秋心ファンクラブの噂
秋心ファンクラブの噂(提起編)
「
文化祭……二学期、つまりは今年最後のイベントである。
去年は特に楽しい思い出もなかったので、エピソードは割愛する。
「クラスの出し物は明日のホームルームで何するか決めるみたい。秋心ちゃんのとこは?」
「うちはお化け屋敷です。そうじゃなくて、オカ研は何かしないんですか?」
「うちはほら、正式な部活じゃないから何も出来ないんだよ。適当によその出店を回って終わりかなぁ」
「つまんないですね。学校に秘密で何かやりません?」
それも雪鳴先輩がやろうとして……以下省略。
「いやいや、秋心ちゃんのクラスはお化け屋敷でしょ? もう似たようなことやるんだからいいじゃん」
「あの人達、オカルトがなんたるかを全くわかってないんですもん。ただのお化けコスプレ暗闇迷路ですよ」
何それ、言い方ひとつでめちゃくちゃ楽しそうじゃん。
ハロウィンも近いし、模擬店としては正解だと思うけどなぁ。秋心ちゃんが怒ってる意味がよくわからん。
「あたしはなんのお化けになりきればいいんでしょう? リクエストあります?」
「雪女!」
即答しちゃったよ。でもぴったりなんだよなぁ……。この子の吐く言葉、氷みたいに冷たいし。
あ、でも化け猫とかも似合いそう。悪戯好きだし。悪戯の限度を超えてるけど。
「なるほど、衣装も簡単そうですしなかなかナイスなアイデアですね」
良かった、怒られなかった。胸を撫で下ろすくらいなら言うなよってね。
でも秋心ちゃんってほんと着物とか似合いそう。他意はない。胸を撫で下ろすで思いついたんだけど、別に他意はない。ホントだよ?
「ちなみに、俺だったらなんのコスプレすればいいと思う?」
「ゾンビ! ゾンビゾンビ!」
これまた即答だよ。
なんて嬉しそうなんだ、目がキラキラしてる。子供みたい。
無邪気って罪だよね。
「えーと、一応理由聞いといていい?」
「ゾンビゾンビ! ゾンビゾンビゾンビ!」
「あの、秋心ちゃん」
「ゾンビゾンビゾンビ!」
会話してくれ。君の方がよっぽどゾンビみたいじゃんか。思考を放棄するな。
「目が腐ってるからです! い、言わせないでくださいよ、もう……」
なぜ照れる。そんなシチュエーションどこにあったんだ。
「あたし血も見たいんで、一石二鳥じゃないですか? ゾンビなら傷だらけでも問題ないでしょうし」
一石二鳥? 大岩で雛鳥擦り潰してるぞ。
「あ、あとなんかミスコンのお誘いを受けました」
今の今までゾンビゾンビ言ってたやつが急に会話を切り替えるな。ビックリするだろうが。
そんでこのドヤ顔だよ。腹立つなぁ、自慢したくてうずうずしてたんだろうね。
「あぁ、ミスコンってあれだろ? 非公式のやつだろ?」
「そうなんですか? 何も聞かずに返事を保留したまま部室に来ちゃったので良くは知りませんが」
なぜ良く知りもしない事でそこまで威張れるんだ。
「先輩は出ないんですか? ミスターコンテストもあるんですよね?」
「え? 喧嘩売られてる……?」
「違いますよ。馬鹿にしてるだけです」
「人はそれを『喧嘩を売る』って言うんだぞ!」
どうせ買っても勝てないからウィンドウショッピングするだけだけどな! 俺、節約家だし。
て言うか何だ、そのショッピングモール。どうしてそんな殺伐としてるんだ。絶対行きたくない。
「もしあたしがミスコンに出てオカルト研究部を宣伝すれば、ちゃんとした部になれますかね?」
「いや、無理無理。まず部員が足りないから……あ、そうでもないか。秋心ちゃん目当てで入部希望者が増えるかも。そしたら部に昇格できるよ」
まぁ冷静に考えれば、ミスコンなんか出なくても入部希望者が殺到してもおかしくないくらいこの子モテてるのにそうはならないあたり、大した宣伝効果はないんだろうけどさ。
「えぇ……部員はもういらないですけど」
後輩ちゃんの人嫌いが炸裂している。俺としては大人数でワイワイする方が幾分か楽しいと思うんだけど。
「でも俺がいなくなったら秋心ちゃん一人になっちゃうんだぜ? オカ研を存続させるためにはそうも言ってられないだろ」
「そうなのかもしれないですけど……今はそんなこと考えたくないですね。
って言うか、ミスコンの話してた筈なのにどうしてお説教されなきゃなんないんですか!」
ぽこぽこ殴られる。
秋心ちゃんの腕力が弱いのだけが救いだ。でもそのうち武器とか毒とか使い出すからタチが悪いんだよなぁ。文明の発達とともに秋心ちゃんの脅威が増えるとは……因果だね。
「もういいです! あたし、ミスコンで優勝しちゃいますからね! そしたら先輩なんかには手の届かない高嶺の花になっちゃうんですから! 後になって後悔しても遅いんだから! 死ね!」
「ははは……死ねっていうな。生きるわ」
え、ちょっと待って、最後のやついらなくない?
それなかったら結構可愛らしい感じだったのに。
「あ……すみません、あの、そんなつもりじゃ……」
「え? どうした秋心ちゃん?」
何故だか急にしおらしくなる彼女。その豹変のタイミングは良くわからない。逆に俺が面食らってしまった。
「いや、あの……なんでもないです。すみません、あの……」
何を動揺してるんだろう。
俺に対する罵倒なんて日常茶飯事なのに。秋心ちゃんは本気で血の気の引いたような顔をしている。
「……すみません、今日はもう帰ります」
おおっと、なんだなんだ? 秋心ちゃん最近先に帰っちゃうこと多くない? 実は少し寂しいんだぞ?
あら、本当に帰っちゃうのね。
ぽつんと一人取り残されてしまった。なんだろ、俺嫌われてる?
一人きりで部室にいるのは本当に意味がないなぁ。
秋心ちゃんに追いつくのも何となく気不味いから、時間差を置いて部室を出た。廊下は蛍光灯の無機質な灯りだけで、いかにも幽霊が出そうな雰囲気だ。
自分の言葉を思い返してみる。
秋心ちゃんと一緒にいるのは、あとどれくらいの時間なんだろう。
思考を追従しようとした瞬間、俺は意識を失っていた。
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