憎しみを込めた呪いの噂(調査編)
今目の前にある穴の空いた葉っぱは四枚。
部室に来る前、よく分からずに捨てたのが確か五枚だったから、合計九つの呪いが俺に降り注いでくる計算になる。
愕然とし言葉に詰まる俺を流石に可哀想だと思ったのか、秋心ちゃんは言った。
「ま、まぁこんなのただのくだらない悪戯ですし。本当に呪いなんて起きるわけないじゃないですか」
普段苛烈な饒舌を絶やさない秋心ちゃんに、たまに優しくされると妙に胸が痛くなるのはなぜだろう。ヤンキーが捨て犬拾うのと同じ効果があるのかもしれない。
今、命の灯火を絶やさんとする俺にしてみれば、冷酷非道の秋心ちゃんですら女神様に見えるから不思議だなぁ……。
いつもこうなら良いのに。あ、俺はもうここで終わりだからそんなこと言っても仕方ないか。最後に良い思い出をくれてありがとう。
「あ、秋心ちゃん。短い間だったけど、一緒に過ごせて楽しかったよ……」
肩に置かれた彼女の手を握り返す。
秋心ちゃんの手の平はとても小さく、しかしとても温かい……って言うか、ちょっと熱いくらい。
熱でもあるんじゃないの? 心なしか顔も少し赤い気がする。
なんて考えてる刹那、頬に焼けるような痛みが走った。
「火澄先輩、しっかりしてください!」
どうやら平手打ちでもされたらしい。びっくらこいて殴られた頬っぺたを抑える。なんて奇襲攻撃を仕掛けてくるんだこの子は。
現実に引き戻された俺のすぐ目の前に秋心ちゃんの顔があった。怒ったようにまっすぐ俺を睨んでいる。
「何を呆けているんですか! こんなどうしようもない噂でいちいち落ち込まないでください!
先輩がそんなに悲しそうな顔してたら……」
悲しそうな顔してたらなんだろう。『あたしも悲しくなっちゃいます!』なんて嬉しいこと言ってくれるのかね? さっきまで天使みたいに見えてたから、まだその可能性あるよね?
口を一度つむぎ、唇を噛んで秋心ちゃんはこう言った。
「そんな悲しそうな顔してたら、あたしが罵倒し辛いじゃないですか!」
……あぁ、なんだ励ましてくれるんじゃないんだ。どんだけ俺に悪態吐きたいんだこの後輩。
やっぱり天使じゃなかったこの子。悪魔の生まれ変わりか何かに違いない。小悪魔コスプレとか超似合いそう。
今からハロウィンが楽しみだね。
「ごめんごめん、あまりのショックに我を忘れてたみたい」
「まったくもう、何度も言ってるでしょう? こんな事で呪いなんか起きません! 先輩だって信じてないくせに!」
いや、そうなんだけどさ……。
実際に身に降りかかってみたら結構ショックだよ?
「呪いがどうたらって言うのは、正直どうでも良いんだよ。ただ、こんなにたくさんのやつに恨まれてるんだと思ったら、なんか凄い怖くなってさ」
「なるほど、確かに一理あります。
効果のほどはどうであれ、明確な悪意が自分に向けられているのだと告げられる事は気持ち良いものではないですよね」
おおっと、今どの口がそれを言った!? 悪口ばかり言うその口か!?
「……本音を言いますね、先輩」
秋心ちゃんは俺を見つめながら言う。その目が静かに燃えていた。これ、本気でイライラしてる時の秋心ちゃんだ。
うわ、どんな酷いこと言われるんだろう俺。今、結構精神的に辛い状況だからなるべくソフトなやつでお願いします。
や、優しく……優しくぶって秋心ちゃん!!
「あたしは今回の件、結構本気で頭にきています」
一瞬耳を疑った。
それって、怒ってくれてるって事でいいんだよね?
驚きの理由は語るもがな、今の今まで秋心ちゃんが俺の味方をしてくれた事なんて、一度もなかったのだから。いや、一回くらいあったかもしれないけど、それ以上に罵られる事が多くて記憶にないのです。
「これは我々オカルト研究部に対する挑戦状です。
ふふふ、絶対に後悔させてあげます」
不敵な笑みが口元に溢れている。
普段敵に回すと恐ろしい事この上ない秋心ちゃんだけれど、味方になるとなんとも頼もしい……と言うか、味方の俺からしても恐ろしいね。
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