嫌われ者の噂(解明編)
「なんで嫌われてんの?」
聞いといてなんだけど、我ながらデリカシーのない質問だと後悔をした。
それでも秋心と言う少女は薄っすらと笑みを浮かべる。
「火澄さんは罪人を好きになれますか?」
罪人……とても難しい質問だ。一般的な道徳感情からすれば、罪を犯した人間を忌避するのは当然なのかもしれない。どんなに愛していた人だろうと、過去の罪を告白された時に心変わらずいられるかと聞かれれば、すぐに頷くことはできないと思う。
そしてそんな例えを出す意味。それは、この秋心と言う少女が咎人だということに他ならない。
「君……秋心さんは、何か罪を犯したのか?」
口元には笑みを残しながらも、透き通った瞳にうっすらと影を落としながら彼女は答える。
「……よく言うじゃないですか、『美しさは罪』だって」
あ、こいつが嫌われてる理由が一発でわかった。
自分で言うな。納得出来る分タチが悪いぞ。
「後はそうですね……クラスメイトと仲良くできなかったり、部活の勧誘を断り続けているうちにひとりぼっちになってました。
別にだからどうだってことはないんですけど。影で人の悪口を言う輩なんか相手にする価値もありませんから」
もしかしてこの子、さっきの野球部のマネージャー勧誘を断ってた子じゃないの? あの口の悪さなら、そりゃあ友達なんかできるわけないよね。なおのこと納得しちゃうよ。
影口云々の話は置いておいて。
「オカルト研究部は火澄さん一人だけなんですよね? なんでも正式な部じゃないと聞きましたけれど」
「ま、まぁね……君、なんでそんなに詳しいんだよ?」
「つい先程、野球部の勧誘……と言ってももちろん選手ではなくマネージャーですけれど、それを断っている時に野次を飛ばした人がいまして、ざわめきに耳を傾けてみたらたらその人はオカルト研究部の火澄さんと言う人だそうで。
わざわざ火中の栗を拾いに行くような阿保な人もいるもんだなぁと呆れちゃいましたよ。あなたのおかげで執拗な勧誘から逃れることができました、ありがとうございます。
付け足しておくと、この部室に逃げ込んできたのは全くの偶然ですが」
ほんと余計なことするんじゃなかった。殴られちゃったし野球部の全員を敵に回しちゃうし散々だ。
てもまぁ、結果としてこの子が助かったのなら良しとしよう。
「オカルト研究部は新人勧誘しないんですか?」
「しないよ。だってあれ、後輩が欲しくて……つまりは先輩になりたくてみんな必死こいてんだろ?
それって自分が先輩になって後輩に威張り腐りたいだけじゃん。それか面倒な仕事を押し付けたいかだろ。
俺、去年先輩に散々こき使われてたから、後輩にまでそんなことやらせたくないんだよ。ならいっそ、後輩なんて要らないんじゃないかと。
君が野球部のやつに言ってたことは、俺としてはすごく納得できたんだよ。だから外野から野次を飛ばしてたわけ。
別に助けたくてやったわけじゃないのよ」
実際に口にする勇気はないけどね。その点、この子はなかなか腹が座っている。
ちょっとだけ羨ましいよ。
「では、たった一人きりで部活動はどうするつもりなんですか?」
「俺、もともと真面目な部員じゃないし。オカルト研究部だけに幽霊部員にでもなろうかな……」
だから「そうですか」じゃないって。今の笑うところだぞ。
「噂を集めて……なんて言っておきながら、あたしの噂も知りませんでしたもんね。なるほど不真面目な方だと言うことはわかりました、納得です。」
なんかこの子、初対面なのにさっきから失礼じゃない?
「オカルト研究部だから幽霊とか未確認生物の噂とか専門なの。君、ちゃんと生きてるんだろ?」
「でもあたしの可愛さは未確認生物級ですよ?」
まだ言ってら。恥ずかしくないの? 俺の方が顔を手で覆いたくなるよ。
「あたし、ここに入部してもいいですか?」
「えぇっ!? な、なんで!?」
唐突な提案に度肝を抜かれた。もし俺がこの子に一目惚れでもしてて骨抜きにされてたならもう肉と皮しか残ってないところだった。危ない危ない。
「火澄さん、ちょっとだけ面白いですから。あたし、久し振りにちゃんと会話をした気がしますよ」
なんか悲しい付け足しがあったけど、ちょっとそこには構ってられないぞ。
そもそも俺は全然面白くなかったわ。まだ出会って数分しか経ってないのに、俺はこの僅かなやり取りだけでなんとなく君と一緒にいることに嫌な予感しかしないんだけど。
「後輩をこき使いたくないなら、後輩にこき使われれば良いじゃないですか? 部員も増えて火澄さんの懸念も解消される。
悪い話ではないでしょう?」
なるほど、天才か!
……いや、よくわからんぞその理論。ちゃんと論理的思考に基づいて導き出された答えなんだろうな? それ。
「それに部活に入ればここ何日か続いている勧誘地獄からも逃れることができますし。
大手を振ってこの部室から出られると言うものです」
部活の勧誘から逃げてたのか。まぁそうだろうね。
て言うか、性格悪い(本人の申告を含む暫定データ)くせになんでそんなに人気あんのよ。
やっぱ人間って見た目が百割だよな。千パーセントになっちゃったよ。
「あらためて、一年の秋心です。
これからよろしくお願いしますね、火澄先輩」
まだ良いよって言ってないんだけどなぁ……。
これが俺と秋心ちゃんの馴れ初めである。
俺が卒業する頃には彼女との出会いもこれから起きる色々も、全てが良い思い出であったと言える事を今は切に願うばかりだ。
おわり
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