嘘爺さんの噂
嘘爺さんの噂(提起編)
「
こうなった
とりあえず落ち着くのを待つのが唯一の攻略法だと、確か説明書には書いてあった……そんなものがあれば是非とも売って欲しい。金に糸目はつけないからさ。
「いや、ホント悪かったと思ってるから……そんなに怒んないで」
「うるさいうるさい! 先輩はわかってないんです! あたしがどれだけ辛い思いをしたか……」
仕舞いにはうっすら涙を浮かべる始末。泣きたいのはこっちだよ。
溜息を噛み殺して、事の成り行きを説明しよう。
昨日の日曜日、俺と秋心ちゃんは二人で映画鑑賞に行く約束をしていた。そう言やぁ聞こえはいいけど、残念ながらこれは休日に二人でデートなんて甘酸っぱいものじゃあないんだなぁ。
最近幕切りされたホラー映画がそりゃあもう怖いと評判だったんで、オカルト研究部たる者見ないわけにはいかない、一緒に観に行こうとの秋心ちゃんからのお誘いを受けたのが金曜日の帰り道。
まぁ、休日にまで部活動に勤しむのも大変めんどくさかったんだけれども、大抵の部活は土日も練習に明け暮れているので頷くことにした。予定もなかったし。
しかしながら、あろうことか俺はその約束をすっぽかしてしまったのだ。
目が覚めるともう夕方、西日の眩しさに瞼を開いた……これが一番ホラーだろ。
せっかくの日曜日を十八時間も睡眠に費やしてしまうとは、俺の体、いったいどうなってんの? 白雪姫の生まれ変わりかなんかかよ。どんなトランスセクシャルだ。キスもされてないし七人の小人もいないけど。
目覚めの瞬間はそりゃあもう寝過ぎた後悔と秋心ちゃんへの恐怖……もとい申し訳なさが半端なく、携帯の着信履歴に慄然とした恐怖を覚えたのだった。
そんでもって、前もってチケットを購入していた秋心ちゃんは一人でその映画を鑑賞し、評判通りどえらく怖かったんだそうな。結果として昨日は一睡もできなかったんだと。俺の睡眠時間を半分くらい分けてあげたいね。
ちなみに僕は昨晩もよく眠れました。ロングスリーパー火澄! 来週もお楽しみに!
「この埋め合わせは必ずするから、だからどうか機嫌をなおしてくださいませんでしょうか……?」
「あたし、夜トイレにも行けなかったんですよ? どう落とし前つけてくれるんですか!」
約束すっぽかしたのと、夜眠れなかったりトイレに行けなかったりしたのは別の話なような気がするけど……。
俺が一緒に映画見てたとしても結局そうなってたんじゃない?
「なんでも言うことひとつきくから……」
その場しのぎの言葉がポロリ。
「なんでも……ですか?」
その言葉に秋心ちゃんがピクリ。
「そ、そう。なんでも」
今までも大概のお願い事を聞いてきた気がするけどね。て言うか、もしかして俺今とんでもないことを口にしてしまったんじゃね?
「男に二言はありませんね?」
あ、やっぱ今の無しで……って言いたい!
今更ヒヤリと脂汗。
「えーっと、痛いのとかはやめてくれたら嬉しいなぁ……」
精一杯の反抗である。弱! 俺超弱い! サバンナに放たれたら二分ともたんだろ、この弱さ。
あとエロい要求も勘弁して。『なんでもって言ったよねグヘヘ』とか、そう言うのはらめ!
「……わかりました、それで手を打ちます。嘘吐きな先輩ですけど、今回まで信じますから。どんなお願いでも聞いてもらいます」
約束破ったのは嘘吐いたわけじゃないんだけどなぁ。ほんとマジでこれは事故ですよ、過失割合ゼロだよ。損害賠償と慰謝料がっぽりがっぽり。
嘘、ごめん100パーセント俺が悪いです。早速嘘吐いちゃった。てへへ。
「ではさっそく、今日調査する噂について説明します」
さっきまでのしおらしさはどこに行ったの? いや、しおらしくなかったか別に。でも、変わり身早すぎて火澄先輩困惑しちゃう。秋心ちゃんの正体って忍びの者か何かかい?
「先輩、『嘘爺さん』の話はご存知ですか?」
例のごとく知りません。
ホント、俺ってなんも知らねぇな。ちょっとした危機感すら覚えるよ。
でもその大概が人生の役に立たない事なので、やっぱり安心して良いよね?
「人の嘘を見破れるおじいさんの話です。一見普通の老人なんですけど、その人の前で吐いた嘘は全て見透かされてしまうんだそうです。
嘘吐きな先輩にはうってつけの噂ですね」
随分と根に持ってらっしゃる……。そんな嘘吐き嘘吐き言わんといて。
「じゃあ、それが秋心ちゃんのお願いってことでいいんだな?」
「何言ってんですか。これは普段の部活動と同じでしょう。寝ぼけたこと言ってると圧死させますよ?」
どんな器具を使うつもりですか!? それって虫界で上位に食い込む死に方だろ!
「あぁ、わくわくします。嘘爺さんの前で先輩を丸裸にするのが今から楽しみです!」
えぇ!? 僕、全裸にされちゃうの!? おじいさんの前ではずかしぃよぅ……。
はいはい、そう言う意味じゃないよね。知ってますよーだ。
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