第28話最愛の元へ
エルが交戦している中、イレイはロードの最終調整をしていた。
「よし後はこれを外せば」
イレイがコンソールを動かしてマシンアームを使って一つのパーツを取り出す。
イレイが一息吐いていると外が騒ぎ始めた。
ドアを思い切り開かれ、中からドグマと黒服の男が数人入ってくる。
「まったく気持ちよくファーストの激戦を見ていたら。ロードから信号が出ているじゃないか。来てみれば何を勝手なことをしているんだね?」
ドグマはイレイを睨み付けていた。
「とりあえずこの実験体は処分確定だな。どうやって私のデータを盗んだかは知らないが、今となってはすごくどうでもいい」
ドグマが黒服に合図すると黒服たちは血まみれになった初老の男を連れてきた。
「おじさん!」
イレイが声を掛けると男は弱々しく微笑んだ。
「おじさんか。もうそんな年なんだよな。全く嫌になるぜ」
ドグマは男の元に近付き、鳩尾に穂節を入れる。
「ぐふっ!」
「うるさいぞ実験体の癖に生意気なんだよ」
ドグマはイレイの方に振り返った。
「さぁイレイ。今すぐ元に戻すんだ。今なら暴力で許してやろう」
ドグマは笑顔でイレイに近寄ってくる。
「い、いや。来ないで!」
イレイは怯えながら後ずさりしていた。
「さぁ、イレイ・早く私の元においで」
ドグマが手を差しだす。
イレイが恐怖に顔を歪ませていると男の方から物音が響き渡る。
イレイがそちらを見ると男が息を荒げながらも黒服を殴り飛ばしていた。
「うおぉぉ!」
男がドグマにつかみかかる。
「早く行け! そしてあの若造にロードを渡すんだ!」
「この、実験体がぁ!」
ドグマが懐から拳銃を取り出して男に何発か発砲する。
幸いな事に銃弾は男の変異した皮膚のお陰で急所を外すもところどころに血が噴き出していく。
「おじさん……」
「早く行けっつってんだろうが!」
男の殺気を感じさせる怒声にイレイは急いで部屋を出て階段を下りた。
後ろから何発も銃声が聞こえるもイレイは振り返らずロードのコックピットに向かって走って行く。
簡易リフトでロードのコックピットに乗り込むとハッチを閉めた。
「無駄だよイレイ。君にはこのロードを動かすことはできない」
外からドグマの声が聞こえる。イレイは無視して腕輪を装着した。
「お願いロード。動いて」
ロードは動かない。イレイが何度も操縦桿を動かすもロードは身動きしない。
「早く降りておいで?」
ドグマの声がする。
怖い。今ロードから降りると必ず残虐な手を使って殺される。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
――大丈夫。俺がいる。
イレイはエルの言葉を聞いた気がした。
大切な人。信頼できる人。そして――。
「私の好きな人」
イレイは大きく深呼吸するとエルのことを思った。
最初に会った時から最後に別れた時までいい思い出や辛い思い出がある。イレイはそんな思い出を心に満たしていった。
――胸が痛い。でも今はそれが心地いい。
イレイは操縦桿を握った。そして自分の思いをぶつけるように叫んだ。
「私を隊長の所に連れて行ってロード!」
ロードのアイカメラが青く光った。それと同時にコックピット内の電源が付き始める。
「何ぃ!」
ドグマが驚いた声を出していた。
しかし今のイレイには聞こえてなかった。全てエルの思い出に包まれている。
イレイは後ろのコンソールを弄ってスラスターを点火させる。
「行くよロード!」
イレイの言葉を聞いたようにロードは上に向かって上昇していく。
「やめろ! ロードを今すぐ止めろ!」
ドグマがロードの足にしがみついた。
イレイはそんなことをお構いなしに植えに向かってロードを飛ばす。
しかし、天井の射出門は閉じられている。
「こんなもの! ぶっ壊す!」
ロードは拳を作って射出門を破壊して外に出た。
下を見ると兵器開発局が鎮座してある。
「こんなものがあるから!」
イレイはロードのスラスターから出る推力を弱めた。
「お、おいおい。やめろぉぉ!」
ドグマの声を聞かずロードは開発局を踏み潰した。
「この、この、この!」
イレイがロードを使って開発局を踏み潰していく。
「うわああぁぁぁ!」
足踏みの衝撃でドグマは手を離してしまい、落ちてしまう。
ドグマが落ちていくのはイレイにとってはどうでもよかった。とにかく嫌な思い出を作った開発局を破壊したかったのだ。
「よし、今行きます隊長!」
十分破壊し終えるとイレイはスラスターを点火させ、ファーストに向けてロードを飛ばした。
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