心霊写真の噂
心霊写真の噂(提起編)
「
いつもよりいささか遅れてやってきた
あれで殴られたら痛いだろうなぁ……と、カメラの本来の使い道を度外無視した考えがよぎるのは、普段の秋心ちゃんの言動によっておれの心も荒んでいるからに違いない。
「あ、初めまして。私は一年で新聞部の
自己紹介も終わる前にパシャリと一枚シャッターが切られた。せっかくってなんなんだろう。
なんか変な子だな、と言うのが第一印象だよ。
「あ、あぁ初めまして。俺はオカ研部長の火澄です……えっと、秋心ちゃんのお友達?」
「いえ、他人です。初めて会話をしたのも今日ですし、同じクラスだと認識したのだって今日ですから、友人とは呼べませんね」
秋心ちゃん、本人を目の前にしてそんなズバッと言わなくても良くないかな。
それに夏休み明けまでクラスメイトの顔と名前を覚えてないのはどうなんだ。少しは他人に興味を持ったほうがいいよ。
「あ、はい秋心さんの言う通りです。異論はないです」
君もそれで良いのね。ならもう何も言うまいが。
地味な顔立ちにコントラストを放つ赤い縁の派手な眼鏡が印象的な後前さんは、なんとなく掴み所がない。
おそらく秋心ちゃんと仲良くなるような人種ではないだろう。そもそも、秋心ちゃんと仲良くできる人間がいるのなら、俺はそいつに即師事するけど。
「火澄先輩に相談事があるんだとか」
秋心ちゃんの目配せを受けて後前女史は口を開いた。
「あ、はい。
オカルト研究部は最近の活躍も目覚ましく、部でも評判ですよ。
俺達の知らないところでそんな風に噂されてたのか、確かに全て嘘とは言えない。
別に威張れるようなことはなんもしてないんだけどなぁ。むしろ悪目立ちして非合法な部活である俺たちにとっては都合が悪いくらいだ。
なんか探りを入れにきてんのか?
恐る恐る尋ねてみる。
「……校内新聞で俺達オカルト研究部の事でも取り上げるつもりなの?」
「あ、いえ、それは違います」
うん、君は返事が早くて良いね。でもそれはそれでちょっと悲しいかな。
「そうなの……じゃあ相談ってなに?」
「あ、はい。
じゃあ早速で申し訳ないんですが本題に入らせてもらいたいと思います。
こちらなんですけど」
差し出されたのは一枚の写真。俺と秋心ちゃんは同時にそれを覗き込んだせいで、危うくデコがぶつかるところだった。
この子、頭固いから大怪我しちゃう恐れがあるよ。柔軟性に優れない後輩である。
「うわぁ……先輩、これ……」
写真に写っているのは俺だった。何でそんな感嘆詞を付けるんだ、傷付くぞ?
なんかボーッとした目付きで廊下を歩く猫背の俺の姿。覚えがないことから隠し撮りでもされたのだろう。
その理由を問い詰めたくもなったが、それよりもある一点から視線が外せないでいる。
「心霊写真ですね……」
良かった、俺の姿を見て「うわぁ」って言ったんじゃなかったんだ! ……いやいや、良くない良くない。
俺の肩に恨めしそうな顔をした男が写っている。
怒りとか憎しみとか、なんかそう言う赤黒い感情が見て取れるね。軽く寒気がしちゃう。
「あ、うん、そう、心霊写真。
私達としては別に構わないんだけど、何か不幸が起きたら困るだろうから、一応当事者には伝えておこうと思って」
別に構わんのかよ。
まぁそりゃそうか。よく知らんやつが呪われててもたいして気にならんだろうしね。俺は当事者だから笑えないけどね。
なんでいつも俺だけこうなんだろう?
「先輩、何か恨まれる様なことしたんですか? それともお化けを怒らせる様なことをしたとか?」
後者については覚えがありすぎる。でも、それなら秋心ちゃんも一緒に呪われてるはずだろ。こないだもお墓でカップラーメン食べるとか、不謹慎も甚だしいことしたばかりだし。なんで俺達はあんなことしたんだろうね?
ところで前者については全く身に覚えがないんだなぁ。
基本的に波風を立てないのが俺の心情なのだ。人に迷惑をかけないことに定評がある火澄くんで通っている。怨みを買うことがあるとすれば、秋心ちゃんからだけだ。
それもまた理不尽なものばかりだけど。
「たまたまじゃね? 偶然幽霊が写り込んだだけだろ。そんな偶然嫌過ぎるけど」
「あ、でもこれ一枚じゃないですよ」
ドサドサと山積みにされた俺の写真。
その全てに恨めしそうな顔が写っていた。しかも写っているのは一人二人の顔だけではない。
なんて嫌な集合写真だよ。
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