第15話覚醒の片鱗

格納庫に着くとすでに02から06小隊のブレイブに乗り込んでいる姿が目に見えた。

 エルはイレイと共にコックピットに乗り込んだ。

 イレイに見つからない様に包帯を外し、腕輪を装着する。

 吐き気を感じるも前回の戦闘に比べ幾段ましだった。

「隊長。怪我の方は大丈夫なんですか?」

「おうよ! この通りぴんぴんだぜ!」

 エルはガッツポーズを見せて笑みを浮かべる。

 一瞬イレイは呆けたのだが、すぐに含み笑いをしだす。

「ふふ、いつもの隊長ですね。よかったです」

 エルは操縦桿を倒し、ロードを歩かせる。

  ロードの腰には急ごしらえで作った鉄剣が装備してあり光に反射して鈍く光っている。

――全部話さなければ。イレイの為にもそして自分の為にも。

 ロードが格納庫から出ると前方からグリムの部隊を目視できる距離まで接近していた。

「ロイドは後方で射撃。俺が前線で戦うからカレンは援護を頼む。お前らの守りたい奴らがこの先にいるんだ。絶対に守り抜くぞ!」

「「了解!」」

 インカム越しに部下の声を聞いてエルは心を落ち着かせた。

――落ち着け。また怒り狂って暴れたら溜まったもんじゃない。

 エルが深呼吸をしているとイレイが声を荒げた。

「敵部隊の中にクレイクのビーコン発です!」

「何!?」

 エルはメインカメラをまじまじと見つめる。

 しかし、夜のせいか紫色の機体が見つからない。

「接近してくる部隊とは別に後方に待機している部隊がいるみたいです。その中にクレイクのビーコンが紛れています」

「そうか……」

 右手首に痛みが走る。心の奥底で焦りと怒りが出てくるのを感じたエルは自分の頬を思いっきり叩いた。

「隊長……」

「大丈夫。もうあんなへまはしない」

 エルは冷静さを保ちつつ、インカムで命令を送る。

「作戦変更。後方に敵の部隊を探知した。そしてその中に奪われた試作機がいる。試作機との戦闘は俺がやる。戦闘せずに後退せよ」

「「了解」」

 エルは作戦を言い終えると操縦桿を握った。

 腰に取り付けられた鉄剣を抜き、接近してくる一機のグリムを叩き切る。

 エルは前に進む衝動を抑え、迫りくるグリムを一機ずつ倒していく。

 横から一機のグリムが巨大な斧を振り下ろしてくる。

 しかし、斧はロードにかすりもせず、斧を持っていたグリムはコックピットを打ち抜かれ、動きを止めていた。

「横ががら空きですぜ」

 インカムからロイドの声が聞こえる。

「馬鹿野郎。お前に手柄を譲ったんだよ」

 エルは操縦桿を動かし、一機ずつ確実にグリムを倒していく。

「イレイ、スラスター。西の方角」

「はい!」

 エルの指示でロードのスラスターが点火。赤い粒子をまき散らしながら左に旋回する。

「うぉら! くたばれ!」

 勢い任せの蹴りはグリムのコックピットを破壊し、横から来るグリムを鉄剣でなぎ倒す。

 最初に来たグリムはほぼ全部片づけた。

 エルには戦いながら疑問が残っていた。

「なぁ、隊長。そろそろ後方の敵部隊が来てもいいころ合いなのに来ないんですけど」

「それは俺も思っていた。明らかに敵の動向がおかしい」

 エルが警戒しつつ、敵の動向を探っていると突然前方から青白く光った。

 すると壮大な爆音と共にブレイブの一機が遠くに吹き飛ばされていった。

 炎をまき散らしながら動かなくなるブレイブを見たエルは一瞬何が起きたのかわからない状態だった。

そこにキキョウの罵声がインカムから聞こえてくる。

「ぼっと突っ立ってないで早く撤退しろ!」

 キキョウの声に我を戻したエルは急いで撤退する。

 しかし、後ろには基地があり、これ以上の撤退は不可能だった。

「くそっ。これ以上は――」

 次の瞬間、無数の爆音が轟き、ブレイブが一機ずつ破壊されていく。

 普通だったら悲鳴を上げて逃げていってもおかしくはない状況だ。

 しかし、全員逃げずにここに立っている。自分の守りたい人を守るために。自分の故郷を守るために全員恐怖に支配されようとこの場に立っている。

 エルもその一人。故郷を滅ぼされて住む場所も金もない自分をキキョウは拾ってくれた。その恩は今でも忘れてはいない。

 エルは格納庫から防弾シールドを二枚ロードの両腕に取り付ける。

「隊長一体何を?」

「今から特攻する。イレイは今すぐロードから降りろ」

「そ、そんな! そんなの死にに行くみたいじゃないですか」

「その通りだ。仲間が大勢助かるなら自分の命ぐらい捨ててやる。だけどイレイだけはそんなことに巻き込みたくない。だから今すぐ降りてくれ」

 エルの後頭部にイレイの全力の蹴りが入った。

「ばっかじゃないですか! そんなことされてうれしがる人なんていません! 隊長が行くなら私も行きます。私を守ろうとすれば隊長も死なないでしょう?」

 イレイがこれまでにもない程の起こった形相でエルを見ていた。

 エルは後頭部を擦りながら苦渋しつつ、やけくそ気味に操縦桿を握った。

「わかったよ! 今更泣き叫んでも知らないからな!」

 ロードのスラスターから出る推力で風を切る速さで後方にいる敵部隊に突っ込んでいく。

『少尉! どこに行くつもりだ!』

 インカムからキキョウの怒声が聞こえる。

「どこって敵の本陣ですよ。誰かが特攻して敵を拡散させないと話になりませんからね。ロードならそれが可能です」

『だからって私の許可なしに……』

「緊急事態だったので――っ!」

 敵の射撃、エルは防弾シールドで防ぐ。しかし、銃弾の衝撃で防弾シールドにひびが入ってしまう。

「マジかよ。たった一発でこの威力かよ」

 ロードは鉄剣を構え、先ほど撃ってきたグリムに向かって振り下ろす。

「うおら!」

 鉄剣はグリムの頭部から胴体まで深々とめり込み、火花を散らしながら動きを止める。

『ああ! もう! 死んだら許さないからね。覚えておき!』

 キキョウからの通信が切られた。エルは帰った後のことを考えつつ、苦笑いをしていた。

 ロードを地面に着陸するとイレイの驚いた声が聞こえてくる。

「あれは、もしかしてDK砲!?」

「あんなものが量産していたなんて。フロウの連中何考えてんの!?」

「DK砲?」

「FPSを流用した兵器のことです。気をつけてください。デストロイキラーって言われる程の化け物銃ですから」

「あれを持っているグリムを優先して攻撃すればいい話だ!」

 エルは長物を持っているグリムの方に操縦桿をきり、優先的に攻撃していく。

ロードの存在に気付いたグリムは腰に取り付けていた手斧を取り出し、斬りつけてくる。

ロードは接近してくるグリムを鉄剣で薙ぎ払い、切り伏せていく。

「ちょっと動くなよ。斬りづらいだろ」

 ロードがグリムをなぎ倒していると後ろからブレイブの部隊が接近してくるのが見えた。

「隊長! 手柄を横取りしないでくださいよ! 俺の分が無くなっちゃうでしょ」

 ロイドの乗るブレイブが対物ライフルを片手に接近していた。

「遅いのが悪いんだろ。ほら、さっさと片付けるぞ!」

「了解!」

 ロイドを含めたブレイブの到着と同時に奥からクレイクが姿を現した。

「姫様……」

 エルは右手首に痛みが激しくなっていくのを感じた。

「ぐぅ。こんな時に」

 エルは心の奥底から怒りが湧き上がる。それにつられてロードも赤い粒子に包まれる。

「落ち着け。落ち着け……」

 エルは深呼吸をして心を落ち着かせる。

「今度こそロードは貰っていく!」

 クレイクがチェーンソーの電源を入れ、ロードに向かって斬りかかってくる。

 エルはもう一枚の防弾シールドで防ごうと弬するもあっという間に壊されていった。

「くそ!」

 ロードはクレイクに体当たりし、地面に倒すと鉄剣を構えた。

「姫様! 今助けます!」

 エルが鉄剣を使ってハッチを無理やり外そうとした時だった。

 クレイクの腰から二本の細長い銃が展開される。

 コックピットに突きつけられるはDK砲。先ほど危機的状況に追い込んだ兵器だ。

「やば!」

 エルは急いで回避行動をとろうとする。

 青白い光が画面全体に輝く。とても避けれる距離ではない。

――せめてイレイだけでも!

 エルは後ろに座っているイレイを庇う様にして目を瞑って抱き着く。

 次の瞬間。大きな衝撃がコックピットを大きく揺らしていく。

 揺れが収まるとエルはそっと目を開ける。

 自分がなぜか生きているのか疑問に感じながらもメインカメラを見た。

 そこにはクレイクのDK砲を受けたロイドのブレイブは目に見えた。

「ロイド!」

「ロイドさん!」

「だい……じょうぶ……ですか隊長……イレイちゃん……」

 エルはロードを起き上がらせるとロイドの元に向かった。

「何で……俺なんかを」

「はは、何ででしょうね。……美女でも何でもない隊長を守るなんて……俺どうかしたんでしょう」

 ロイドの擦れ擦れの声を聞いたエルは涙を流しながらロイドの乗るブレイブを抱き上げる。

「ふん。戦場で涙を流すなんて愚の骨頂。さっさと死になさい」

 クレイクがロードに向けてチェーンソーを構える。

 そこにカレンの乗るブレイブがシールドの先を使って思いっきり殴りつける。

「邪魔をさせるかぁ!」

 カレンの涙交じりの攻撃にクレイクは体制を立て直す。

 カレンがクレイクを抑え込んでいる間にエルはロイドの話に耳を傾けた。

「隊長。俺の生きた証を渡します。隊長と共に生きさせてください」

 ロイドの乗るブレイブは対物ライフルをロードに差し出す。

 エルはロイドからライフルを受け取った。

「へへ、最後は女の傍で死にたかったなぁ」

 大事な仲間を。部下を。そして本音をぶつけられる大親友の最後をエルは見終えた。

「ロイドさん……」

 後ろからイレイの涙交じりの声が聞こえる。

 フロウはエルから全てを奪っていく。

故郷も、姫様もそして仲間も。

 エルの心は怒りと悲しさに染まっていく。

――全部全部。フロウの連中は奪っていく。お前らが俺の全てを奪い去る。

 右手首には激痛が起きるも無視した。

 悲しくて辛くて苦しくて、憎くて悔しくて。

 エルは様々な負の感情を乗せて思いっきり叫んだ。

「があああぁぁぁぁぁ!」

 エルの叫びと同時にロードの閉じられた顎は今開かれる。

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