第21話謝罪そして別れ
一時間はたっただろう。隙間という隙間を根気よく探した結果。エルの隠してあるコレクションを全部見つけテーブルの上に並べていく。
「隊長。これで全部ですかね?」
「た、多分な……」
額から流れる汗を袖で拭い、辺りを見渡すとイレイのベッドの隙間に一冊の日記帳を見つけた。
「なんだこれ日記帳か?」
エルは日記帳を開いて流し読み進めた。
そこにはエルやロイドたちのことが鮮明に書かれており、読み進めるたびにどんな思いで接していたのかがわかってくる。
エルは最後のページを読んだ。
『今日はお父様がここに来られた。私は反抗したのだが、やはりお父様には勝てなかった。
でも隊長がお父様を追い払ってくれた。隊長は私にとって憧れだし、尊敬できる人(変態だけど)でもどこか私との間に遠慮がちな気がするからどうすればいいんだろう? 早く隊長と本当に信頼できるパートナーとしていたい。そのためにも頑張らなくちゃ』
日記を読み終えたエルは日記を閉じるとイレイのベッドにそっと置いた。
「隊長? どうかされましたか?」
エルは大きく息を吐くとドアを開けた。
「俺のせいでイレイを怒らせてしまったんだ。だから今から謝りに行ってくる」
カレンは一瞬呆然としながらもすぐに笑顔で「分かりました。ここは任せてください」と言ってくれた。
エルが部屋を出て急いで格納庫に向かうのだが、目の前からジュウゴが慌てて走ってくるのが見えた。
「どうしたんだよ親方? そんなに急いで」
「隊長大変だ!」
汗だくで肩で息をするジュウゴにエルはどこか不安を感じ始めている。
「落ち着けよ。何があった」
「い、イレイちゃんが連れて行かれた!」
ジュウゴの言葉にエルはジュウゴをその場に置いて格納庫に向かって走って行った。
「いや! 離して!」
エルが格納庫に着くと黒服の男たちにイレイが車に乗せられていくのが見えた。
その横ではロードを巨大なトレーラーに乗せて行っている。
「イレイ!」
エルはイレイに元に向かおうとすると一人の黒服を着た男に立ち塞がれてしまった。
「邪魔だぁ!」
エルの拳が男の顔面に直撃し、吹っ飛ばされていく。
「ぐっ。こんな時に侵食かよ」
エルは右腕から発せられる激痛に耐えながらもイレイの元に駆け寄ろうとする。
「隊長!」
「イレイ! 待ってろ。すぐに助ける」
エルがイレイを助ける為に立ち塞がる男たちに向かって殴りかかる。
「ふっ、若造が」
エルの拳が一人の初老の男に止められる。
細くて貧弱そうな体なのにエルの全力を込めた拳をいともたやすく受け止めてしまった。
「何!」
「殴るとはこういうことなんだよ」
男の拳がエルの脇腹に直撃する。
「くっ!」
エルは脇腹を抑えて後ろに引く。
まるで鉄球をぶつけられたかのではないかと思う程の重い拳だった。
――こいつ、俺よりも強い。
エルは相手の力量を把握してもなお諦めなかった。
「ふむ。どうやらただの青二才ではないようだ。面白い」
初老の男は上着を脱いでエルの前に立ち塞がった。
男の腕は人にしてはやけにごつごつしていた。まるで石でも纏っているのではと思わせる程袖越しからでもわかる。
「邪魔なんだよ! さっさとどきやがれ!」
エルは痛みに耐えながらも男に向かって走って行く。
「やはり青二才だったか」
男は腰を低くして拳を構えた。
エルは真っ直ぐ男の元に走り、拳を構えた。
男がエルに向かって拳を振う。
エルは男の拳を横に飛んで避けた。
「しまった」
「倍返しだ!」
エルは男の脇腹に蹴りを入れる。
しかし、手応えが全くなかった。遠慮なしに蹴りを入れたはずなのにまるで岩石を蹴っているような感触だった。
「ふん!」
男がエルに向かって肘を打ってきた。
「くそっ」
エルは避けれないと判断し、咄嗟に両腕で防御する。
その時の衝撃で右腕に巻かれていた包帯が緩んでしまった。
「ふむ。お前さんの右手、結晶化しているな。お前がロードのパイロットだったのか」
男はエルの右手を見て急に悲壮感を漂わせていた。
「だから何だよ。俺も連れて行くのか?」
「それもいいかもしれないな。だが今回の任務は娘とロードの回収だけだ。お前は連れて行けない。許してくれ」
男はエルの前でワイシャツを脱いだ。
そこには体のあちこちにエルと同じように体中の皮膚が石の様になっており、亀裂が入ってあった。
ただエルと違うのは亀裂の色が赤ではなく、緑色なのだ。
「なんだよそれ……」
イレイも初めて見たのか男の姿を見て絶句している。
「早く試作機と娘を局長の元に連れて行け。俺は後から行く」
男の指示で強引にイレイを車に乗せると走って行った。
「イレイ!」
エルが車を追いかけようとするも男によって塞がれてしまう。
「貴様ぁ! イレイをどこに連れて行く!」
エルは男に向かって拳を振うも片手で掴まれてしまう。
「少し俺の話を聞け。青二才」
男はエルを軽々とうつ伏せにすると腕を固定し、暴れるエルの足に男は座って足を絡ませて固定する。
「離せよ! この」
「落ち着け、別に娘を取って食おうとしているわけではない。ただロードを改良するだけなのだ」
エルは男の話を聞かず暴れまわる。
「うるせぇ! イレイをあんなキチガイの元に連れて行くわけにはいかないんだよ!」
男はため息を吐きつつ、体をのけぞらせる。
「やかましいわ!」
男はエルの後頭部に向かって思いっきり頭突きをした。
頭を揺さぶられる感覚になったエルは意識が持って行かれそうになる。
「落ち着いたか」
エルは体に力が入らないことに歯噛みしつつ、抗うことを止めた。
「それでいい。ロードのパイロット」
「お前、俺に何の用だよ。お前の目的はイレイとロードだけじゃないのか!?」
「落ち着け青二才。確かに俺の任務は娘とロードの回収だ。ここから先は俺個人で動いている。だから少しは付き合え」
男はそう言ってエルの右手をつついた。
「この右手どこまで進行が進んでいる?」
「右腕全部。多分さっきの喧嘩でさらに侵食したかもしれないけど。それが一体なんだよ」
「そうか。お前、これ以上試作機に乗るな。これは警告だ。命を落とすぞ」
そう言って男はエルの拘束を解いた。
エルはふらつきながらも立ち上がり、軽く埃をはたいた。
「どう言う事だよ」
「お前は試作機に拒絶されているんだよ。だからそんな呪いがついちまってんだ。これ以上乗ってみろ、呪いが悪化して死ぬぞ」
「死ぬことなんか怖くない! 仲間やロリの為なら――っ!」
エルが叫んでいる最中に男が全力で殴りかかってきた。
油断していたエルはもろ顔面に直撃し、軽く吹き飛ばされた。
「この大馬鹿野郎が! 何かっこつけてんだ。誰かのために死ぬ? ぬかしてんじゃねぇぞ! この青二才!」
男に胸ぐらをつかまれエルは無理やり立たされた。
「警告はしたからな」
男はエルを離すと落ちていた上着を手に持って格納庫から出て行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます