、その森を抜けることですかね」




おわり

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