第24話最悪の力
何も事情を知らないイレイはロードの格納庫に向かい、コンソールを起動させる。
「ロードの武装? 新しくあの人が作ったの? ここに置いてあるってことは装着させてもいいはず」
「新しい武装とFPSに付けられた悪いものを早く取り除かないと」
イレイがコンソールを動かしてマシンアームを動かしながらロードの装甲を外していく。
フレームだけとなったロードに完成した武装を取り付け始める。
武装を取り付け終わると額に浮かんだ汗を拭い、ロードの複部辺りに設置されている丸い球体を睨み付けた。
「後はFPSを何とかすれば」
イレイは自分の頬を叩き、気合を入れ直すとコンソールに向かった。
「あ、あはは。あははははは!」
突然格納庫の外からドグマの笑い声が聞こえて来た。
イレイが無視してコンソールを操作していると「素晴らしい。まさかクレイクが覚醒しているなんて」と声が聞こえて来た。
イレイは気になってドグマのいる研究所に向かって行った。
ドアを二回ノックすると「誰だね」とドア越しから明らかに不機嫌そうなドグマの声が聞こえてくる。
「イレイです。入ってもよろしいですか?」
「おお、イレイか。入ってきなさい」
ドグマの許可を得るとイレイはそっとドアを開けて中に入った。
「つい先ほどハッキングして情報を漁っていたのだがね、面白いデータがファーストに会ったのだよ」
ドグマはそう言ってコンソールを操作してスクリーンに映像を流した。
そこには覚醒したクレイクが大部隊を連れて前進している映像が流れる。
「何……この大部隊」
「間違いなくエモンに近付いてるな。困った困った。実に困った」
ドグマは他人事のように頭を掻きながら映像を止めるとコンソールを動かし始める。
「それよりもクレイクの覚醒だ。フロウの糞野郎どもに盗まれたのは癪だが、無事に覚醒出来て私は嬉しいよ」
ドグマは興奮しきった様子でコンソールを目に留まらぬ速さで動かしていく。
「機体がエモン鉱石のエネルギーに耐えられないからわざわざ元の姿を封印したわけだが、中々封印を解いて覚醒させるまでの人物がいなくて諦めかけていたのに、まさか覚醒させる人物がフロウにいたとは思いもしなかった」
ドグマはコンソールを動かす手を止めるとイレイの方に向き直った。
「しかし、いくらクレイクが覚醒したからって今エモンが滅ぼされると私はひっじょ――――――に困るのだよ。正直エモンがどうなろうと構わん。どうせ出世すれば権限を増やしてくれるからな。同じ制度を取ってくれるならフロウだろうが何だろうが身を置いてやる。しかし今はエモンの人間だ。エモンが壊滅するとはすなわち私の研究所も破壊されると同じ事。ならば最善の手で排除するのみだ」
「どうするのです」
イレイは聞いた。帰ってくる答えはどれも最悪な答えばかりだが、状況的に考えて聞かずにはいられなかった。
「簡単な話さ。ロードの近くに置いてあった武装はどうしたのかね?」
「取り付けました」
「よし。ならロードにこのデータを入れておいてくれ」
ドグマはそう言ってイレイにデータディスクを差し出してきた。
「これは?」
「ロードに隠した大技を開放するデータだ」
「お断りします」
イレイはドグマの机にディスクを置いた。
普通だったらこの場で憤怒し、暴力をするはずが、なぜかドグマは怪しげな笑みを浮かべているだけだった。
「何がおかしいのです」
イレイの睨み付けに臆することなく余裕アル笑みを浮かべるドグマ。
「いや、いいのかなって。恐らくこいつを使わないとファーストの連中が皆殺しにされると思うのだが、イレイはそれでもいいのかなって思っただけさ」
ドグマの言葉にイレイは歯噛みした。
「こいつは私でも恐ろしい。下手をすればエモンも破壊しかねんからな。私も苦渋な判断なのだよ」
ドグマはディスクをもう一度イレイに差し出した。
「さぁ、一人の命を取るか。もしくはパイロットと一緒に逃げて沢山の人を皆殺しにするか。選びたまえ。私はイレイの意見に従おうじゃないか」
大勢の命を取るか。それともエルの命を取るか。イレイに二つの苦渋な選択肢が迫られてしまう。
――そんなの選びようが……。
イレイは数分悩み続けた末、ディスクを受け取った。
「そうだよな。エモンの為なら一人ぐらいの犠牲は仕方ないもんな」
ドグマの言葉にイレイは「誰も死なせません」と断言した。
「何?」
「死なせません。私が何とかやって見せます」
ドグマは高らかに笑った。
「そうか。私に喧嘩を売るつもりだね。いいだろう。好きにしなさい」
イレイはディスクを持って部屋を出ると格納庫に向けて確固たる意志を持って歩き出す。
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