廃墟の幽霊の噂(解明編)


 幽霊の正体見たり枯れ尾花って言うのを身に染みて体験した夜だった。

 再び秋心ちゃんをケツに乗っけて先ほど自転車を走らせた道を逆走する。

 ちょっと、腰に手を回すのやめてください、擽ったくて安定しないよ。


「まぁ、こんなもんだろなぁ。

 多分、幽霊を見たって言うみんながみんな、あのおっちゃんを幽霊だと勘違いしたんだろ。髪も長かったし」


「……まぁ大方そうなんでしょうけれど、なんだかあんまり納得できません」


 いつものように秋心ちゃんは不満そうである。

 俺はしがみつく彼女の細い腕と背中に僅かに当たる優しい(この言い方が俺の優しさを表している)感触にそれどころではないのだけれど。

 今日は秋心ちゃんとの距離(物理)がえらく近いなぁ。ちょうど日付が変わる頃だし、まさに密着二十四時である。


「いくら暗いからと言って、あの人を幽霊と見間違えるでしょうか?」


「さっきも言ったけど、髪長かったし、暗がりで幽霊が出るって思い込んでりゃそうみえるんじゃねぇの?

 だいたいすぐにみんな逃げ帰るって言ってたから、じっくり観察する暇なんてないだろうし」


 たとえ相手が幽霊じゃなくても、あのおっちゃんの身なりを見たらみんな逃げるだろうよ普通。


「ほんと、先輩って変なとこで肝がすわってますよね」


「肝試しだし、先輩としてカッチョいいところ見せてやろうと思って」


 まぁ、内心ブルブルなんですけどね。


「でもやっぱり、あたし納得できないんです。みんな『若い女の幽霊』を見たって言うんですよ。あんな白髪交じりの人、見間違えてもせいぜい老婆でしょう?」


「そう言うもんなの! 人間ってそう言うもんなの! あのおっちゃんが幽霊だったの!」


「力技で締めようとするのやめてください」


 言葉に詰まったら暴力に訴える秋心ちゃんよりマシだろ。

 しばらくそのまま自転車を漕いだ。秋心ちゃんがくっついている背中だけ汗がじっとりと滲んでなんとなく恥ずかしい。男子高校生って結構繊細で気にしぃなのよ?


「『幽霊の正体見たり枯れ尾花』ですね……」


 それ、冒頭でもう言ったよ。モノローグでだけど。

 まぁあれだ、今日は秋心ちゃんの可愛いとこも見れたし良しとしよう。明日からまた辛辣な後輩に戻るんだろうし、今だけしおらしくしてくれてればいいさ。

 ……ひとつ気になることと言えば、この館の噂話、さっき晩飯食いながら母親から聞いたんだよね、俺。

 母ちゃんの学生時代から流行ってた噂らしいから、ホームレスのおっさんがあそこに住み着くずいぶん前からある話なんだよなぁ。

 まぁ、考えても仕方ないけどさ。

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