恋の紙飛行機の噂(解明編)


 なんだかこうしてると悪い事をしている気分になるな。だって人の恋路を覗き見しているわけだから。

 ただ今の開票速報。

 木霊木さん二票。(流石天使)

 斎藤一票。(誰?)

 鈴木一票。(誰?)

 福原一票。(バレー部の男子。死んでしまえば良いのに)

 秋心ちゃん四票。

 他、解読不能多数。

 ……なんで君こんなモテるの? 分けてよ、一票分だけで良いから。俺、その子のことめっちゃ大事にするから。いや、秋心ちゃんの名前を書くのは男だろ。そんなもんもらっても嬉しくないわ。

 あ、俺の名前が書いてある飛行機は一つもありませんでした。一応の報告です。


「結構このおまじないって盛んなんですね。こんなに沢山あるとは思いませんでした」


 高校生なんて恋愛したい真っ盛りだからなぁ。

 て言うか木霊木さんが飛ばした飛行機ってどれだったんだろう。僕、気になります!


「わかっちゃいたけど、収穫なしだな。帰ろうぜ」


 この紙飛行機の残骸達はどうしたら良いんだろ。このまま捨てとくのもゴミの放置みたいで目覚めが悪いし、かと言って回収するのも後味悪い気がする。

 よし、持って帰ろう! 駅のゴミ箱にでも丸めて捨てよう! 自然破壊反対! ゴミのポイ捨て禁止!

 別にここにある恋が成就しなくて良いなんてひねてくれてるわけじゃ無いです。


「それなら、多分これで説明がつきますよ」


 秋心ちゃんに手招きされて彼女の側に寄る。指差した先、池の底に石が沈んでいるのが見えた。


「ん? 何これ」


 石には文字が書かれているようだった。ただ、夕暮れの闇と揺れる水面でその文字まで読み取ることはできない。


「おそらく『対抗呪文』です」


「たいこうじゅもん?」


 何それ。


「オカルト研究部部長なのに何も知らないんですね。死ねば良いのに」


 無知は罪とは言うけれど、死刑になるほどの罪じゃ無いだろ。そんな悪いことしてないだろ俺。


「こういうおまじないにはそれを打ち消す方法が不可欠なんです。不幸の手紙は十人に遅れば不幸を回避できるでしょう? そんな感じです」


 ああ、口裂け女にあったらポマードって三回言うみたいなあれか。

 当時はポマードの意味を知らなかったなぁ。懐かしきおもひで。


「あの石『木霊木』って書いてあるでしょう? 推測ですが、ここにある石に名前を書いて池に沈めれば恋の紙飛行機の効果を打ち消すことができる……そう言うことじゃないでしょうか。

  もしもおまじないによる恋愛成就の確率を100パーセントだとしても、この石が沈んでいる限り、いくら木霊木さんの名前を書いて飛行機を飛ばしても結ばれることは無いですよ。

 あの木霊木さんって人が紙飛行機に書いたのと同じ名前が書かれた石が、この池に沈んでいるんじゃないですか?」


「なるほどねぇ。でも、なんか嫌だな。つまりはあの石を投げ入れた奴は人の恋路を邪魔してるわけだろ?」


「そうですね。

 それに紙飛行機をここまで飛ばすよりも容易です。

 まぁ、おまじないなんてそんなものですよ。こんなジンクスに頼るような人間の想いなんて、簡単に断ち切られてしまうって事です」


 なんか、ファンシーな気分でやって来たのに人間のドロドロした部分を見せられてしまった。

 おとぎ話の裏側を見てしまった様な気分だ。


「……実はですね、ひとつ先輩の名前が書かれた紙飛行機があったんです」


「えっ!? マジで!」


 秋心ちゃんからまだ薄く折り目の残った紙切れを手渡され、開いてみる。

 凄いドキドキした。高校の合格発表見に行った時のことを思い出した。


「うわホントだ! 嬉しすぎる! 早く教えてよ、この意地悪ちゃんめ!

 誰だろ誰だろ、これ飛ばしたの! ま、まさか木霊木さん……」


 小躍りしながら秋心ちゃんを見る。

 するりと手元から何かが落ちて、水面に波しぶきが上がった。


「あ、先輩見てください。あの石、先輩の名前が書いてありますよ」


 ごとりと底に沈んだ石には俺が見てもわかるくらい力強く、赤い文字で俺の名前が書かれている。

 俺は絶句した。


「ぎゃぁぁ! なんてことしてくれんだ!」


「あたしじゃないですよ」


「嘘吐けマジック握り締めてんじゃねぇか! それに『火澄先輩』なんて書くのお前しかいないだろ!」


 俺の恋が終わった瞬間であった。

 憎々しく笑う我が後輩秋心ちゃんは、言わずもがなやっぱり悪魔であったのだ。



おわり

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