神殺しの噂

神殺しの噂(提起編)


「あ、火澄ひずみ先輩おかれさまで……」


 噛んだ。

 今噛んだだろ、秋心あきうらちゃん。顔赤いよ、なんだ『オムカレさま』って。


「……噛んでません」


「まだ何も言ってないけど」


「い、言おうとしてたじゃないですか。でも残念でした。別に噛んでません。『オムカレ様』の話をしようとしただけです」


 よし、今一度問おう。

 なんなんだ『オムカレ様』って。


「へぇ……それも最近流行ってる噂なの?」


 いつもイジメられてばかりだからここぞとばかりに反撃に出る。しかし、露骨に攻撃をすると実力行使に移られてしまうから絶妙な塩梅でチクチク攻めなければならない。

 これがなんとも難しい。へへへ……なんたるスリル感……たまらねぇぜ……!


「あー……いえ、別に流行ってはいません。だから気にしなくて良いです」


 逃してなるものか!

 くらえ! 火澄家に伝わる四億二千の特殊能力のひとつ『矢継ぎ早な質問』を!


「いや、俺超気になる! 教えてよ秋心ちゃん!

 いったいそのオムカレ様ってなんなのさ!? 様をつけられてるくらいだから偉いんだよね!? なんなら今から調査に行こうか! どこに行けば会えるんだ!? さぁさぁ教えてくれ秋心ちゃん!」


「……あの、先輩今後の人生でその舌は必要ですか?」


 俺のベロをどうするつもりだ。要るに決まってんだろ。冷蔵庫にプリン残してんだよ、帰ったら食べるって決めてんだ。ベロないとその甘みを感じられないじゃんか。

 ……よし! やっぱちょっと黙っとこう! 相変わらず弱いなぁ、俺。


「そうですね……オムカレ様って言うのは漢字で書くと皮を『剥く』の字を当てます。『お剥かれ様』とは遥か昔、とある儀式の為生皮を剥がれて殺された人々の魂が合わさり邪神となったものです。

 その怒りを鎮める為、その地方の村々では崇め奉られるようになり、いつしか神となったんだとか……」


 なんかそれっぽい事を言い出した。

 よくもまぁそんな口から出まかせがぽいぽい浮かんでくるもんだ。

 グロい話を考えさせたら天下一品である。


「へぇ……他には? 他には何か情報はないの?」


「ぐ……なんで今日に限って先輩興味津々なんですか……腹立ちますね」


 それは君を疑ってるし、日頃の恨みを少しでも晴らすまたとないチャンスだからだよ。

 悔しそうな表情に少しだけテンションを取り戻す。

 この体が朽ちてもいい! いっけぇ! 俺の追随攻撃だ!


「ねぇねぇ秋心ちゃん。勿体ぶらずに教えてよ」


「やかましいです。あたしお腹すいてきたんでもう帰ります」


 びっくりするくらい見事に一刀両断されちった……。さっきまでのハイテンションが見るも無残にしぼんでいくよ。でも言い返せないし、素直にわかりましたと手を振るにとどめる。

 ヘソ曲げたこの後輩ちゃんにはもう油を注ぐまい。


「あんまりバカにしてると知りませんからね! お剥かれ様に呪われても!」


 秋心ちゃんは悔しそうに言い放った。油入れてないのに……。


「いやごめんごめん。バカにしてるわけじゃないよ。

 秋心ちゃん、何食べるの? 晩御飯なんだったら嬉しい?」


 これ以上責め立てても後が怖いので話題を逸らす。

 秋心ちゃんは相変わらず苛立っている様だから、まぁ失敗してるんだけど。


「そうですね……さっきの話で思い浮かんだんですけど、オムカレーとか?」


 やっぱただの言い間違いだったんじゃんか!

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