失恋幽霊の噂(前編)
「
なぜ冬休みを眼前に控えて宿題を課すのか、あの教師の考えていることはよくわからん。このまま逃げ切れば年明けには忘れててくれないかな。
「あ、いや……やったけど家に忘れました」
小学生でも騙されない言い訳である。
でも、家に忘れたというのは本当だ。信じてくれ、火澄くん嘘吐かない。あ、やったってのは嘘なんだけどね。家には白紙のプリントがある。プラスマイナスゼロである。
「もう……先生には私から言っておくから、明日ちゃんと謝るんだよ?」
女神だ、女神様だ。やっぱり木霊木さんは地上に舞い降りた天使だったのだ。俺の言葉を信じてくれるなんて。でも女神からランクダウンしちゃった。失言だね。
「それはそうと……
ギ、ギクギクギクー!
何このタイミング!? 恩を売ったうえでその直後に一転攻めに興じるとは、なかなかどうして侮れないぞ、木霊木さん。
「え、あの……いや、まぁ嘘ではないけど……本当でもないというか……」
嘘じゃないぞ、まだ付き合ってないし。
来週に控えたクリスマスまではまだこの返答に虚実はない。それまでに秋心ちゃんにフラれちゃう可能性もないことはない。
考えたくはないけれど。
「そうなんだ……良かったね。幸せになってね」
なんだろう、心が痛む。
モテたいモテたいと普段のたまっていても、いざこんな立場に立ったら困ってしまうもんなんだな。
今まで秋心ちゃんも、告白されてその都度フリ続けて来た時こんな気持ちだったんだろうか。
どうしたら木霊木さんを傷付けなくて済むんだろう。いっそ二人と付き合うか? いやいや、出来るわけ無いしするつもりもない。何より秋心ちゃんに殺されてしまう。
「おい火澄! 大変だぞ火澄! 非常事態だ!」
おいウルセェよ。どうせ
師走の教室に暑苦しい声が響く。
「火澄! 大変だ火澄!」
やっぱりそうだった。こんなに俺の名前を連呼するやつも珍しい。
今、俺は真面目に考え事してんだから邪魔すんなよ。
「どうしたの、太刀洗くん?」
「おぉ、木霊木いたのか。大事件が起きたんだ! そう大事件だ火澄!」
だから、何が起きたのかを言え。端的に述べて立ち去れ。
「幽霊が出た!」
本当に端的に説明しやがったよ。キャラクター守れよ。
……て言うか、幽霊?
「幽霊?」
その疑問は木霊木さんが先に問い出した。
「おぉ! 幽霊だぞ、火澄以外に頼れる者はいない!」
ははは、俺も別に役には立たんぞ。
オカルト研究部の部長という肩書き通りの仕事をこなせたことは、今まであんまり……と言うかほぼない。
「どこにいんだよ、その幽霊」
「屋上だ! なんでも、失恋した幽霊だと専らの噂だ!」
反射的に木霊木さんを見る。
タイムリーな幽霊だな、今しがた俺が考えていた事を体現するかのようだ。
幽霊には死者がこの世に残るものと、生きている者の強い想いが現れるものがある。厳密に言うと他にもあるんだけど、もし、太刀洗の言う幽霊が木霊木さんの想いで生まれたものなのだとしたら……。
「どうして失恋したってわかるの?」
「知らん! 俺も話で聞いただけだ! 時に火澄! 彼女ができたらしいな火澄! 一体どう言う事なんだ火澄!」
……本当にお前は色々掻き乱してくれるな。
「幽霊の噂よりも持ちきりだぞ火澄! 俺に断りもなく何をしているんだ火澄! 答えろ火澄!」
なんでお前に許可を取らなければいけないんだ。何者だお前は。
やめろ、木霊木さんの隣でいらん事をのたまうんじゃない。その舌ぶっこ抜くぞ!
「ねぇ火澄くん、その幽霊今から見に行かない? まだ休み時間には余裕があるし」
「おぉ、それはグッドアイデアだ木霊木! そうしよう、そして火澄にお祓いをしてもらおう!」
「え!? ま、まじで!?」
いやいやいや、もし屋上に行って木霊木さんに瓜二つな幽霊がいたらどうするつもりだ。彼女の心の傷を深めるだけじゃないか?
「宿題を忘れちゃったんだから、それくらいしなきゃね。それに火澄くん、オカルト研究部の部長だし」
……木霊木さんがそう言うなら仕方ない。楽しそうに言うけれど、反面目が笑ってないのがとても怖い。だから逆らう事は出来そうになかった。
……どうなっても知らんぞ?
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