嘘爺さんの噂(調査編)


 いつもいつも放課後の課外オカルト調査に駆り出される俺の身にもなってほしいよ、まったく。ほんとは帰ってテレビでも見たいのに。

 でも今回ばっかりは負い目があるので火澄先輩文句は言わない! 多少秋心ちゃんの機嫌も持ち直してるみたいだし、わざわざ火に油を注ぐ必要ないよね!

 それに今回の噂はあんまり厄介そうじゃないから、爺さん見つけてさっさと帰ることにしましょう。


「ところで秋心ちゃん、もう願い事考えた?」


「先輩には関係ないじゃないですか」


 いやいや、関係あるだろ、当事者も当事者だよ。

 その願い叶えるの俺なんだもん。


「今悩み中です。じっくり考えて、火澄先輩に最も効率よくダメージを与えるお願いを提案しないと……」


 火澄君の固有スキル、スーパーマジ勘弁タイム発動!

 このスキルを使うと、相手は俺のスーパーマジ勘弁に対抗する事は出来ない! ただし、秋心ちゃんには無効である。

 ならこんなスキル持ってても意味ないじゃん。


「あ、ほらあのお爺さんがそうです」


 公園のベンチに腰掛け鳩に豆を撒いている爺さんを指差す秋心ちゃん。話によると、その老人は昼頃から夕方までずっとそうしてるらしい。

 見た感じ普通の爺さんだ。仙人みたいな立派なお髭も生やしてないし、ホントに人の噂なんか見破れるのかね?


「あの、すみません。あなたは『嘘爺さん』ですか?」


 君、いつもいつも直球だよね。嫌いじゃないよそう言うとこ。でも真似は出来ないなぁ。そんな度胸俺には無い。


「あぁ? そうだよ」


 平然とそう答える爺さん。自分でもそんな噂が出回ってることを知ってるんだろうね。


「お嬢ちゃん達も、嘘見破って欲しいの? 今日はもう帰ろうと思ってたんだけど」


「そこをなんとか。あまりお時間はとらせませんので」


 嘘爺さんはバラッと豆を地面に投げる。

 鳩どもがくるっぽーくるっぽーとそれをついばむ。鳩よ、貴様らもはよ家に帰れ。カラスはもう鳴いてんだからはやく帰れよ。


「まぁ、わざわざ来てくれたんだし、良いよ」


 爺さんはそう言うと手を差し出した。


「五百円」


 金取んのかよ!

 なんか急に胡散臭さが増したぞこの爺さん。

 ……つっても、手相占いや姓名判断なんかも信憑性無いのに金取るんだから、別に普通なのかもなぁ。


「先輩、五百円ください」


「はいはい……」


 財布から硬貨を一枚爺さんに渡した。

 逆らうことが出来ない今日に限って金のかかる調査を行うあたり、流石秋心ちゃんといったところか。


「お嬢ちゃん可愛いから特別だよ?」


 爺さんはニヤリと笑う。


「となりの兄ちゃんは彼氏かい? 彼氏君はもうちっとシャキッとした顔しないとダメだよ」


 うるせぇクソジジイ、もといエロジジイ。

 いつもいつもこれだ。秋心ちゃんと一緒にいると、毎回容姿を比較されるからその度俺は傷付いている。心には擦り傷だらけだ。

 たまに『でも優しそうだよね』なんて情けをかけられることもあるけど、それは傷口に消毒液をぶっかけるようなもんで余計にしみる。


「いや、別に彼氏じゃ無いんすよ俺。ただの部活の先輩です」


 ふーん、と爺さんは興味無さそうに言った。噂がホントなら、これが嘘じゃ無いってこともわかってんだろうな。


「で、どっちの嘘を見破れば良いの?」


 その言葉には秋心ちゃんが答える。


「この人です。

 先輩、手始めに何か嘘を織り交ぜながら話をしてみてください」


 そう言われたってなぁ。

 嘘っていざ吐けって言われたらなかなか難しいよね。


「えーっと、それじゃ……俺んち猫飼ってるんですよ、トラ猫のメスなんですけど、その猫が夜な夜な俺の枕元に寄って来て言うんです。『もっと美味い餌を食わせろ……』って、恨めしそうな顔で」


「全部嘘じゃないか、兄ちゃん猫なんか飼ってないだろう」


 なんと、正解である。


「先輩、ってあたし言いましたよね? 全部嘘なら意味ないでしょう」


 それは違うぜ秋心ちゃん。

 確かに君はそう言った。その条件は見方を変えると、と言う捉え方もできる。この爺さんもそれくらいわかってるだろう。

 嘘の部分と真実の部分が入り交じった俺の供述から、嘘の部分を探そうとするだろう。

 ならいっそ、全部嘘の作り話をしてみてはどうか? 先述した先入観があるのならば、その方が爺さんの『嘘を見抜く能力』の検証に適しているのではなかろうか。

 同じ条件で今の話を聞いたなら、俺なら『猫飼ってる』ってとこはホントなんじゃないの? って思うだろうし。

 とりあえず第一段階はクリアしている。続いて、第二段階だ。


「じゃあこんなのはどうですか?

 俺達オカルト研究部って言ってお爺さんみたいな不思議な力を持ってる人の調査をしたりしてる部活なんですけど、部員はここにいる彼女ともう一人バスケ部と掛け持ちしてくれてる男子の三人だけなんです。

 で、最近はなんか部活内の仲悪くて部長の俺としては悩みの種なんです。どうしたら良いですかね?」


 爺さんはホッと一息ついて俺の話に回答した。


「そのバスケット部と掛け持ち部員ってのは嘘だな。

 おれぁ嘘言ってるかどうかわかるだけだけだから、本当は部員が何人いるのかは知らんけど、三人ってのも嘘だ。

 あと、部活内の仲が悪いってのも嘘だね。

 もう一個。お兄さん、ホントにそれ部活なの? なんか微妙に嘘っぽいんだよね」


 なるほど。


「秋心ちゃん、この爺さん本物だよ」


 こっそり耳打ちする。

 部員の数の話はズバリ的中。最後に付け足された指摘については、オカ研は校則の定める部員数五人に達していないので、正確には部活として認められていないと言う俺の懸念を嘘として確かに読み取っている。

 驚いたことに噂は本当のようだ。


「先輩、あたしと仲良いと思ってたんですね」


 え、違うの? 割とマジでショック。


「あたし、先輩のこと今は嫌いですし。果たして仲良いと言えるんでしょうかね?」


 くっくと爺さんが笑った。


「なんだ、そっちのお嬢ちゃんの話を聞いてた方がおれぁ面白そうなんだけど」


 俺もそう思います!


「……じゃあ前置きはこれくらいにして、本格的に嘘を見破ってもらいましょうか」


「もう噂の信憑性については結論が出たじゃんか」


「ここからは個人的な質問になります。もちろん嫌だとは言いませんよね?

 お金を払っているんですから、どうせなら楽しみましょうよ」


 言わずもがな頷くことしかできない俺。

 そもそも、そのお金も俺が支払ってるんだけどね……。

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