第26話希望の力

「せっかくここまで来たのに。ここだけセキュリティが強くて外せない」

 イレイは格納庫で悪戦苦闘していた。

 この短時間で大技の大幅な改変を終え、後は結晶化を促すプログラムの変更だけだった。

「諦めちゃ駄目。これさえ何とかすればいいんだから」

 イレイが自分の頬を強く叩き、気合を入れ直すとコンソールに向かった。

「だいぶ無理してんな娘」

 格納庫の入り口から越えがして振り向くと初老の男が立っていた。

「あなたは……」

 男はスーツのポケットから一枚のデータディスクを取り出した。

「これが何だかわかるか?」

「いいえ」

「これは所長が試作機につけたロックを全て解除するデータが入ってある」

 イレイは驚いた。どこでそれをと言おうとした途端に男が話しかける。

「お前はまたあの若造を支配者に乗せようとするのか?」

 男に言われてイレイは言葉が詰まった。

「確かに所長が取り付けたパーツさえ取り除けば結晶化も止まるだろう。しかし、お前はそれでいいのか? 若造がそいつに乗り込んで死んでもすればどうするつもりなんだ?」

 男の言葉にイレイは黙り込んでしまう。

「……無言か。そんな度胸でよくあんな若造にこいつを渡そうと思えるな」

 男はディスクを持って部屋を出ようとする。

「邪魔したな。まぁ頑張れよ」

「……隊長は」

 イレイは格納庫から出ようとする男に自分の思いをぶつける。

「隊長は自分の命すら守れない単細胞のど変態です! でもあの人は他人を守るために力を欲しているんです。なら私は隊長のパートナーとしてあの人の力になりたい!」

「それで若造が死んでもか?」

「隊長が死ぬときは一緒に乗っている私も死にます」

 イレイの言葉に目を丸くする男。

「お前、ロードの複座席に乗っているのか」

「そうですよ! 怖がりながらも乗っているんです。隊長の力になれるならどこにだってついていきます!」

 イレイはありったけの本心をぶつけた。

 それを聞いた男は殺意を向けてくる。

「ほう。つまりお前は若造が死ぬんなら一緒に死ぬんだな」

怖かった。ドグマとは違う純粋な殺意。殺されると脳が危険信号を出していてもなおイレイはその場に立って男を睨み返す。

 しばし、男を睨んでいると急に殺意が無くなった。

 そして男はデータディスクをイレイに投げ渡した。

「早くやりな。おまえの覚悟は十分に分かった。全く若い奴らは何でこう反発するのか俺にはさっぱりだ」

 男はやれやれと言わんばかりに首を振る。

「ありがとうございます。えっと……」

「俺は……死地の入り口を守る元最高責任者だった男でも覚えておけばいい」

 男は扉を開けた。そして何かを思い出したかのようにイレイの方に振り向いた。

「急いだほうがいいぞ。今ファーストはフロウの大部隊と交戦している。ここの入り口は俺が見張ってるからよ」

 男の言葉にイレイは衝撃を受けた。

「本当ですか!」

「ああ、つい先ほど局長がそう言っていたから確かだろう。だから早くしろ。俺が警護するとしてもあまり時間は稼げないぞ」

イレイは小さく頷き、ディスクを挿入した。

――待っていてください。急いでロードを届けますから。

 イレイは焦る気持ちを抑えつつ、コンソールを叩き始めた。

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