誕生日の噂
誕生日の噂(提起編)
『なんや火澄、土曜の昼間っから暇そうやな!』
自分から電話かけて来といてなんだそれ。
「いや、俺結構忙しいっす。今も超多忙、多忙田坊になっちゃってます」
『……すまん、意味わからんわ』
人がせっかくオカルトジョークを織り交ぜたというのに。『泥田坊』って言う妖怪がいてですね……オカルト研究部らしくあるのも難しいもんだ。
オカ研らしさってのがよくわかんないけどさ。
『暇ならちょっと付き合わん?』
今忙しいって言ったばっかりなんだけど。聞いておくれよ、人の話を。
「すみません気持ちは嬉しいですが、先輩とは付き合えません」
『おぉ、殺すぞ』
シンプルイズザベスト。
本当に人を殺す人って多分こんな感じだ。いや、きっと何も言わずに刺してくるんだと思う。そう考えると雪鳴先輩もまだまとも……なのか?
『買い物について来いって言っとるんや! 誰が貴様に愛の告白なんかするか! そんな変わり者そうそうおらんわ!』
ぐぐぐ……わかっちゃいるけど悔しいもんだ。
普段なら自虐に持ち込むこんなやり取りも、今の俺には秋心ちゃんに言われた言葉を思い出させる。正直な話、モテないモテないと嘆いている方が断然楽なのだ。
溜息すら出ないな……いや、その必要はもともとないんだろうけど。
やるべきことと言うのはその事だ。
あの日からまだ秋心ちゃんとは会っていない。会ってもなんと話しかければいいのかわからない。その答えを探す為、ここ何日か珍しく普段使わない頭を回転させている。
つまり雪鳴先輩に構ってる暇なんかないのだ。
「ほんと、俺やることあるんですよ。また別の機会に誘ってください。今も超忙しくて忙しくて……」
『ほほぉ……寝巻きのままベッドに寝転んで、よくそんなこと言えるな』
「いやいや、ちゃんと考え事してるんで……って、なんでそれわかるんですか?」
『窓の外見てみ』
雪鳴先輩が立っていた。怒りが浮いた不敵な笑みである。
この何日かで一番恐怖した。
「……ここ、二階なんですけど」
『十秒やる。その間、出掛ける支度をするか、来世で何の魚になるかの想像をするかはお前の自由や』
二択おかしくない? 俺の来世は魚で決定かよ。
『さーん、にー……』
「十秒くれるって言ったじゃん!」
魚には詳しくなかったので、飛び起きて着替えることにしたのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
先輩のオンボロ軽自動車に揺られながら……って言うか揺らされながらシートベルトを握りしめる。死を覚悟させるだけの逸話がこの車にはあるからだ。
「……で、買い物って何ですか? 俺、別に服のセンスとかないですよ」
「火澄にそれを期待すると思うか? あんたにファッションチェックされるくらいなら全裸で出歩くわ」
悔しいが反論できない。年中無地のパーカーにジーンズの俺はいわゆる無難なコーディネートしか知らないんだよね。
そもそも服を買いに行くのも気恥ずかしいお年頃だ。俺みたいなのが服屋さんで店員に声でもかかられようもんならその場で死ぬ。蒸発して死ぬ。着ていた服と水たまりだけ残して死ぬ。
それに比べて雪鳴先輩のお洒落なことお洒落なこと。サイズ感の合ったニットのセーターはその豊かなお胸様をいやらしくなく包み込み(それがまた一段とエロいんだけれど)、ロングスカートとその裾から見えるブーツは大人の女を演出している。
俺も大学生になったら、憧れのお洒落モンスターになってしまうんだろうか……。少しだけワクワクする。
あと、これはファッションとは何も関係ないんだけど、シートベルトが先輩の胸の膨らみを強調していてベリーグッドです!
「あ、見て見て火澄。ほらあそこガードレールへっこんどる」
事故現場を指さすんじゃないよ。せっかく現実逃避してたのに、また恐怖のドライブに引き戻されてしまった。
明日は我が身とか笑えない。明日と言わず十秒先まで保証されてないのに。
「ほら、週明けあっきーの誕生日やんか。プレゼントのアドバイス欲しかってん」
「し、週明け……!?」
何となくハンドリングが荒くなった気がする。道交法守って!
「……火澄、もちろんあっきーの誕生日は知っとるやろな?」
「あ、ああ当たり前じゃないですか。十一月の一日でしょ? いやぁ、もう十一月かぁって感慨に耽っただけですよ」
「……プレゼントの準備は?」
「あああああたあたたあたあた……」
「拳法の達人みたいになっとるぞ」
いや忘れてたわけじゃないマジで。ちょっと最近それどころじゃなかっただけだ。
ちょっとうっかりしてただけだ!
「今日うちが声かけて良かったなぁ? なぁ、火澄先輩?
手ぶらでハッピーバースデー! もないもんな?」
……全くもってその通りです。やっぱり持つべきものは先輩です。マジリスペクトしてるっす、パネェっす。
「うん、今日の買い物に付き合ってもらうのをこないだ言っとった『願い事』にしようと思っとったけどやめや」
うぁぁ……せっかくのチャンスを棒に振ってしまった。
こう言うところだよ、火澄先輩がダメなのって。
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