オカ研夢診断の噂

オカ研夢診断の噂(提起編)


「……火澄ひずみ先輩、起きてください」


 頭上で声がした。

 多分これ、秋心あきうらちゃんの声だ。絶対そうだ。他にいないもん、我の眠りを妨げようとする愚かな人間など……。

 やっと今し方夢の世界に誘われようとしていたのに、最悪なタイミングでやって来るんだもんなぁ。

 今日はもう一日中眠くて眠くて、授業中もうとうとしてとうとううとうとが限界に来たから先生にとうとうとうとうとしていたことを怒られたりしたりしてたのだ。何言ってんだ俺。

 だから部室で少しだけ仮眠を取ろうとしてたんだけど、こんな日に限って秋心ちゃんやって来るの早い気がするし、意識は目覚めてるんだけど体は眠ってるって言うか動けないって言うか動きたくないって言うか、なんなら寝たふりしたままやり過ごしたいって言うか……。


「起きないんですか? 寝たふりですか?」


 寝てますよ俺。


「起きないとちゅーしちゃいますよ?」


 反射的に起き上がる。あれ、どこまで夢だったっけ?


「あぁ、秋心ちゃん来てたの?」


 大袈裟にあくびをしてみる。


「な……やっぱり狸寝入りじゃないですか! 趣味悪い! 永眠してください!」


 目覚めを喜んでよ。

 だって秋心ちゃん、俺の母ちゃんと同じ手段使って来るんだもん。そりゃ無理矢理にでも起きるっての。


「ま、まったく……部室は先輩の部屋じゃありません! なに居眠りしてるんですか!」


 そもそもオカ研の部室でもないんだけどね、ここ。てかさ、本来は何の教室なんだよここ。


「もう今日眠くって……」


 皆さんはあくびをすると涙が出るメカニズムをご存知だろうか? 俺は知らない……なら言うなってね。


「何か夜更かしでもしてたんですか? いやらしい、そして汚らわしい。近付かないでください。助平がうつります。

 通報されたくなければ社会復帰してください。そして人里離れた山奥で外界と関わらず、人々に迷惑をかけないように過ごし人知れず死んで行ってください」


「なぜ社会復帰した後にまたその社会から解脱せにゃいかんのさ。そもそも俺は現在進行中で社会のど真ん中にいるよ?」


 そこまで飛躍できる想像力を持った秋心ちゃんこそ、エロ将軍なんじゃなかろうか……と付け加えようとしてやめた。

 賢明な判断だ、流石火澄くん!


「そんな風に机に突っ伏して、しかも制服で寝てたら体を悪くします。ちゃんと着替えて、お布団で寝てください」


 確かに肩がもうガチガチだ。振り向けないくらい痛い。今忍者に背後を取られたら一貫の終わりだろうね。万全な状態でもどうしようもないけど。


「そうしたいのはやまやまなんだけど……」


 眠たいから帰るなんて言ったら秋心ちゃんに起こされそう……じゃなくて怒られそうなんだもん。

 学校では死ぬほど眠いのに家に帰ったら目が冴えるの、あれどうしてなんだろうね? 布団に入ったら漫画読んじゃったりなんかしちゃったりして、結局夜更かししちゃうんだよなぁ。


「秋心ちゃんは寝るときどんな格好してんの? あ、ちなみにこれセクハラね」


「ま、前もってセクハラである事を宣言するとは、なかなかやりますね火澄先輩。ぐぅの音もでません」


 おお、なんか知らんが秋心ちゃんがひいている。眠気で頭がうまく働かないから、それが逆に功を奏しているのかも。


「でも、グーパンチは出ます」


 ぐぇっふぅ……!!


「ま、待て……寝起きにみぞおち殴るのはやめろ」


「みぞーち? あきうら、わかんない」


 急に子供返りするな。そんな的確に急所を突いてくる子供がいるか。


「少しは眠気、覚めました?」


「意識が飛びそうだった」


 満足そうな顔するな。


「ところで先輩は夢を見ますか?」


 夢か……よく見てる気がするんだけど覚えてないなぁ。目が覚めた瞬間はいい夢見たーとか怖い夢見たーとか感想も言えるんだけど、記憶には残らないのが不思議だよね。


「見ることあるけど、俺は夢の中でそれが夢なのか現実なのか、区別つかないんだよ。

 わけのわからん展開になるってところ以外はほとんど現実みたいなもんで、痛みだって感じるんだよ。だからほっぺつねっても夢だって気付けないんだよね」


「へぇ、あたしの夢は音が聞こえません。整合性の取れた現実的な内容ではあるんですけど、途中でこれは夢だなってわかる事もありますし、夢の見方も人それぞれですね」


 なんかで聞いた話だと色の無い夢を見る人も多いらしいし、夢を自在に操る人もいるんだとか。

 よくよく考えたら不思議な話だよな。


「夢は睡眠中に記憶の整理の過程で脳が起こすものらしいんですが、あたし達オカルト研究部としてはやはり超常的な何かに起因していると考えるべきです」


 おぉ、なんか秋心ちゃんが意気込んでいる。

 がんばれー! 応援するぞ! 俺部長だし!

 なら秋心ちゃんより頑張れよ、俺。


「こうしましょう。明日、二人で見た夢を発表してそれぞれの夢を分析するんです。

 わぁ、ナイスアイデア。先輩、秋心ちゃんを褒める権利を与えます。さぁ、頭を撫でてください」


 い、嫌だ……絶対撫でんぞ。噛みつかれるのがオチだ。


「もし今日の夜、夢見れなかったらどうすんの?」


「それこそ本当に永眠してもらいます」


 あぁ、やっと眠気が覚めました……覚めたらダメだろ。

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