椎茸しか食べない男の噂(調査編)
昼休みのチャイムと同時に
な、なに? まさか告白!? ちょ、ちょっと待ってよ、まだ心の準備が……。
……おい誰だ今そんなわけないって言ったのは。俺の脳に直接語りかけてきた奴は誰だ! 出てこいぶん殴ってやる!
……お、お前は……も、もう一人の俺……!? そんな目で俺を見るなもう一人の俺! そんなわけないってわかってるから! だからやめてくれ!
「
「え? ……あぁ、紙飛行機の噂のことね。別に構わんよ」
ただお礼を言いに来ただけでした。春は短かったなぁ。
「わざわざあの神社まで行ってくれたんだよね? 私も一緒に行けば良かった」
「いや、結局何も役に立たなかったし気にしないで。俺達、好きでやってんだし」
正確には好きでやってるの秋心ちゃんだけです。
件の紙飛行機の神社にしても、秋心ちゃんから嫌がらせを受けただけで俺何もしてないんだな、これが。
そうだ、今こそ
「お疲れ様です、
噂をするとなんとやらで、気が付くと隣に
なんだよ、これから愛が芽生えるかも知らんかったのに。タイミング悪いわぁ。
なんか知らんが不機嫌そうな秋心ちゃん。まだ昼飯食ってないからイライラしてるのかな?
そんな刺々しい後輩ちゃんに木霊木さんは優しく話しかける。
「秋心さんも、この間はありがとうね」
「オカルト研究部としての活動をしたまでで、お礼を言われる謂れはありません。すみませんが急いでいるので失礼します。
さぁ、先輩早く」
そんな冷たくせんでも良いのに。
秋心ちゃんに手を引かれ俺も立ち上がり、空いた手を木霊木さんに振った。
笑顔で見送られながら、鬼のような後輩ちゃんに連れられていく俺。……ドナドナの仔牛みたい。
「それで、どの人が椎茸の人なんですか?」
椎茸の人ってあんた、ハムの人みたいに言うな。お歳暮でもらっても嬉しくないでしょ、椎茸。
「ほら、あの隅で弁当食べてるやつが
「ちょうど良いタイミングですね」
秋心ちゃんに手を握られたまま件の椎茸の人のもとへ。
側から見ると『
「あの、お食事中にすみません」
まさか直接問いただすつもりじゃなかろうな。過去にこの事を追及されて暴れた実績があるんだぞ、椎茸の人は。
万が一の時は俺が身を呈して秋心ちゃんを守らねばなるまい。
「あ、秋心さん!? 一年の秋心さんだ! どうして二年の教室に!? 俺に何か用ですか!?」
もっと静かなヤツだった気がするけど、気のせいですか?
「はい、秋心と言います。……あたしのこと、ご存知なんですか?」
「知ってるもなにも、俺ファンクラブ入ってるもん! ほら!」
ごそごそと取り出された名刺のような紙切れを受け取り、秋心ちゃんは苦々しく表情を歪ませた。
覗き込んで見ると、そこには『秋心ファンクラブ 会員ナンバー92』と書かれている。
「……実在したのか、秋心ちゃんファンクラブ」
「あたしは認めてませんが」
その勢力が二年生にまで伸びていようとは。って言うか、秋心ちゃんファンクラブに百人近い会員がいることが一番の驚きだ。
秋心ちゃんのモテる要素がわからないわけではないけど、こんなクラブに入る気は知れないなぁ。
「これ、どこに行ったらもらえんの?」
興味本位で問い掛ける。
「は? 火澄いたの?」
おもっきし嫌そうな顔された。
なんでそんなに邪険にするの? そんなヤツじゃなかったじゃん洞下くん。昨日も宿題写させてくれたじゃん。
どちらかと言うと、俺たち友達だよね?
「なんで火澄が秋心さんと一緒にいんのって聞いてんだけど」
「え、えぇ? 同じオカ研だからだけど……」
舌打ちすんな。
そんな不満そうな顔しなくてよくない? 俺も結構ショックとか受けちゃうよ? 秋心ちゃんからの罵詈雑言には慣れっこだけど、そこそこ仲が良いと思ってた人からこんな目をされるの初めてだよ。
「火澄さぁ、ファンクラブにも入ってないのに秋心さんと喋ったりすんのどうかと思うぞ。俺等、ぶっちゃけお前のことあんま良く思ってないから」
不条理に友達を失った瞬間だった。
同じ部活だからしょうがないって言ってんだろ。
「先輩も入ったらどうですか? あたしのファンクラブ」
絶対嫌だ。
俺の場合は『fan club《ファン・クラブ》』じゃなくて『funk love《ファンク・ラブ》』だろうし。直訳すると『愛に怯える』かなぁ。
秋心ちゃんからの愛を感じたことはないけど。
「それで、秋心さんこの俺に何か用なの?」
俺に向ける視線と違い過ぎだろ、その眼差し。
まぁいいや、この悲しみは『悲しみノート』に綴る事で供養しよう。
秋心ちゃん以外の名前をこのノートに書くのも久し振りだなぁ。
「今日はオカルト研究部の活動として来ました。
おいおい、そんな直接的な言い方したらダメだろ。自分の食生活がオカルト認定されてるって言われたら嫌な気分になるっつーの。ただでさえ腫れ物みたいな話題なんだから。
こう言うところがまだまだなんだよね、秋心ちゃんって。
「い、今秋心さんが俺の名前呼んだよ! 聞いてたか火澄!」
あ、うん。この男そんなことは全く気になってないみたいだ。さっきまで俺に敵意むき出しだったくせに、現金なヤツだこと。
「あの、話を戻してもよろしいでしょうか」
「あぁ、椎茸のことね。実はこれには深いわけがあって……」
そう言う洞下の手元の弁当箱にはやはり椎茸が詰め込まれていた。何度見ても不気味である。忍者か、お前。
秋心ちゃんも若干ひいている。それは弁当に対してか、それとも洞下に対してだろうか……。
「もしよければ二人っきりで理由を説明したいんだけど、ダメかな?」
目が輝きまくってレーザー出してるみたいだぞ、洞下。
秋心ちゃんは不安そうに俺を見る。
いや、無理しなくて良いと思うよ。椎茸の理由は気になるけど、それ以上になんか危険な香りがプンプンする。
「……わかりました。放課後、オカルト研究部の部室でお待ちしてます」
おぉ、これぞオカ研魂。自らを犠牲にしてでも不思議の究明に尽力する秋心ちゃんに感服しまする!
俺も見習わなくちゃなぁ。
「やった! 二人きりでね!」
めちゃくちゃ嬉しそう。俺、最近はそんなに喜んだ覚えがないな。秋心ちゃんと話すだけで幸せなら俺は毎日幸福感でいっぱいなはずなんだけど、実感がわかないのはどうしてでしょう?
まぁ、幸せは人それぞれだし、洞下が幸せならそれでいいんじゃなかろうか。
それにしても、こいつと秋心ちゃんを二人きりにするのは心配である。
俺、秋心ちゃんのお母さんと言うよりもむしろ、今はお父さん的な立場だな。
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