野良犬キメラの噂
野良犬キメラの噂(提起編)
「
「え? どうしたの突然。まるで女子高生みたいな話題振って来たりして……」
後輩ちゃんは指を止め、代わりに鋭い目線が飛ばされる。
「あたし、女子高生ですけど? 先輩、短い人生の中でこうやって女子高校生と口を聴けるのなんて限られた時間しかないんですから、素直に喜んで跪いて土下座しながらたまたま床から突き出ている釘に額を貫かれるくらいしたらどうです?」
健全な女子高生の発言じゃないよね、それ。
秋心ちゃんこそ、その貴重な女子高生の期間をこんな陰気な部活動で浪費している愚かさに気付くべきなんじゃないかな。
「いや、ごめんうっかりしてた。そんな本読んでるのも珍しいし」
「先輩も見ます? 超くだらないですよこれ」
ならなんで読んでんだ。
「服と恋愛の事しか書いてないんですよ、この雑誌。表紙のケバケバしたピンク色が見るからに頭悪そうでしたが、中身も案の定です」
いや、だからなんで読んでんだ。
「それで、犬派ですか? 猫派ですか?」
あぁ、その質問まだ生きてたのね。
急に話を変えたり戻したりするからこの後輩ちゃんは困る。
「猫派かなぁ……」
「そうなんですか? どうして?
あたしは犬派なんですけど」
これ、秋心ちゃんに合わせるゲームだったの? なんでちょっと不機嫌そうなのさ。
「理由か……そうだな……」
別に大した意味はないんだけど……なんとなくで答えただけだし。
強いて言うなら、猫って可愛いから。
「あんな気分屋でわがままで群れようとしない動物のどこがいいんですか? なんだか、自分可愛いでしょ? みたいな態度も気に食わないですし、何よりすぐ引っ掻いたりするじゃないですか」
あぶね、秋心ちゃんって猫っぽいよねとか言わなくてよかった。今あげつらわれた要素の大半は秋心ちゃんに当てはまってるんだけど。
引っ掻かないぶん悪態を吐くくらいしか相違がない。
「じゃあなんで秋心ちゃんは犬派なの?」
「犬って言うこと聞いてくれるじゃないですか。
あたし、自分より頭の悪くて従順な動物が好きなんですよ」
なんだ、この子精神でも病んでるのか?
「そんなの、人間以外のだいたいの動物に当てはまるじゃん」
「そうなると火澄先輩は人間じゃないことになっちゃいますけど……良いんですか?」
良くないわ! 俺、頭いいもん!
「ところで、先輩は『一丁目の犬屋敷』の噂を知ってますか?」
ほら、また始まった。わがままで自分勝手な生き物、それが秋心ちゃん。
すぐにオカルトに話を移そうとするから嫌だよ。オカルト研究部かっつーの……そのとおりだっつーの。
「そこの人、野良犬を拾って来ては家の中で飼っているんですよ。近隣住民からは鳴き声と悪臭でクレームが来ているんですが、一向に改善されないんです。
それだけならまだいいんですけど」
ん? 聞く限りここまでもなんも良くないぞ?
「劣悪な環境で鮨詰めにされた犬達が勝手に交配をして、更にその数は増えていってるんです。
そしてその中に、突然変異だと思われる異質な犬が生まれたんだとか。
名付けて『野良犬キメラ』です」
得意げにそう言い終わると秋心ちゃんは雑誌をたたんで立ち上がった。
そんなうまいこと言ってないよ、秋心ちゃん。
「さぁ、行きましょう!」
「え? どこに?」
「話聞いてなかったんですか? 理解できていないなんて、やっぱり動物以下じゃないですか……」
動物レベルから更に格下げされた。悲しそうに言わないでくれ、冗談じゃなくなっちゃうからさ。
わかってら、どうせその犬屋敷に行くんでしょ?
「猫みたいに引っ掻かないかもしれないけど、犬は噛むぞ?」
「大丈夫です。先輩なんか食べたらお腹壊しちゃいますよ」
知らず知らずのうちに俺が特攻することまで決まっていた。
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