火澄伝説の噂(解明編)
さて、前回の予告の通り太刀洗の話について訂正していこうと思う。
まず、あいつが話した内容は大筋では間違っていない。
確かに阿保な二年生の提案で件の祠まで夜中に出向くことになったのは事実だ。祠が壊されていて、そこに女の霊がいた事も相違はない。
順番は前後するけれど、ひとつずつ説明していこう。
まずは手直しその一。
分かれ道で俺は囮になんかなっちゃいない。
なんかみんなが勝手に俺とは違う道に逃げてっただけだ。正直、かなり心細かった。
俺、先頭走ってたのに誰も着いて来ないんだもん。イジメかと思った。
単純に俺だけ道を間違えたのかも知んないけれど。
次に手直しその二。
あの幽霊は別に悲しい過去もなんもないって事だ。
あの祠にはなんか強力なお札みたいなのが封印されてたらしく、祠が壊されお札が盗み出されたせいでそこら辺にいる幽霊が寄って来ただけ。
あの辺りに人柱の話があるなんて聞いた事ないし。
手直しその三。
従って俺は別に慈悲の心をもって霊を成仏させたわけじゃないってこと。
そのお札を掲げたところ
……さて、ではなぜ俺がそのお札を持っていたのか? 勘の良い人ならもうお気付きだろう。
手直しその四。
祠を破壊した犯人は俺だったのだ。
いや、ちゃんと理由はある。
まぁ、太刀洗の言葉を借りれば部活の先輩の命令だから逆らえなかったのだ。仕方ないよね。
なんでも、そのお札を欲する下級霊がその山には多数いるらしくあまり良くないんだとか。
『幽霊って基本阿保やから、その札に触ったら知んでしまうんよ。まさに飛んで火に入る夏の虫なんやけど、祠のせいで直接触れんくて、ただ集まってきよるだけやからタチが悪い。
うちが去年回収しといたら良かったんやけど、先生達に目を付けられとったからできんかったんよね。
そのままにしといたら被害出るかもわからんし、あと別に使い道もあるから持って帰ってきて。
忘れたらお前の
ほんと、仕方ないよね。何故魚肉?
以上がことの全てである。これで先に上げたいくつかの訂正に補完ができるかな。
幽霊が俺を追いかけて来たのは、俺が祠を壊した張本人でありお札を持っていたから。
肝試しに行くのを渋ってたのも、祠を壊した後ろめたさがあったからだ。って言うか、何か起きそうって予想していたのもあるし、その点では太刀洗の言う事も的外れであったとは言いがたいけど。
あの事件以来、なんかクラスメイト達がよそよそしくなった気がしてたけど、その責任の一端はどうやらこの男にあったらしい。
よし、やっぱり一発殴らせろ。
これにて訂正終わり。
「そう言う事なら、火澄先輩が本当のラブレターをもらう事もあながちあり得ないとは言えないですね……」
秋心ちゃんは神妙な面持ちで顎に手を当てる。
それを聞いて俺は先述の訂正について口をつぐむ事にした。
だって、本当にラブレターをもらう日が来た時に、今日という日を笑って話せるようになると思うから……。
「そうだぞ! これは公然の事実であり、周知の事実だ!
火澄の活躍はみんなが一目置いている! 知らないものはいない!」
それはそれで困る。
これから、いつ祠を壊した事を咎められるのかと戦々恐々しながら過ごさなければいけないじゃんか。
それにそんなに知られてないっぽい。俺、知名度低いし。
周りに秋心ちゃんや雪鳴先輩や木霊木さんと言った有名人が多すぎるせいかもしれんけど。
特に秋心ちゃんだ。
いつもいつもモテない火澄先輩と馬鹿にしてきてからに。何度屈辱を味わったことか。
つい先日だって『一日に二回も告白されたのは初めてです。これって早い者勝ちなんですかね? まぁ、どちらもお断りしましたが……。火澄先輩も、こんな事で悩んだことありますか? 無いですよね、悩むとしたらお昼をAランチにするかBランチにするかくらいですもんね。良いですね、人生楽そうで』なんて言われたし。
乾笑いしか出来なかった俺の気持ちを少しでもわからせたかった……。
力無き者は、強者に蹂躙されるしかないこの世界はおかしい。
「俺の心が腐っちまう前に一刻も早く本物のラブレターを貰わないと……」
「……どうやってそれを阻止すれば良いんでしょうか?」
なんで?
もうこの世界には敵しかいないのか……。
「んで、こんな紛らわしい手紙寄越してまで俺を呼び出した理由はなんだ、太刀洗」
「おお、そうだ! 危うく忘れるところだったぞ火澄!」
太刀洗は笑いながら言うが、俺は一刻も早く帰りたい。
こんばんは眠れるだろうか? 理想の女の子でも想像しながら長い秋の夜長を明かすこととしよう。
って言うか何笑ってんだてめぇ。
「是非オカルト研究部の火澄に聞きたかったんだ! 見てくれ、俺の跳躍を! 凄いだろう! 凄い跳躍だろう!
このような跳躍力の俺はもしや、天狗の生まれ変わりかと思ってな! どうだ、どうなんだ火澄! 俺は何者なんだ! 教えてくれ火澄!」
「ただの馬鹿だ」
ビョンビョン飛び跳ねる太刀洗を背に、帰る事にした。
秋心ちゃんは可笑しそうに俺の後を着いて来る。
「なんだか変な人ですね」
……秋心ちゃんもね。
「でも、ラブレターじゃなくて安心しましたよ。色恋に
俺は幽霊追っかけて祠をぶっ壊すよりも、可愛らしい彼女でも見つけて青春を謳歌したい。
その方が、今よりも幾分か健全だろうが。
「何はともあれ残念でしたね、いつか本物のラブレターをもらえると良いですけど」
思い出すと死にたくなる。今も絶賛死にたいキャンペーンは続行中だけど。逆に秋心ちゃんは生き生きしている。
この後輩ちゃんは俺の不幸を吸って生きる生き物らしい……いやだいやだいやだ! そんなの絶対いやだ!
「なんで秋心ちゃんって、俺にいちいち告白されたりラブレターをもらった事を報告すんの? 嫌がらせかよ」
「わかってるなら聞かないでください。その通り、先輩の反応が見たくてやってるんですよ。
いつもいつも悔しそうな顔、ご馳走様です」
よし、次は喜んでやろう。不本意だけど。
「でも、本当に必要になったら言ってください。火澄先輩の為なら、ラブレターの一枚や二枚書いてあげますよ。
今までもらう専門だったので上手く書けるかはわかりませんが」
不幸の手紙になるだろうから遠慮しとく。
十人に回すこともできないし。貰ったラブレターを人に見せびらかすなんて、しちゃいけないことだからな。
おわり
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