恋の紙飛行機の噂(調査編)


「うわぁ、思ってたより全然でかいな」


 秋心ちゃんと二人で件の神社にやって参りました。夕陽も傾きかけて何処と無く神秘的な何某が助長されてるっぽい。水面は紅くキラキラと揺れている。


「この場所から向こう岸まで紙飛行機を飛ばすのって、なかなか難しそうですね」


 確かに対岸まで30メートルはあろうか、この距離を飛ぶ紙飛行機は稀代の紙飛行機職人でないと折れそうにない。

 見事成功させたと言う木霊木さんの意外な折り紙センスに脱帽である。


「簡単にできる事ならおまじないにならないからなぁ」


「ちょっと試してみましょう。先輩、特別に紙飛行機にあたしの名前を書くことを許可します」


 や、やだよ! もしも向こうまで飛んじゃったらどうすんのさ! 考えただけで背筋震えちゃう。この子と付き合ったら体と精神もたないよ。


「何をためらっているんですか。ただのおまじないですよ?」


 いつの間に用意したんだ、赤いマジックとその紙は。


「秋心ちゃんは信じてないの?」


「正直、かなり馬鹿にしています。くだらないです。あの恋愛脳の人なんかは、こう言うの好きなんでしょうけれど」


 第一印象から気付いてました! 秋心ちゃん、木霊木こだまぎさんのこと嫌いだよね?

 伝わるわぁ、何も言わなくてもその感情ビンビン伝わってるけど、確証得ちゃったなぁ。

 でも決めてるんだ、この後輩ちゃんの悪意は全部俺が受け止めるって。他所に振り撒いたら危険極まりないからね。


「よ、よーし! 調査開始だ!」


 とりあえず対岸まで池に沿って歩く。

 足元に気を付けなよと言おうとしたその刹那、すっ転んでしまったので言いそびれてしまった。


「そもそも、わざわざうちまで相談に来るなんておかしいですよ。叶わなければ叶わないで、そんなものだと諦めれば良いのに」


 いや、転んだことに触れてよ。無視されるのが一番恥ずかしいよ。

 恥ずかしさを隠す為、立ち上がりながら決めゼリフ。


「……それだけどうしても叶えたい恋なのさ」


「先輩に恋を語られたくないです」


 ぐぬぬ。


「……あの人、何か別の目的があったんじゃないですかね?」


「例えば?」


「知りません」


 なら言うな。

 辿り着いた先は人の手入れがなく鬱蒼としていた。樹木をかき分けゴロゴロと石の散らばった岸に進む。

 ところどころに紙片が散らばっていた。おそらく誰かが飛ばした紙飛行機が雨風で風化してしまったのだろう。その中でも原形をとどめた比較的新しいものを拾い上げ、折り目を解いてみた。


「うわ……これ、秋心ちゃんの名前が書いてある」


「モテる女は辛いですね」


 見たくなかったこんな現実。

 いつに増してドヤ顔がしゃらくさい。

 秋心ちゃんも紙を拾っては中を確認していた。


「俺の名前が書いてある紙飛行機ない?」


「あるわけないでしょう。あったとしても池に捨ててやりますよ」


 なんでそんなひどいことするの?


「木霊木さんの名前が書いてあるものなら見つけました。あんなお花畑な人のどこが良いんでしょう? 見た目が良ければそれで良いんですかね」


 それ、君に告白してきた人にも同じこと言ってあげたら良いと思う。


「あんまり木霊木さんを悪く言ったらいかんよ。あの人めっちゃモテるんだから。

 俺が許しても二年の男達が黙っちゃいないぜ」


「良かった、先輩は許してくれるんですね。でも安心してください。あたしのファンクラブの面々がなんとかしてくれますから。先輩なんかよりよっぽど頼りになります」


 何そのクラブ。それこそ悪魔崇拝じゃんか。

 サタニズム集団が俺の高校に存在するのだとしたら非常に怖い。


「なんなら、先輩も加入しても良いですよ。会費頂きますけど」


「金取んのかよ。絶対入らん」


「勿論他の人からは取ってません、非公式団体ですし。先輩はあたしの公認を得るのだからお金を払って当然です。先輩だけ特別です、嬉しいでしょ?」


 なんの優待性も無い特別には全く心揺さぶられないなぁ。

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