オカ研夢診断の噂(後日談)
「約束です。覚めることのない眠りに落ちるまで、三、二……」
現実世界の秋心ちゃんはやっぱり辛辣かつ苛烈だった。夢を見れなかったくらいで殺されるなんて、そんな殺人動機前代未聞だろ。そもそも、夢を見るために寝るのって本末転倒だと思うんだけどなぁ。
夢を見なくなったら人は死ぬ……なんか、青春っぽい言い回しだね。
なんて呑気なこと考えている間にも秋心ちゃんは箒を振り上げ迫ってくる。
「ち、違う違う! 殺さないで!」
「何が違うんですか!? 言い訳は死んでから聞きます!」
死人に口無しって言葉を知ってるかい?
「ゆ、夢は見たんだけど忘れたんだよ!」
「寝ぼけてるんですか!? そんな宿題忘れた小学生みたいな言い訳信じられません!」
「ほ、ホントだってば! 確か、夢から覚めた夢を見た!」
「頭の悪いことばかり言わないでください!」
箒か空を斬る。紙一重で秋心ちゃんの攻撃をかわし続けてはいるが、このままではその餌食になるまで時間の問題だ。
「あ、だんだん思い出して来た! だから一旦攻撃ストップ!」
秋心ちゃんは秋心ちゃんで肩で息をしている。
その肩に箒を担いでから、不敵な笑みを見せた。
「へぇ、では説明してもらいましょう。どんな夢から覚めた夢なんですか?」
多少落ち着きを取り戻す後輩ちゃんを刺激しないよう言葉を続ける。
「秋心ちゃんから殺される夢」
「し、失礼な! あたしそんなことしません! 殺しますよ!?」
絶えずパラドックスを生み続ける彼女に賞賛の言葉を送りたい。
あぁ、夢の中の優しい秋心ちゃんが恋しいよ。
「ご、ごめんなさい! 殺さないでください!」
「あたしが先輩を殺す夢を見る分には自由ですが、先輩が勝手にあたしに殺される夢を見る事は許しません!」
なんたるわがままだ。
正味な話、秋心ちゃんが何を言ってるのかよく分からなくなることがあるよ。
「まったく、いつかの黒ずくめの人物じゃあるまいし……勝手に殺されないでくださいよ?」
確かにそんな夢を見たこともあるが、それもまた夢の中の話であり現実世界とはまったく干渉しない出来事。いつの間にかそんな夢を見たことすら忘れてしまうような、些細な出来事だ。
どんな夢を見たかなんて、明日には忘れてしまう。だから、夢なんて生きて行くことになんの重要性も持たないのだ。
……待て、いつかの黒ずくめの人物って何で秋心ちゃんがそれを知ってんだ?
あれは夢の中での話だろ。夢の中の夢の話だろ?
どうして秋心ちゃんからその言葉が出てくるんだ? そんな出来事は実際には起きていないのに。
まさか……いや、今目の前のこれは現実の風景のはずだ。
頬をつねっても分からない。
どうやって確かめればいいのかも分からない。キスをお願いしてみるか?
……それはそれで殺されてしまうだろうから諦める。
ここは現実だよな?
これは夢じゃないよな?
ここは現実だよな?
ここは現実だよな?
これは夢じゃないよな?
俺は夢と現実の区別がつかない。
おわり
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