第17話局長との出会い
戦闘が終わるとブレイブとロードを格納庫に入庫し、負傷した隊員の治療と機体の修理に取り掛かった。
作業は翌日まで続き、ようやく一息つける状態まで復旧は出来ていた。
エルは無傷のため、足りない軍医の代わりに手伝うことにした。
「悪いなエル。恩に着るよ」
目の前で座る02小隊の隊長は悲観しながら俯いていた。
エルは包帯を巻き終えると道具を片付ける。
「構わないさ。ほら、応急処置は済ませたから後で軍医の方に見てくれ」
「ああ、そうするよ」
02小隊の隊長はエルに敬礼をするとそのまま基地の中に入っていった。
「ぐぅ!」
エルは右腕に釘を刺されたかのような激痛を感じて急いで物陰に隠れた。
軍服の袖をまくり上げるとそこには右腕全体にかけて石化しており、所々赤い光を放つ亀裂が入っていた。
「くそ、前よりもひどくなってる」
エルは石化した自分の肌を触りつつ、激痛に顔を歪ませる。
「何なんだよこれ。ロードに乗るたびにひどくなってやがる」
幸い右手にはあまり侵食されていないことにエルは安堵しつつも袖を元に戻して物陰から出ると見知らぬ黒い車を見つける。
中から出てきたのは白衣を来た貫禄のある男だった。
「確か、王国専属の兵器製造課の最高責任者の確かドグマ局長だったっけ」
男・ドグマが格納庫に入っていくのを見てエルはドグマのことが気になって、尾行した。
イレイが格納庫でロードの整備をしていた。
汗を拭って大きく息を吐きつつ、自分の頬を叩いてやる気を起こすと再度作業に戻る。
そこにこちらに向けて聞き慣れない靴音を聞いて振り返った。
「お、お父様! どうしてここに」
ドグマの存在に気付いたイレイは目を見開いて作業をする手を止めてしまう。
「やぁイレイ。会いたかったよ」
ドグマは微笑を浮かべながらイレイに近付いていく。
対してイレイはとても眉を寄せながらドグマを睨み付けていた。
「お父様。今日は何しに来たのですか。あいにく仕事中なのでご用件はまた後で伺います」
「おいおいそんなに邪険に扱わなくたっていいじゃないか。娘に会いに来るのは父親の務めだろう?」
ドグマはイレイの前に立つと思いっきり殴りつけた。
「今日の私は嬉しい半分で怒り半分だから手加減しておいたぞ。感謝しなさい」
ドグマはイレイの胸ぐらをつかみ、殺気立てながら睨み付けた。
「まずロードを使ってもクレイクを捉えることはできないとはどういうことかね。ロードのデータを見ると惜しいところまでいったらしいじゃないか。なのになぜ止めた!」
再度殴りつけた。唇を切ったらしく下に鉄臭い味がする。
「私は非常に残念だぞ。私とお前が作ったエターナル・クレイクを帝国フロウに奪われるなんて私は非情に残念である」
ドグマは倒れているイレイの傍に寄ると優しく頭を撫でた。
「でもよくやった。ロードの覚醒の片鱗を確認できたからね。さてロードのパイロットはどこかな?」
ドグマは一通り撫でると辺りを探し始めた。
「やはりあんな変なプログラムを入れたのはお父様だったのですね!」
「うん? そうだが不服かね?」
「当たり前です! あんなものパイロットの寿命を縮めているのと同じです!」
「当たり前じゃないか。お前があんな動力を作ったのだからそれを応用するのは当たり前だろう? あれらが完成すればDK砲の改良と試作機たちの量産をすれば私の出世も夢じゃないぞ!」
ドグマは格納庫に響き渡る程の大笑いをしたのち、急に真面目な顔でイレイを見下した。
「そもそもFPSの構造とエモン鉱石の流用を考えたのはお前だろう? 何をいまさら言っているんだ」
ドグマはイレイに向かって笑顔で拳を作る。
「お前、さっきから私に向かって反抗するんだな。これはお仕置きが必要だな。その場に立っていなさい」
イレイが目を瞑ってこらえようとするも一向に殴られる気配はない。
恐る恐る瞼を開くとドグマの拳を受け止めていたエルがいた。
「おいおっさん。何やってんだよ」
「おっさんだと! この私に向かっておっさんとは失礼だな! 君にもお仕置きが必要だな!」
ドグマの拳はエルに振るわれるもエルは軽々と避け、鳩尾に拳を入れる。
「がはッ!」
「どうだ痛いだろ。おっさん、お前がイレイにやろうとしていたことはこれなんだぞ」
ドグマは地面に膝をついて腹を抑える。
「くそ、調子に乗りやがって。今に見ていろ。絶対にお前を許さないからな」
ドグマは腹を抱えながら格納庫から逃げて行った。
「大丈夫かイレイ?」
「あ、はい。その、ありがとうございます」
エルが軍服のポケットから絆創膏やら消毒液等を取り出して来た。
「じっとしてろ」
エルは目先の距離まで接近してきて消毒を含ませた綿で傷を消毒する。
目先で作業をするエルを見てイレイは胸の奥底が何だか胸が締め付けられるような感覚になる。
――なにこれ。なんか心臓が痛いんだけど。
イレイがまじまじとエルを見ていると唇に絆創膏が貼られた。
「よし、後は傷が残らないことを祈るだけだな。せっかく可愛らしい唇に傷がついたら大惨事だからな」
エルが道具を片付けている。
なんだかエルの一つ一つの仕草に惹かれ、いつの間にか目で追う様になっている。
「ん? どうした? って顔真っ赤だぞ。何かあったのか?」
エルがイレイのおでこにそっと手を当てる。
エルが触るのと同時に心臓が飛び跳ねるような感覚になり、何を言っていいか頭も真っ白になってしまう。
「うーん。熱はなさそうだけど。なんか具合悪いか? ずっと寝てないんだし、早めに作業終わらせて寝たほうがいいかもしれいかもしれないな。若いうちに無理するとよくない」
エルが疑問を感じつつも首を傾げていた。
イレイは返答しようにもそれどころではない。頭が真っ白で思考停止しており、返したくとも返せない状態だった。
「隊長。そっとしてやりな。乙女には色々考えることがあるんだよ。それとさっきの件ありがとよ。俺らでは手が出せない相手だったからよ」
ジュウゴが何かを察したようにエルの肩を軽く叩く。
「あんなのどうってことない。困ってたらまた俺が助けに行くからな。それじゃ、俺作業に戻るからイレイも程々にしとけよ」
エルがそういうと格納庫から出て行った。
イレイは腰が抜けたように座り込み、真っ赤で火照っている顔を両手で覆う。
「ふはは。エルに目覚めるとはいい趣味している。お前らならお似合いだな」
ジュウゴの発言で体温が上昇していくのがイレイにはわかった。
「まぁ、イレイちゃんはちょっと休憩だな。昨日からぶっ通しで動いているからな。若いからって無理するのは体に良くないからな」
「わ、分かりました。お先に休憩入らせていただきます」
休憩を貰ったイレイはふらつきながらも日記帳を書くために部屋に戻った。
ペンを片手に日記帳を書いていく。
三十分以上かかり、やっとの思いで出来たのだが、エルのことしか思い浮かばず日記帳にも反映されていた。
「もぉ! 何でよ!」
イレイは日記帳を適当に投げた。
――何で隊長のことを思うだけで動悸が激しくなるのよ。
イレイは頭を抱えた。
頭を空っぽにしようとするもエルのことを考えてしまう。
最初に会った時から初め、今に至るまでのエルとの思い出が鮮明に蘇ってくる。
「何なのよこれ。何かの病気?」
イレイは訳が分からない謎の胸が苦しくなる病気に一人苦しんでいた。
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