第14話信頼

 エルが目を覚ますと自室のベッドで寝ていることに気付いた。

 近くには作業着を来たイレイがノートを二着閉めながら椅子に座って船を漕いでいるのが見える。

「イレイ? 俺はどうして」

 体を起こしたエルは鼻に詰められていた紙に気付き、ついさっきの出来事を思い出す。

「そうか、俺は倒れたのか」

 エルはそう言ってイレイの体を持ち上げた。

 安らかに寝息を立てるイレイを抱き上げ、エルは起こさない様に01小隊の部屋に向かって行った。

ドアノブを捻り、部屋に入ると眠そうな顔で小銃の手入れを行うロイドがいるのに気づく。

「なんだ。起きてたのか」

 エルがイレイをベッドに寝かしつけると欠伸をしながら部屋を出ようとする。

「俺ら仲間ですよね?」

 唐突にロイドに話しかけられたエルは疑問を感じつつもロイドの方に振り向いた。

「当たり前だろ。急にどうしたんだよ」

 ロイドはため息をつきながら手入れを終えた小銃をテーブルに置いた。

「なら隠し事はやめましょうよ。隊長が迷惑をかけまいと一人で抱え込むのは知っているけど、仲間なんだから抱えている事ぶちまけましょうよ」

 ロイドはそう言ってベッドの下からワインの瓶と紙コップを取り出した。

「さっきイレイちゃんがコスプレして来たのは多分隊長を励ますために恥ずかしがりながらもやった行動だったと思うんですよ。だからせめてイレイちゃんにだけでも話したらどうです?」

 ロイドが紙コップに並々注いだワインを差し出す。

 エルが紙コップを受け取り、水面に浮かぶ自分の顔を見た。

 そこには疲れ切っている自分の顔が写る。

――こんな顔してたのか。これじゃ、誰でも心配するよな。

 エルは相手の心を傷つけてしまうと常に考えてしまい、自分の心境を他人に言えずにいる。仲間だからこそ言えないこともある。

 特にイレイは大切な存在だ。自分のことで悩んでほしくないと思い、隠し続けていたのだが。

――イレイに何度も心配かけてる。でもこれ以上心配かけたくないんだよ。

 エルは自分の右手首に巻いてある包帯を見た。

 包帯の奥に隠された謎の赤い亀裂。こんなものをイレイに見せたらイレイは絶対自分のせいにする。それがエルにとって絶対に許されないことだ。

「まぁ、素面で言えないこともあるでしょうから飲みましょうよ。飲んでぶちまけましょうぜ」

 ロイドが自分の為に酒を勧めるのを見てエルは申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

――話してもいいのだろうか。

 エルが自分の心境を話そうとした時だった。

 部屋中に響き渡る敵の接近を告げる警報音。

 エルは紙コップをテーブルに置いた。

「ロイド、まずは敵を片付けよう。話しはそれからだ」

「りょーかい」

 ロイドが微笑を浮かべながら紙コップをテーブルに置いた。

 警報音で飛び起きたカレンとイレイは眠気に抗いつつもすぐに支度した。

「よし、01小隊出撃するぞ」

 エルは後ろを振り返って部屋を出た。

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