神殺しの噂(解明編)
「……なんか雪鳴先輩、卒業する前よりも人間離れしてませんか?」
達成感もクソもなく気怠そうに椅子に座る先輩を目の前に鳥肌が立つ。堕ちてても神様に向かってグーパンチで対抗するとは……。罰当たりにも程がある……のか?
昔からこの人、人面犬蹴ったり口裂け女殴ったりしてたけど流石に面食らってしまった。
見た感じただのイケイケなねぇちゃんなのに、逆らえば命はないんだなぁと実感するね。俺はまだ塵になりたくない。
「まぁなー、でも今回は特別や。ホントやったら幽霊とかの未練を晴らしてやるのが一番いいんやけど、めんどいし」
あああ、お剥かれ様が可哀想になってきた。めんどくさいって言うな。浮かばれんぞ、あの神様。
「これ覚えとる?」
先輩はくしゃくしゃの何かを取り出して机に置いた。
折り目を正してみる。確かに見覚えがある……お札だった。
「あれですよね、山岳合宿の時に取りに行かされたお札でしょ?」
おかげさまで変な噂話が蔓延していると、つい最近クラスメイトの
「そそ。これの力でどんな怪異も一発殴れば全部終いよ。つっても、もうこれただの紙切れなんやけど……。
人間楽を覚えたらいかんなぁ、最近こんなのばっかりや」
もうマジこの人人間じゃないだろ。
ただの紙切れとやらに目を落とし、その危機感に背筋を震わせる。またお剥かれ様みたいな邪神が現れたとしても、雪鳴先輩がなんとかしてくれるわけじゃない。
先輩が『自分の力でなんとかしろ』と言うのもそういった意味があったのだ。
「じゃあ今後はやばい幽霊とか出てきたら太刀打ちできないってことですね……」
「あ、いやこんなんなくても別に大丈夫っぽい。さっきもお札関係無く殴ったらなんとかなったし」
この人マジで人間やめてた。心配して損した。
今後もおんぶにだっこでよろしくお願いします。
「まぁそんな事は別に良いわ。
火澄、さっきの邪神になんか覚えはあるか?」
「あぁ……えっと、あれ『お剥かれ様』って言ってさっき秋心ちゃんから聞いたばっかなんですけど。俺はてっきりあいつの作り話かと思ってました」
お疲れ様の言い間違いオムカレ様。秋心ちゃんを疑ってしまったことが少し申し訳ない。
「火澄、それ正解」
……正解? どこにかかってんの、その言葉。
言ってる意味がよくわからん。
「だから、さっきのその『お剥かれ様』ってのは、あっきーの作り話で生まれたってことや」
なおのこと意味がわからない。
だって実際にいたじゃんか。声も聞いたし、なんなら鼻をつく生臭さもまだ覚えている。
「いやいやいや、んなわけないじゃないですか」
愉快に笑ってみせる。
しかし雪鳴先輩の目は冗談を言っている風ではない。
「どうしてそう言い切れる?」
「だって作り話で神様が作れるわけないじゃないですか」
ここで雪鳴先輩がひとつ大きな溜息。
「なーんもわかっとらんわ、火澄。
いいか? 幽霊やオカルトはそのほとんどが噂が先行しとると思っていい。みんなが噂するから、怪異が生まれるんや。神様だってそうやろ、信仰があって初めて力を得る。恐怖するから強くなる。
勿論例外はあるけど、うちらが体験できるような怪異はほぼそうやと思っていい」
似たようなことを考えたことがある。あれはでも何だったっけ? ちょっと忘れちゃいました、すみません。確か呪いの対抗呪文を考えた時だったか……。
「だから何も不思議な事はない」
きっぱりそう言われてしまうと俺はもうぐうの音も出ない。
「……はぁ、先輩がそう言うなら」
反論する余地もなかろう。
俺には圧倒的に知識も無いし、理屈じゃ無いのがオカルトだ。
「と言う事は、人から忘れられればオカルトなんか無くなるってことや。
簡単やろ? 怪異の解決の仕方なんて」
理屈ではそうかもしれないけどさ……。
「忘れられない場合はどうするんですか?」
「あんた、頭悪いから心配せんでいいと思うわ」
や、やかましいわ……。記憶力良いわ……。
「そんで最後にもひとつ。
オカルトには、矛盾がつきもの」
ええぇ……例外だらけなら参考にもできんし対策も立てれないじゃんか……。
「じゃあ、うちは帰るかなぁ。
ほんと骨折り損や。お土産ももらえんし」
やったわ! そこに転がっとるわ! 鰹節みたいなのが!
「あと、願い事は考えとくから……怯えながら待つがいい……」
魔王みたいなこと言ってる……。
でも雪鳴先輩が来てくれて助かった。もしかしたらお剥かれ様に殺されてたかもわからん。
それは間接的に秋心ちゃんに殺されたことになるんだろうか。
「でも、今回の件は別に噂になんかなってませんよ。ほんと今さっき秋心ちゃんが作った話ですもん」
「ほんとやなぁ、あっきーすごいなぁ」
すごいで済ませんな。
神様を作り出せるんなら、もうちょっと俺の……いや、人類の為になるもんをお願いします。
秋心ちゃんには届かない溜息は重い。
おわり
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