第29話永遠の道

「カレン!」

 エルはクレイクによって半壊したブレイブのコックピットに近寄る。

「たい……ちょう。すみません」

 コックピット内ではカレンが頭に血を流しながら呻いていた。

 命に別状がないと判断するとエルは

安堵した。

「待ってろ。俺が片付けてくるから」

エルはロケットランチャーを担いでクレイクと対峙した。

「む、無茶です隊長!」

 後ろからカレンの声が聞こえてくる。エルは振り返りざま親指を突き上げた。

「任せなってすぐに全部終わらせやるからよ」

 エルはクレイクに向き直った。

 クレイクは最後のバリケードへと攻撃している真っ最中だった。

「姫様! この私がお相手します!」

 エルは引き金を引いて弾頭を射出させ、クレイクの右手首に直撃させる。

 エルの存在に気付いたのかクレイクがエルの方に振り返った。

「姫様! 慈愛に満ちていたあなたがどうしてこんなことをするのか知りません! ですが王国の命を脅かすのであればエルドラの民として私は許しません!」

 クレイクの動きが止まった。その代わりに外部スピーカーから弱々しいネロの声が聞こえてくる。

「エル……ドラ……」

 エルは好機だと感じ、声を掛け続ける。

「そうです! あの懐かしき我らのエルドラです。思い出してください!」

「エル……ドラ……。うぅぅぅ」

 ネロの呻く声が聞こえる。エルは続けて声を掛けようとした途端ネロの獣じみた咆哮辺り一面に轟く。

「うわあああぁぁ!」

 ネロの咆哮と同時にクレイクの装甲の隙間からとてつもない緑の光が迸った。翼型のスラスターが展開。頭部には羊の様な角が現れ、顎が開いた。

 まるで龍人の様な姿だった。全てを破壊しようとする感じが否応なく伝わってくる。

 クレイクはネロの咆哮に合わせるように煙を吐きながら吠える。

「グオォォォ!」

 エルは背中から冷や汗を感じつつも対峙し続けた。

「あの時と同じだ。隊長の時と同じです! 早く逃げてください。あんなものに勝てるわけないんですよ!」

 カレンが叫んだ。しかしエルは笑っている。

「勝てないなんて言うから勝てないんだよ。勝てると思ったら勝てるんだよ!」

 エルの言葉と同時に空から青い光りを纏わせた何かがこちらに向かってきた。

「待ってたぜ。相棒」

 エルの元にロードが下りてきた。

「隊長! 乗ってください!」

 コックピットから簡易梯子が出され、急いで上るエル。

 ハッチを閉めるとイレイが操縦席にv乗っているのに気づくエル。

「イレイ、お前が操縦してたのか?」

「はい。でも体に異常はなかったですよ」

 イレイと操縦席を変わるとエルは腕輪を装着した。

 右腕はいつも通り赤く光っているのだが、不思議と以前の様な吐き気が全くなく、怒りや焦りがこみ上げることも無かった。

 イレイの方に向かってお礼を言おうと振り向いた。しかし複座に座っているイレイは落ち込んでいるかのように俯いている。

「隊長。そのすみません。怒ってしまって」

「俺も悪かった。隠し事してしまっ――」

コックピットが大きく揺れた。

「く、相変わらず姫様はせっかちなんだから」

 エルは操縦桿を握った。

「隊長。その……」

「大丈夫だ。俺は絶対に死なない。生きてまたいつもの生活に戻ってやるんだ」

 イレイの言おうとしたことをエルが先に言った。

 イレイは微笑を浮かべコンソールを展開させる。

「はい、生きて帰りましょう」

「ああ、生きて帰るぞ!」

 エルはイレイと軽く打ち付け合い誓いを結ぶとクレイクと対峙した。

「さぁ、姫様。いつでも来てください」

 エルの挑発に乗ったのかクレイクが突っ込んできた。

 エルはロードを旋回させ、クレイクの攻撃を避けると翼型スラスターを掴んだ。

「砕けろ!」

 ロードの出力を限界まで上げ、スラスターを壊そうとしてもびくともしなかった。

 クレイクはスラスターの推力を利用して猛回転をしてロードを振り落とした。

地面を何度も転がりまわり、真っ白な装甲を泥だらけにしていく。

 操縦桿を後ろに倒しロードを起き上がらせていると後ろからイレイの焦燥感漂わせる声が聞こえてくる。

「隊長! グリムが多数こちらに接近してきます!」

 イレイの言葉にエルは防衛網が突破したことを理解し、額から冷ややかな汗が一筋流れ落ちる。

「隊長。まだいけますか?」

 イレイはこんな状況でも絶望することも無く、自信気に聞いてきた。

 イレイの希望に満ちた言葉を聞いてエルは大きく笑みを浮かべていた。

 勝算なんかない。だけどエルには勝つ自信があった。

「当たり前だろ。俺を誰だと思ってやがる」

 エルは目の前から押し寄せてくるフロウの大部隊を見て操縦桿を握る。

「隊長。私も行きます」

 隣からカレンの声が聞こえ、サブカメラを確認すると半壊したブレイブがロイドの対物ライフル片手に立っていた。

「カレン。無理はするなよ」

「大丈夫ですよ。隊長みたいに無茶をするような人じゃないので」

 カレンの乗るブレイブは片手に持っている対物ライフルを見せてくる。

「軍曹と共に援護します。だから遠慮なく行ってください」

「分かった。背中は任せるぜ」

 敵は後方にDK砲を持ったグリムが小部隊で並んでおり、戦闘にはクレイクと手斧や鉈を持ったグリムが多数見える。

 絶望的だった。数百のグリムに対して二機で挑むのだから死にに行くようなものだ。勝てるはずがない。

 しかしエルは諦めなかった。ネロを救うために、そしてイレイを守るために彼(ロリコン)は戦場に立ち続ける。

「俺ら01小隊の底力見せてやんぞ!」

 エルの掛け声と共にカレンのブレイブが動き出す。

「グォォォ!」

 敵も同じようにクレイクの咆哮と共にグリムが動き出していった。

グリムの後方部隊からDK砲による青白い光が幾多も輝き、無数の光の軌跡を生み出していく。

 エルとカレンは回避行動をとるも全部は避けきれず、ブレイブとロードの装甲にダメージを負ってしまう。

「ロードにダメージ! 出力低下!」

 イレイの報告にエルは歯噛みしつつも前へと進む。

「イレイ、スラスター全部限界まで出力を上げろ! 一気に突っ込む!」

 エルの指示にイレイはコンソールを動かしてスラスターの出力を上げていく。

 ロードのスラスターは唸りを上げて推力を上げていく。

 青い光の筋を生み出しながらグリムの部隊に近付くその姿はまるで青い彗星に見える。

 ロードの前にクレイクが立ち塞がるもエルは止まることを止めない。

「うおおぉぉ!」

 ロードとクレイクが衝突。お互いのスラスターが唸りを上げて辺り一帯に響かせる。

 力勝負はクレイクが勝ってしまった。ロードはクレイクに止められてしまい、そのまま地面にたたきつけられた。

「隊長! 援護します!」

 横からカレンが対物ライフルをクレイクに撃つも全く動じた様子はない。

 代わりに動いたのはグリムだった。後方部隊も合わさった超大部隊でファーストとカレンのブレイブに向かって走って行く。

そして真正面にはクレイクの姿。地面に落ちていたチェーンソーを持って今まさにこちらに振り下ろそうとしている。

絶体絶命、エルの脳裏にはそれしか考えられなかった。

「絶対に諦めてたまるか!」

 エルは思考を取っ払い、ロードを動かしてチェーンソーを振り下ろすクレイクの腕を掴んで難を逃れた。

 エルは脂汗を流しながら歯を食いしばった。

「俺が死んでイレイと姫様が泣く姿を空の上から俺は見たくない!」

「隊長……」

 エルは叫んだ。心の中にある闇を全て吐き出す様に思いを全て吐き出した。

「これ以上二人に涙を流させたくない!」

 エルの叫びと同時にロードが青い光りに包まれた。

 クレイクは突然の出来事に驚いてロードの手を振り払い引いた。

エルは好機を逃すことなくロードを立ち上がらせる。

「な、なに!?」

 イレイが急いでコンソールを確認していく。

「もしかしてこれが覚醒……」

 ロードの変化に合わせてエルの右腕にある亀裂が赤から青に変わっていった。

「これなら、行ける!」

 ロードの顎が開かれ、籠った熱を煙と共に吐き出していく。

「支配者ではなく、俺らの突っ走る道の為に力を貸してくれロード!」

 エルの思いにこたえるようにロードは機械じみた咆哮を轟かせる。

「グォォォ!」

 ロードの頭部に取り付けてあるアンテナが伸びてまるで角の様に見える。

そして次に翼型スラスターが展開され、青い炎を巻き上げていた。

その姿はクレイクと同様竜人の様に見えた。

覚醒したおかげでロードに取り付けられていた武装が次々と解除されていく通知がエルとイレイのコンソールに表示される。

「隊長。サポートは任せてください」

「ああ、任せるぜ相棒」

 エルは頼もしい相棒の声を聞き、笑みを浮かべた後、操縦桿を強く握り直し、ロードを旋回させると飛翔した。

 カレンは今まさにグリムに囲まれており、バリケードも半分近く壊されていた。

「させるかよ!」

 ロードが地面に着地し、壁を破壊するグリム二機に向かって両手を向ける。

「ほら、俺の萌えだ。受け取れ!」

 ロードの掌から青い光りが放出し、二機のグリムは胴体を消し飛ばされてしまい、動きを止めた。

「どうやら俺の萌えに体を焦がしてしまったようだ。何とも情けない」

「冗談を言っている場合ですか! 後ろからクレイク接近!」

 クレイクがロードに向かってチェーンソーを振ってきた。

 しかし、その場にはすでにロードはいない。

「どこを見ているのですか姫様!」

 ロードは空からカレンを囲んでいるグリムに向かって標準を合わせた。

「貴様らもいい加減カレンを虐めるな!」

 ロードの的確な熱光線に焼かれるグリム。

「助かりました隊長」

「気にすんな」

 地面に着陸すると後方からDK砲を構えるグリムを発見する。

「イレイ。腕部装甲展開」

 エルの指示でイレイはロードの腕部の装甲を展開させる。

「エタニティブラスター・ワイドレンジ!」

 ロードの腕部から小さな砲門が横に展開され、熱光線が広範囲に放たれた。

 グリムはロードに向かってDK砲を発射するも銃弾は光線によって溶解していく。

 ロードが腕部装甲を閉じるとチェーンソー片手に猛接近してくるクレイクを見つける。

「ガアァァ!」

 クレイクが斬りつけようとするもロードはそれを避け、蹴り飛ばした。

 後ろに吹き飛んで、何回も地面を転がりまわりやっと止まったクレイクの元に歩み寄ると手足の関節に向けて熱光線を浴びせる。

「お姫様はここで待っててください」

 エルはグリムの部隊を探した。

 崖の近くに撤退していくグリムの部隊を見かける。

「イレイ、大技を使う。準備をしてくれ」

「了解です。体には気を付けてくださいね」

 イレイに了承を得たエルは外部スピーカーの音量を最大まで上げた。

「野郎ども! 今すぐそこから離れないとお空の上に行くことになるからブレイブを放棄して離れろ!」

 エルの警告を聞いた隊員は揃ってブレイブを捨てて全力でけが人を背負って逃げていく。

 警告し終えるとさっそくエルは指の骨を鳴らしてから深呼吸をする。

「脚部関節ロック。並びに脚部パイルバンカー発射、地面と固定完了。FPSのエネルギーをスラスターと腕部に集中。腕部ブラスター充填開始」

 ロードの掌に青い粒子が集まっていく。

「さぁ、準備はいいかフロウども」

 もはやメインカメラにはグリムは映っていない。しかしエルには関係なかった。たとえ遠くにいようがこの大技が本当ならどんなところにいようと直撃なのだから。

「翼型スラスター最大出力。行けます隊長!」

「おっしゃ! あの誘拐ド変態ロリコン野郎どもに一発喰らわしてやれロード!」

 ロードの翼型スラスターから今まで見たことも無い様な青い炎を噴き出す。

「エタニティ・ブラスター最大出力!」

 ロードの掌から全てを青に染め上げるのではと思う程の熱光線が放たれた。

 前と後ろからの衝撃にコックピット内から軋む音が聞こえてくるもエルとイレイは気にしていなかった。

「もっとだ。もっと力を出せロード!」

「私たちの道を作ってロード!」

 二人の操縦者の声が届いたのかロードから放たれる超極太熱光線はさらに勢いを増大させていく。まるで永遠に先が続く道の様に青い熱光線は彼方まで伸びていた。

熱光線は徐々に勢いを弱らませていき、完全に止まるとそこには崖は跡形もなく消えており、ただ綺麗に黒くなった地面が目の前に広がるだけだった。

ロードは体中から煙を上げており、機能を全停止していた。

「はぁ、はぁ。疲れた」

 エルは椅子にもたれ掛かり、汗を拭っているとクビにかかっているロケットを見た。

「まだ仕事は終わってないな。最後に大事なことをやらなければな」

 エルはレバーを引いてハッチを開くとコックピットから外に出た。

 涼しい風が吹き、火照った体を冷やしてくれる。

 エルはイレイに向かって手を差しだした。

「外の方が涼しいぞ」

 エルの手を握ったイレイはコックピットから出て、風邪になびく髪を手で抑える。

「気持ちいい。あんな激闘が嘘みたい」

 イレイの絵になる様な姿に写真に納めたかったが今は我慢をする。

「隊長? どこに行くのですか?」

「最後にやることがあるんだ」

 エルはロードから飛び降りるとクレイクの元に向かって歩いてきた。

「隊長! 危険です」

「大丈夫だ。死にはしない」

 イレイに親指を突き上げる。

 イレイはため息を吐くとエルの近くに歩み寄ってくる。

「最高のパートナーを置いておくなんて失礼じゃないんですか?」

「……そうだな。最高の相棒を置いておくなんて俺はどうかしてる」

 エルは一瞬呆然としながらもすぐに微笑んでイレイとともにクレイクのコックピットに向かって行く。

 コックピットに近付き、強制ハッチ解放レバーを引くとハッチがゆっくりと開いていく。

 操縦席に座る小柄な少女。フルフェイスで 顔は見えないものの、紫色のパイロットスーツから大量に伸びているコードを見てエルは悲壮感を漂わせつつも少女のヘルメットに手を添えてゆっくりと外した。

 そこにはエルドラ民を思わせる黒髪、数年前は綺麗な顔立ちも今は痩せこけており、目には光が灯っていない。

「姫様。迎えに来ましたよ」

エルが手を差しだすとネロは腰からダガーを取り出してエルの心臓目掛けて突き刺そうとする。

「隊長!」

 イレイは急いでエルを庇おうとするもエルは片手で制した。

 ネロの持つダガーはエルの右手によって抑えられ、ネロが何度も動かそうとしてもびくともしなかった。

「辛かったですよね。苦しかったですよね。悲しかったですよね。でももうこれ以上は痛い思いをしなくても大丈夫ですよ」

「痛い……ない?」

 ネロがエルの方に顔を向ける。

「泣い……てる」

 ネロに言われてエルは自分の頬に触った。

 いつの間にか自分が涙を流していたことに気付き、軍服で何度も拭うも涙は止まらない。

「姫様、忘れ物。今渡しておきますね」

 エルは自分の首に掛けられていたロケットをネロの首にかけた。

「これ……」

 ネロはロケットの蓋を開けた。

 それを見たネロは体を震わせながらも涙を流し始める。

「あ、ああ。あああぁぁぁぁ!」

 ネロはエルに抱き着いた。

 エルはネロの頭をゆっくりと撫でながら涙を流した。

「さぁ、帰りましょうか」

 エルの言葉にネロは何度も泣きながら頷いていた。

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